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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第一章:狙われた銀姫―FirstStrike-
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8.生殺の剣

――貴様は生きたいか?


 生きたくない。


 聴こえた言葉に“僕”は迷わず告げる。


 真っ暗な闇の中、自分の体の感覚がない。


 死ぬというのがこういうことをいうのだろうかと思う中で声が響く。


 小さな、冷たい声。


――貴様は生きたいか?


 それがもう一度響く。


 生きたくない…それよりもなっちゃんを助けてあげてほしい。


――それはできない。奴は選ばれたからな。だから貴様を妾は助ける。他の有象無象などどうでもいい。


 要らない。


 助けなんかいらない。


 僕を助けるよりも彼を、なっちゃんを助けてよ。


 なっちゃんに生きて欲しい!


 どうなっても僕は構わないから。


 そんなことを言いながら頭の中では自分の言葉に驚く。


 思えばここまで誰かのために動こうとするのははじめてだった。


 家族以外。いや、家族よりもなっちゃんのことを大切に思っている。


 はじめてできた親友だから、家族よりも大事に思う存在。


 だから。


 彼が助かるのなら僕はどんなことにでも手を染めてやる。


――面白い。


 声は嗤う。


 訊いているだけでぞっと背筋が凍りついてしまう声が囁く。


――ただの駒として生き返らせようとしたが気が変わった。死を受け入れた貴様がどのような道を歩むのか。また、あれと対峙した時どのような選択をとるのか、興味がでた。


 暗闇から白い手が伸びる。


 染み一つない綺麗な手、それを恐ろしく思うのは本能的な部分からくるのだろう。


 その手から逃れようとするが絡みついて離れない。


 白い手から何かが渡される。


 それは手から体内の血液、心臓を通して何かがしみ込んでいく。


――この国から貴様のことを観させてもらおう。再びここ来た時、お前がまだ死にたいと望むのか。違うことを告白するかたのしみだ。あぁ、楽しみだよ。さぁ、受け取れ。




















――妾の力を、全てに等しく終わりをもたらす力で全ての魔を滅ぼせ。


















「ぐっ…くそ、あの野郎」


 意識が覚醒する。


 瓦礫を押しのけて這い上がる。


 咄嗟に雷切を盾にしたことで致命傷は避けられたようだ。


「(光の斬撃…奴の攻撃だろうな)」



 あの顔を思い出した途端、イライラが増す。


 人の邪魔をしやがって、忌々しい。


 悪態をつきつつ体をチェックする。


 運よく骨は折れていない。


 雷切は攻撃で落としたようだが…あった、少し離れた地面に突き刺さっている。


 もたつく足を無理やり動かして雷切へ向かおうとした俺は目を見開く。


 少し離れた所に水崎姫香ともう一つ。


「あれ…は」


 そんな、馬鹿な。


 奴がなぜ、ここにいる!?


