74.閉じ込められた者達
ハーメルンの方で活動ばかりしていました。
この話も不定期ですが、頑張ります。
「(なーんか、騒がしいなぁ)」
風祭勇吾は屋上で授業をさぼっていた。
他の生徒達みたく真面目に授業に取り組むつもりはない。
勉強は最低限できればいい。後は自分を鍛えることだけを考えていればいいという考えの持ち主だ。
勇吾の両親はレーサーだ。
ただのレーサーではなく世界各国のグランプリを駆け巡り賞金をかっさらっていっていたという。
幼いころに一度だけみたことがあるが、手入れのされていない道を直観と技術で突破していく姿とても刺激的で、小さいころから彼はレーサーになることを決意していた。
そんな両親をみて育ってきた事で勉強よりも自身を鍛えることを第一としてきた。勉強などある程度、やっておけばあとは応用でいけるのだという両親の後押しも原因かもしれない。
――勉強なんて二の次、体を鍛えてレーサーになる!
勇吾の考えを聞けば幼馴染である高峰類は激怒するだろう。
真面目、優等生な類は不真面目な部類の勇吾に少しでも授業を受けてほしいと望む。
やる気のない勇吾からすれば拒否したいところだが、幼馴染で好意を持っている類からの願いを踏みにじることはできない。
勇吾は精一杯、生きている人間が好きだ。
類は複雑な家庭問題を抱えているが真っすぐに生きている。そんな彼女が自分を心配してくれることに嬉しく思う。
――類は捨て子だ。
幼いころに家の外へ捨てられていたらしく、育ててくれた両親に恩返しをするためにも返還不要の奨学金を取得するため、常に成績トップであり続けている。
将来は勇吾と違って決めていないそうだが両親への恩返し、そのために生きていると彼女はいつも言う。
真面目な彼女を素直に称賛するが適度な息抜きは必要というのが考えだ。
勇吾は息抜きと称して度々、授業をボイコットして休憩をしている。
そんな彼に最近、親しい友達ができた。
――宮本夜明。
類と彼女の友達、水崎姫香と遊園地に行った時に知り合った男子だ。
白髪で何を考えているのかわからない奴というのが最初の印象だが、ただ単に感情を表すのが不器用な良い奴というのが宮本夜明だと勇吾は知った。
どういうわけか彼は不良というレッテルを貼られてクラスで嫌悪されている。
曰く、不良で毎日、人を殴っていないと落ち着かない。
曰く、金を巻き上げてそこで危ない店に通っている。
曰く、女なら年齢問わず手を出す鬼畜な人間。
一度、自分のクラスへやってきた夜明をみて、周りの連中が近づかない方がいいと警告してきたほど、彼に対する印象は悪く、良くない噂も広がっていた。
しかし、勇吾はその噂や警告を無視した。
最初の印象はよくなかったが、何度も接するうちに彼が良い人間である事を知っている。
そんな自分が急によそよしくなれば夜明に失礼だ。
――何より、自分はそんな自分を許さない。
時々、こうして彼と授業をボイコットしていたが、隣にその友達はいない。
なんでも家の事情でお休みらしい。
残念だ。
授業にあまり興味がない夜明とこうしてサボっていることが新たな勇吾の楽しみになっている。
――類と見舞いにでもいくかな?
