7.使徒覚醒
「はぁ…はぁ…くそっ」
俺は汗を拭いながら兵士級を斬る。
断末魔すらあげず灰色の残骸を残して消滅する。
最後を確認する前に別の兵士級へ雷切を振るう。
今で何体を倒しただろうか?
五十体を倒した辺りで数えることを放棄してしまった。
鮫の女王との距離は開くばかり。
それに対してぞろぞろと兵士級は現れる。
時間と体力ばかりが奪われていく。
雷切で奴らを倒すことは無理なのだろうか?
――あれを使え。
そんな考えが一瞬過りつつも雷切を振るう手をとめない。
体の熱を吐き出すように叫ぶ。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!」
気迫に押されるモノがあったのか兵士級が動きを止める。
そのまま兵士級の懐へ入り込み、雷切を横なぎに繰り出す。
動きを止めていた兵士級のほとんどが刃の餌食となる。
「全部…」
全部、
全部、全部、全部、全部、全部!
「潰してやる!」
俺の邪魔をする者。
俺の道を阻む者。
気に入らない者。
大切なものを奪おうとする者。
ーー全てを、俺は!!
「夜明君!」
大きく踏み出そうとしたところで足を止めてしまう。
好機とみて兵士級の繰り出す攻撃をいなして雷切を地面へ突き立てる。
雷の柱で兵士級を弾き飛ばした。
振り返った俺は限界まで目を見開いていただろう。
壊れた遊園地の入口。
そこに水崎姫香がいた。
走ってきたのだろう。
彼女の服は汗でびっしょり、呼吸も荒い。
そんな姿を視認できるほどの余裕ができていた。
戸惑いながらも走る。
水崎姫香に気付いた兵士級が攻撃の矛先を変えた。
狙いは彼女。
身近の兵士級を蹴り飛ばし、彼女へ近づこうとした敵を一蹴する。
「夜明…君」
「何故きた!!」
喋ろうとした彼女を遮るように大声で叫ぶ。
怒りが脳を支配していた。
なぜ、ここへきたと。
自分が狙われている自覚がないのか?
お前がいたらアイツに食われるんだぞ!?
怒鳴れたことで彼女はびくぅとすくむ。
「その、よ、夜明君と話を」
「馬鹿か!そんなことができる状況か!?」
流石の俺も平常でいられる余裕はなかった。
女王の獲物が現れたことで兵士級の数が増加する。
倒してもきりがない。
指先の感覚がなくなってきている。
このままじゃ、マズイ。
雷切を振るって敵を倒し叫ぶ。
「敵がうるさくなってきた。ここから逃げるぞ」
近づこうとした兵士級の頭を地面へ叩きつける。
「夜明君。その、私」
「喋るな」
何かを言おうとした水崎姫香の腕を掴む。
「ここから離れる。何かあればお前は」
最後までいうことはできなかった。
眩い光が俺達へ迫る。
咄嗟に水崎姫香を突き飛ばす。
驚いている彼女の顔を見ながら俺は光へ飲み込まれてしまった。
意識を失っていた金城秋人は体を起こす。
体の節々が痛む。
どのくらいの時間が過ぎたのかわからない。
秋人は体を起こして聖剣を手に取る。
あの黒い奴がいない今がチャンスだ。
選定の剣≪カリバーン≫を構えて力を込める。
黄金の輝きが暗い空を照らす。
右足を前へ大きく踏み出す。
このまま魔物を滅ぼしてしまう。
兵士級の出現からしてかなりの時間が過ぎてしまっているようだ。
こうなれば早急に手を打つ必要がある。
――聖剣の奥の手を使う。
組織になるべく使わないようにと釘を刺されてきていたが状況が状況だ。
許されるだろう。
何より自分は英雄だ。
魔物を倒すことは正義の味方として当然の事。
町を破壊する理由にならないが奴をのさばらせることも許されない。
ならば、一撃で葬り去るのみ!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