 目は空に浮いている白い奴を外すことができない。


 忘れるわけがない。


 あの日、俺と親友を殺して全てを奪い去った敵。


 白い奴は動かない水崎姫香へ近づいていく。


 アイツが何をするのか。


 それを考えた時、体を貫かれた親友の姿がフラッシュバックする。


「…また、か」


 ギリリと拳を作る。


 それだけの動作で掌の肉に爪が食い込み、血が流れていく。


 あの日の光景が脳から焼き付いて離れない。


 白い奴は触れ合える距離にいて、水崎姫香は逃げようとしない。


 状況が酷似していた。


 なっちゃんがアイツに殺される瞬間と。


 奪われる。


 そう考えた時、俺の中でどす黒い感情が爆発する。


――イマ、だ。


 意識が奴へ向いていたことで俺は油断していた。


 左手が勝手に動き出す。


「しまっ」


 止める暇すらなく左手に物を掴んだ感触が伝わる。


 掴んだモノを確認することなく地面へ振り下ろす。


 それはまっすぐに白い奴へ向かい、奴の体を切り裂く。


 黒い炎に体の半分を焼かれて奴は水崎姫香から離れる。



















「そいつに…近づくな」



















 地面を蹴る。


 白い奴へ刃を振るう。


 斬撃を躱すと翼をはためかして空へ逃げる。


 距離が開いたことを確認して水崎姫香の前に立つ。


「夜明く、ん?」


「そこから動くな。お前は俺が守る」


 そうだ。今度こそ守るんだ。


 俺はなっちゃんの時と違う。


 力があるんだ。


 左手の中にある剣へ視線を下す。


 この世に存在することを許されない最も恐ろしい力。


 刀や剣というのは本来人を殺すためのものであるが、一部で美術品と扱われている部分がある。


 だが、俺が作り出すものはそれらとは大きく異なる。


 柄と刃をつなげる部分もない、刃は真っ直ぐではなく歪な形。


 闇色に輝く最恐の力。


 俺の持つもう一本の剣名を――伊弉冉〈イザナミ〉――。


――死ね。


「ぐっ!?」


 剣を手にすることで頭へ大量の言葉が流れ込む。


――死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。


 負の感情に体が悲鳴を上げる。


 剣を握る手が漆黒に染まっていく。


 俺の持つ伊弉冉は使用者に呪詛のような言葉をささやき続ける。


 以前、他の人間が実験として伊弉冉を使おうとしたが数秒で発狂に陥った。


 流れていく言葉は止まることを知らず頭から全身を駆け巡る。


 常人なら耐えることのできない負の波。


 多くの使用者の命を奪ってきた最悪の剣、それが伊弉冉だ。


 それを俺は使う。


 漆黒の剣を構えて白い奴を睨む。


 白い奴は緑色の液体を流しながらも顔を歪めて俺を見下ろしている。


「地面に引きずり落としてやる」


「ウセロ」


 空を駆けるようにして白い奴が拳を繰り出す。


 普通の人間なら捉えることのできない速度。おそらく雷切を使っていた時の俺なら対応できなかっただろう。


 しかし、伊弉冉はその上を行く。


 剣の側面で拳を受け止める。


 衝撃で足元が少し陥没する程度で済んだ。


 いける。


 俺は一撃を受けて確信する。


 伊弉冉の力なら奴を殺せる。


 コイツを殺して復讐を果たす!


 笑いながら伊弉冉を振り上げる。


 奴は躱そうと動くが遅い。


 漆黒の刃が翼を切り裂く。


 片翼から緑色の血が噴き出して白い奴が声にならない悲鳴を上げる。


 右手で斬られている翼を掴む。


 勢いよく引きちぎる。


 緑の血が顔にかかる。


 引きちぎった翼を放り投げると奴は地面に膝をついていた。


「いい気味だ」


 嘗ては俺を見下ろしていた奴が地についている。


 何だろうかいい気分だ。


「お前は覚えていないだろうが俺は一日たりとも忘れたことはない…よくも、俺の親友を奪ったな。よくもすべてを奪ってくれたな」


 剣を奴の肩へ突き立てる。


 ぐりぐりと刃を抉るように動かす。


 奪われたものを取り返す。そして奴らの大事にしているものを奪い取る。それが俺の復讐。


 俺が今まで生きてきた目的。


 伊弉冉を深く刺す。


「命を奪え、伊弉冉」


 伊弉冉は生を奪う力がある。


 刃が触れた存在の命や存在を吸い取ることができる。


 伊弉冉は奴の命を吸い取っていく。


 最初は抵抗していたが命が減っていくことで動きが鈍くなる。


 そして、白い奴は死んだ。


 呆気ない最後だった。


 伊弉冉を引き抜いて奴の首を斬りおとす。


 すると体が灰となって消滅する。


「倒した、の?」


 振り返ると水崎姫香がゆっくりと近づいてくる。


「倒した」


 伊弉冉を仕舞う。


 頭で叫んでいた言葉が嘘のように静まり返る。


 どっと疲労がやってくるがまだ倒れるわけにいかない。


 やることが残っている。


 水崎姫香は自らの服をめくって体を見ていた。


 浮かんでいた刻印は消えていた。


「…消えている。本当に、倒したんだ」


「あぁ」


「そっか、ほん…とう、に」


 声にならない感情が渦巻いていることはわかった。


 だが、何と声をかければいいのか。


 俺ができることはただ傍で立つことのみ。


「夜明君、私は、これから、どうしたらいいのかな?」


「…これから?」


 何を言いたいのだろう。


「ずっと、魔物に殺されることが終わりだと考えて生きてきた。でも、今は魔物がいなくなって私はどうすればいいのかな?何のために生きたらいいのかな」


「甘えるな」


「…え」


「誰かに目的を与えてもらえないとお前は生きていけないのか?誰かにこうしろと言われたらお前は生きていけるのか?ふざけるな。生きる目的がない?自分が生きることに理由がいるというのなら、自分の為に生きろ。誰かに重荷を背負わせようとするな」


「夜明君は、強いね」


「弱いままでいるつもりはない。俺は強くなる」


「私も、強く、なれるかな?」


「それはお前次第だ」


「天邪鬼だね。こういう時は優しい言葉をかけてくれるものだと思うけど?」


「なんとでもいえ…俺は弱いままでいない。強くなる。誰にも、何も奪わせない」


「本当、強いなぁ」


「…だから」


 懐から細長い機械を取り出す。


「余計な重荷を背負うつもりはない」


「え、それは」


 呆然としている彼女の視界は光に奪われる。


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