75.謎の生物
久しぶりの投稿ですいません。
不定期続きますが頑張っていきます。
「まさか黒土さんの予想通りになるなんてね~」
剣山第一高等学校から少し離れたところにあるビル。
その屋上、スコープで校内の様子をうかがうノノアに来駕は同意する。
二人とも普段の戦闘服ではなく青い作業服を着ていた。
どこで使徒の配下がいるかわからないため、屋上を掃除するためにやってきた人間の振りをしているのだ。
「それにしても、夜明の情報がどこで漏れたんだろうな?」
事の始まりは昨日の夜。
夜明が輸送機で旅立った後、黒土から二人へ連絡が来たのだ。
『使徒が彼の通う学校を襲撃するかもしれない。そこでキミ達に監視をしてもらいたいんだ』
二つ返事で受けた二人を待っていたのは黒土の言葉を裏付ける騒動だ。
校舎内にいた生徒を一か所へ集めていく白服の集団。
そして、
「いるね。使徒」
「あぁ」
遠くからはっきりと確認することはできなかったが集団の中で一際、放っていた圧倒的な威圧感。
対峙したら今の倍以上のプレッシャーが襲い掛かるだろう。
あれは使徒だ。
だからこそ、来駕とノノアは慎重に動く必要がある。
ふと、ノノアが周りを見た。
「そういえば、キリノちゃんはどこにいったんだろ?」
「え?そこに……」
後ろを振り返る。
先ほどまでいた小さな少女は影も形もない。
「おいおい、どこにいったんだ?」
「もしかしてさぁ、お兄さんに会えると思って学校に行った……なんてことないよね?」
「……ありえるな」
キリノは夜明とついていきたいと一日、泣きじゃくった。
どのような騒動があるかわからないため、来駕とノノアに面倒を夜明は頼んだ。
今まで大人しくしていたが、二人からみて明らかに機嫌が悪かった。
少し前まで当たり前のように殺人を犯していた少女だ。
夜明がいないからと人を殺しに行くのではないかと危惧していた。
「夜明がしっかり教育しているから、そんなことしないだろ?仮に俺達のように殺しが染みついているとしても」
キリノは親から殺しの技術を仕込まれた。
夜明と出会う前は殺人鬼として世間を騒がせたほどの人物。
そんな少女が再び殺しを始めたとすれば、相当な数の人間が命を落とすだろう。
しかし、それはないと来栖来駕が考えている。
自分達が覚悟をもって殺しの世界に入ったのと同じで夜明と出会ったことでキリノは理由なき殺しはしない筈。
確かな覚悟はないかもしれないが、夜明の嫌がるようなことはしない。
根拠のない理由だが、それだけははっきりとわかる。
「もしかしたら」
ノノアはある仮説を立てた。
「お兄さんのいる学校で悪さをしようとしている人を始末するのかもしれないよ?ほら、あの子はお兄さんのことが大好きだから、頑張れば褒めてもらえるって」
キリノは純粋な子だ。
親の言いつけを守る素直で優しい子。
肝心の親が命を落としても言いつけを守り、人を殺し続けた。
「だから、あの学校の敵をすべて殺すんじゃないかな?」
「おいおい、早めに対処考えないととんでもないことになるぞ」
キリノの実力は自分達と同じくらい、もしくはそれ以上の力を持っている。
配下の敵など相手にならない。
だが、使徒と戦うことになったら。命のやり取りは覚悟しなければいけないだろう。
もし、キリノが使徒と戦って殺されたとなったら夜明は悲しんでしまうことは想像できる。
「仕方ない、強行突破するか」
「おー、過激だねぇ。でも、今回は賛成だね」
来栖の案にノノアも頷く。
二人は作業服から一瞬で黒の騎士団の戦闘服を纏う。
「というわけで、突撃は任せる」
「はいはーい、待っていてねぇ!キリノちゃん」
手を挙げてノノアはレイピアを取り出す。
来栖も武器を取り出して走る。
ビルの屋上から飛び降り、民家の屋根を飛びながら校門を飛び越えた。
校門を超えたことで侵入者に気付いた白い服の一人が武器を向けるが。
「遅い」
着地する際に手斧を来栖が振り下ろし、その命を奪う。
事切れた白い兵士から武器を手に取り、周りを見た。
「どうやら、兵士が少ない場所に降りたみたいだな」
「さて、どうする?人質がたくさんいるからそれの解放も考えないといけないけど」
「頭をつぶせばなんとかなる……といいたいが、まずは建物の周辺を調べるか……と?」
二人は頷いて校舎の中へ入ることにした。
「とりあえず、手短に窓から入ることにしようか」
ノノアは近くの窓へ手を伸ばす。
「待て」
来栖がその手を止める。
彼の目は険しい表情で窓のカギをみていた。
「どうしたの?」
「いやーな予感が的中したよ」
来栖はそういうと大きな音を立てて窓を開ける。
「うわぁお」
中を覗き込んだノノアも驚きの声を上げた。
窓の中、そこは保健室だろう。
室内には無数の弾痕と血が飛び散った痕のようなもの。
そして。
「にぃしぃろく……これまた結構な数がここでくたばっているみたいだな」
室内に転がる白衣の集団の死体。
全員が事切れており生存者はいなかった。
「それにしてもこれは凄惨だねぇ」
室内へ足を踏み入れる二人。
ぐじゅぐじゅと靴底に伝わってくる感触にノノアは顔をしかめた。
「これ、人がやったの?」
「さぁな」
目の前に広がる人だった者たちの残骸を見て首を傾げることしかできない。
「人がやったにしてはかなり無惨というか、むごたらしいな」
「それって同じ意味じゃない?」
「……さて、室内でも探しに」
廊下へ出た二人の耳に悲鳴が聞こえてくる。
少しばかり距離はあるが男の悲鳴だ。
「行こう!」
「あぁ」
「くそっ、なんだよ、これぇ!」
「……走れ」
風祭勇吾は少女を背中に乗せて全力で廊下を走っていた。
屋上から外へ抜けようとしていた勇吾だが、途中で少女と出会った。
キリノだ。
彼女は夜明のいる学校をなんとかするべくやってきていた。
その途中で逃げようとしている勇吾を捕まえる。
邪魔だから無視しようと思ったのだが夜明の友達である彼を放置しておけば彼が悲しむと判断して助けることにした。
キリノはすぐに後悔する。
彼を助けた直後に廊下を徘徊していた奇妙な生き物と遭遇したのだ。
いつものように殺そうと思ったのだが、コイツの前で武器を取り出すのは問題だと考えて逃げることにした。
そんな勇吾は時々、後ろを振り返る。
廊下一杯に広がる土色の肉の塊をした不気味な生き物。
芋虫のような姿をした怪物は口らしき部分からボタボタとよだれをこぼしながら追いかけてきている。
「なんなんだ、これは!?魔物かなんか?」
「知らない」
「というか、なんで俺はキミを抱えて走っているんだよ!?」
「喋っていると体力を使うだけ」
「わかって、わかっているけれど!!」
少し呼吸が乱れながら勇吾は走る。