ついでに部屋で色々と漁ってみよう。もしかしたら怪しい本が出てくるかもしれない。
いや、それはないな。とすぐに勇吾は否定する。
宮本夜明の傍には西條吹雪という彼女がいた。大和撫子のような外観ながらどこか薄ら寒い何かを感じさせる少女。
彼女の言い分によると夜明と付き合っているらしい。夜明本人は否定しているが仲睦まじい姿は否定できる材料にならなかった。
「あー、うっせぇなぁ」
昼寝を満喫していた勇吾は外が騒がしいことに気づく。
普段なら気にせず昼寝をしているのだが、時々、悲鳴らしきものが聞こえてくる。
勇吾はのそのそと動き出して下をみる。
生徒達が頭に手をのせてぞろぞろと廊下を歩いていた。
そんな彼らを先導するのは白衣を纏った連中。
「(おいおい、マジかよ)」
下をのぞき込んだ勇吾は息をのむ。
いつの間にか、学校の校門や廊下の至る所に武装した集団が立っていた。
それだけではない。全員がどこかのカルト集団のように白衣を纏っている。
武装した連中が教室から生徒達を連れ出してどこかへ誘導している。
明らかによくない状況だ。
もしかしたら最近、ニュースとかで話題になっているテロリストかもしれない。
懐から携帯を取り出して警察へ通報する。
しかし。
「は?圏外?」
携帯のアンテナ部分に表示されている場所は『圏外』だった。
ここは電波状況が普通に良い。
それなのに、どうして圏外が起こっているのか。
すぐに勇吾は察する。
連中が電波を妨害、遮断する機械を設置している。それがなくならない限り警察へ通報することができない。
「とにかく、連絡できる場所へ」
「よぉ、何してんだぁ?」
「へ?」
後ろから聞こえた声に勇吾は振り返る。
扉が開いた音はしなかった。
気配すらなかった。
いきなり声が聞こえたことに勇吾は戸惑い、その場から離れる。
彼の直感は自らの命を救った。
離れた直後、勇吾の心臓部分があった場所に刃が突き刺さる。
「ちっ、運が良い餓鬼だぜ」
振り返ると勇吾のいた場所に白衣を纏った男が剣を手にしていた。
その剣がコンクリートの一部を削り取っている。
「ほ、ホルダー!?」
「そんなものと一緒にするな。俺はいずれ使徒のひとりとして名前を刻むんだからよぉ」
手の中にある剣を振り回して男は厭らしい笑みを浮かべる。
勇吾は剣をみて、削れた屋上の一部を見てゾッとした。
もし、直感に従って逃げなかったら自分がどうなっていたか。
ありえた未来を想像して震えあがる。
勇吾の心境に気付いたのか、もともと残虐性があったのか剣先を向けて微笑む。
「安心しろ、じりじりと甚振るように殺してやる」
「ざっけんな!それのどこに安心できる要素があるんだよ!?」
叫ぶ勇吾だが男は耳を貸さない。
「まずは頭を、いや、そうすると悲鳴を聞くことができないな。まずは手足をギリギリのところで切り裂いて、ゆっくりと指を潰して、それから腹を掻っ捌くとしよう。中の臓器はどんな色をしているだろうか、前の奴は――」
それどころかどこを潰すか、ぶつぶつと呟いている。
男の言葉から猟奇的な思考の持ち主であるということが分かった。
「まぁいい、とりあえず足を切り落とすことにしよう」
「うぉぉ!?」
考えをまとめた男は勇吾に迫る。
振り下ろした剣の狙う場所は勇吾の両足。
宣言通り、足を切り落として逃走を阻止しようというのだろう。
迫る狂剣を前に勇吾がとった行動は。
「ジャンプして背後に回り込む!!」
繰り出された剣を躱すように跳んで後ろの給水塔がある梯子に飛び移る。
「逃がすかぁあああああ」
男は構えなおして振り返る。
そんな彼の視界に白いスニーカーが映った。
「あ?」
間抜けな声を上げて男はのけ反る。
給水塔から飛び降りた勇吾のキックを受けて大の字で地面へ倒れた。
脳を揺らされたのかすぐに起き上がる様子がない。
ゆっくりと近づいた勇吾は男の手の中にある剣を奪う。
「重たいな……本物かよ」
手の中に感じるずっしりとした重み。
先ほどまで殺されかけたことからもわかっていたが奪った武器は本物だった。
「こんな奴がうろちょろしているのか?」
もう一度、勇吾は屋上から校舎内を見る。
白い服の連中が武器を構えて生徒達をどこかへ誘導していた。
とても危険な状況下なのだが、自然と勇吾は顔に笑みが浮かんでいる。
ドキドキと心臓が音を立てていた。
この音は不安と恐怖などというものではない。
「すっげぇ、面白そうだ」
彼は興奮していた。
この状況に。
高峰類は目の前で行われている光景に言葉を失っていた。
授業を受けていた彼女達は武器を構えた白服の集団が乱入、有無を言わせずに体育館へ連行される。
その際に屈強な体育教師や正義感の強い生徒がこっそりと抵抗や脱出を試みたが鞭を持った女性によって一撃で倒されていた。
――抵抗は許さない。