秋人は輝く剣を振り下ろした。
剣先、聖剣から放たれた光は真っ直ぐ眉に包まれている魔物へ向かう。
聖光一閃≪ホーリィーブラスト≫は幾多もの敵を屠ってきた。
魔物の嫌う聖なる光を存分に含んだ一撃に生き残ってきたものはいない。
女王級といえど耐えきることは不可能だ。
これで繭に包まれている魔物も終わりだ。
――そのはずだった。
光が当たる直前、黒いモノが噴き出して攻撃を消し去る。
突然の事態に秋人は動揺を隠せない。
その隙をつくようにして繭を壊し白い影が現れる。
魔物、と考えて聖剣に力を込めようとするがその姿を見て息をのむ。
初見で言葉にするなら天使が合うだろう。
漆黒に染まっている空を浮遊するソレは全てが純白。
体の凹凸がなければ女だとわからなかった。
背中から空へ伸びている二枚の翼。
穢れのない白い姿に秋人は呆然としていた。
赤い瞳と目が合う。
ぞくりと秋人の体が凍り付く。
瞳は何の感情も映していなかった。
だからこそ、秋人は恐怖したのかもしれない。
マイナスの感情に支配された秋人は聖剣を繰り出す。
魔物ではないかもしれない。
もしかしたら、仲間という考えも浮かんだのにあの瞳を見た瞬間。思考の全てを放棄して攻撃へ転じた。
繰り出した剣が白い皮膚を切り裂く。
――瞬間、秋人の体から鮮血が飛び散る。
「……ぇ?」
何が起きたのか理解できない。
斬った瞬間、自分が斬られた。
体から流れ出ていく血をみつめながら秋人は地面へ落ちていく。
落下して意識を失う直前まで何が起きたのか理解できなかった。
水崎姫香はゆっくりと目を覚ます。
周囲は瓦礫や残骸ばかりで遊園地としての原型は保っていない。
彼女は巨大な瓦礫の一つにもたれるようにして倒れていた。
「えっと、確か」
自分は何故ここにいるか、曖昧な記憶がすぐにはっきりしてくる。
魔物と戦う宮本夜明と会うためにやってきた。
彼ともう一度と話をするべく。
「あれ…」
そこで姫香は気づく。
――彼がいない。
宮本夜明の姿がないことで周りを探す。
見つからない。
どれだけ探しても宮本夜明の姿がないことで心配する。
「それにしても」
さっきの光は一体なんだったのか。
「ミツケタヨ」
聴こえた声に姫香の体が強張る。
動かない理由はわからない。
気づけば体が自分の意思を離れていく。
魂だけが牢獄に閉じ込められているような感覚。
動けない彼女の前にゆっくりと白い姿が降り立つ。
全身が白く辛うじて人の姿を保っている。
背中に伸びる白い翼。
まるで天使のような姿だが無表情と赤い瞳が神々しさを損なわせている。
「ワタシハシト」
陶器のように白い指が伸びてくる。
「オマエヲショクス」
その言葉で姫香は理解する。
――食す。
目の前にいる相手は天使じゃない。魔物、しかも今の自分を作り上げたあの魔物だ!
姫香はあまりの恐怖に逃げたい気持ちに駆られる。しかし、体は持ち主のいう事をきかない。
動きを封じられている彼女は気づいていないが埋め込まれている刻印が服越しでわかるくらいに不気味な光を放っている。
自分に刻印を記した相手はどんどん距離を近づけてきた。
数分も経たず肌と肌が触れ合う距離にいる。
白い唇が何かを喋っているが聞き取れない。
意識が朦朧とし始める。
何かがどんどん奪われていくような感覚に支配されていく。
水崎姫香という存在が別の――。
唐突に彼女の意識が覚醒する。
混乱しかける彼女だったが目の前にいた白い存在が離れている。
全身が白かったが体の半分が黒に染まり、地面へ緑の液体が零れていた。
赤い瞳は忌々しいものを見るように姫香の前にいる人物を睨んでいる。
漆黒の剣を手にした宮本夜明を――。
次回くらいでこの話は終わります。