リーダー格の女性はそういうと逃げようとした者達、抵抗した連中を連れて、体育館の壇上へ立たせていた。
「全く、あれだけ暴れているのですからこういうところでも活きというものをみせてもらいたいですわぁ。もしかして、その場の勢いだけで反抗しました?逃げようとしました?所詮、その程度の覚悟というわけですね?あぁ、つまらない。本当に!つまらないですわ!」
バチン!と乾いた音が響く。
続いて男や女の悲鳴が続いた。
類は目の前の光景から逃げたい。しかし、周りの集団がそれを許さない。
「さぁ、もっと大きな声を出しなさいな!この程度の正義感でしたの?貴方達の持っている心の強さを見せてごらんなさい!ほら、ほら、ほらぁ!観客席にいる皆さんも!ちゃんと目に焼き付けておくのですよ?私たちのような正体不明の連中に果敢に立ち向かい、敗北した哀れな負け犬達の姿を!逆らえば、貴方もこうなるのだということをお忘れなきように!!」
楽しそうに笑う女性の言葉に生徒や彼らを守るべき教師達すら言葉を失っている。
――見せしめ。
目の前の光景を見て類は察した。
女性の言葉の中には「逆らったらこうなる」、「お前達みたいな力なきものが私に逆らうな」という感情が籠められている。
勿論、黙っている生徒達は理解しているだろう。
それよりもさらに奥、女性の心のうちをみていた。
楽しい。
笑みを浮かべている女性は心の底から楽しんでいた。
人を傷つけることを。
泣いている姿を見ることを。
相手が苦しむ姿をいつまでも見ていたい。
鞭を振るう女性はそんなことを思っていた。
「た、助けてくれ!お、俺が悪かった!」
振るわれる鞭の激痛に耐えられなくなったのかスキンヘッドの男子生徒が叫ぶ。
既に上半身はさらけ出され、そこには無数の蚯蚓腫れができているばかりか口や鼻から血が流れている。
「悪かった?」
「もう、逆らわない!何もしないから、頼む!俺を、俺を助け――」
肉を貫く嫌な音が体育館内で響いた。
「興ざめです」
命乞いをした男子生徒の頭を刃が貫いていた。
頭に突き立てた剣を抜いて女性がいう。
顔からは笑みが消えて、瞳もゴミをみるようなものになっていた。
その姿に類は寒気を覚える。
「興ざめです。本当につまらないですわ。なんでこんなものをさっきまで叩いていたのかしら。ゴミ以下の存在を甚振っていたと思うとそんな自分が嫌になります。えぇ、本当に」
剣についた血を部下が持ってきた布で拭きながら女性は微笑む。
「私からの慈悲として言っておきますわ。命乞い、助けを求める、そんなクソつまらないことは絶対にしないでください。そんなことをしたらコイツみたいに原型がわからないくらいのハンバーグにしてさしあげますの」
グシャン!とこと切れている男子生徒の頭へ足を叩きつけて女性はいう。
潰された頭から大量の血が流れて壇上を濡らす。
隣にいた生徒や教師、前方の者達に返り血がかかって悲鳴があがるも、白服集団が銃を向けたことで静かになった。
「理解のある方達で助かりますわ。さて、そろそろお遊びもやめて、本題に入りましようか」
にやりと笑みを浮かべながら伝えた言葉に誰もが緊張する。
今までが遊び。
これからどんなことが起こるのか。
頭の中に浮かぶのは嫌なものばかり。
類達が身構えている中、女性は一見すれば優しそうな笑みを浮かべる。
「この中にいるであろう、黒の救世主とやらと親しい人はいますか?いるなら、大人しく前に進み出てください。あ、ウソは許しませんよ。私、ウソも嫌いですので」
沈黙が長い時間続く。
類は周りを見る。
クラスメイトや周りを含めて、誰もが事態を理解できていないのだろう。
黒の救世主という名前を類はネットで見たことがある。
ホルダーを狙うテロリストの前にさっそうと現れるという漆黒の騎士といわれる存在。
いつからかホルダーとは別に世界を救ってくれる救世主としてネットで騒がれていた。
しかし、類はその姿を見たこともなければ、存在していると断言されるのかもわからない。
ホルダーを管理している大和機関へマスコミが問いかけたこともあるが曖昧な返事だった。
目の前の人達は何を目的としているのだろう?
「もしかして、黒の救世主といわれてわからない人がいるのでしょうか?でしたら少しばかり説明してあげましよう。我々が探しているのは世界が公式に認めている英雄ではありません。表とは別、裏で様々な暗躍をしてきた影のホルダー。最近、私達の組織を倒すために表へ姿を見せているそうです。とても迷惑な話です。我々は英雄を殺して世界を救おうというだけですのに……おっと、話がそれましたね。実はある筋からこの学校にその救世主が存在しているとおききまして。もしかしたらその方と親しい人もいるかと思い、ここに参上したというわけです。何か知りませんか?」
妖艶な笑みを浮かべて館内にいる全員へ問いかけた。




