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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第七章:変革の色―ChangeTheWorld―
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70.新たな厄介ごと

「夜明ぇ!一緒に昼食おうぜ!!」


 昼休み、剣山第一高等学校の生徒達は楽しい時間に現を抜かす頃、そんな時間を破壊するかのように扉をバーン!と乱暴に開けて入ってくるのは風見勇吾だ。


 彼は教室の中を見渡して俺の姿を見つけると弁当箱を持つ手をすごい勢いで振っている。


 このまま無視するわけにもいかないので購入済みのパンなどが入った袋を持って入り口に向かう。


「そんなに振って、弁当は大丈夫なのか?」


「え?うぉぉぉ!?やっちまった!!」


 今更になって気づいたユーゴは弁当をみる。


「ぐちゃぐちゃになっていないことを願うばかりだな」


「くそぉ!?」


「どこで食べるんだ?」


「中庭だ。そこでルイも待っている」


「わかった」


「あれ?お前のガールフレンドは?」


「吹雪か?あいつなら」


「呼びましたか?」


 俺の背後から幽霊のように現れる。


「うぉっ!?」


 驚く勇吾。


「揃ったから行くか」


「お、おぉ、びっくりしたぁ」


 勇吾を先頭にして俺たちは中庭に向かう。


 遊園地から数日、こうして俺達は風見勇吾高峰類の二人に水崎姫香を加えたメンバーで昼食、放課後に遊びへ出かけることが増えていた。


 最も水崎姫香はホルダーとしての訓練があることから俺と吹雪、高峰、勇吾の四人で出かけることが多い。


 今回は水崎姫香も参加できたようだ。


「あ、夜明君、吹雪ちゃん」


「チッ」


 俺に聞こえる程度の舌打ちをしながらも吹雪は笑顔を浮かべる。


 営業スマイルというやつだ。


「みんな、そろったね!じゃあ、食べよう」


「食い意地のはったメスめ」


「やめろ」


「はい、やめます!」


 俺の言葉と共に背筋を伸ばす吹雪。


 流石にこれ以上の暴言を許すつもりはなかった。


「なんかいったか?」


「気にするな」


 いただきます――と全員が言葉を口にしてそれぞれの食事を始める。


「お二人は同じ弁当なのですね」


 少しして吹雪は風見勇吾と高峰類の弁当の具が同じものだと気づく。


 弁当箱は類がピンクもかわいいものに対して、勇吾はシルバーの長方形のものだ。


「そーいや、まだ話してなかったな。俺と類は一緒に生活しているんだよ」


「同棲か?」


「ち、違う違う!」


 俺の言葉に高峰が顔を真っ赤にして否定する。


「ユーゴの家族が海外にいってて戻ってこれないからうちで面倒を見ているの!どうせだから一緒の弁当を作っているの」


「成程、すまない」


「ううん、ユーゴの馬鹿が悪いだけだから」


「なっ!?事実だろ!」


「少し、捻じ曲がっていると思うなぁ」


 水崎が小さく言葉を漏らす。俺も静かに同意した。


 吹雪はもぐもぐと弁当を食べていたと思うと箸で唐揚げを掴むとこちらへ伸ばしてくる。


「夜明さん、はい、あーん」


「ん」


 差し出された唐揚げを迷わずに食べる。


 咀嚼して飲み込む。


「うん、うまいな」


「市販のものですけどね!また作りますね」


「あぁ」


 顔を上げると高峰とユーゴの二人がこちらをみている。


 ユーゴはこちらを食い入るように。


 高峰は顔を赤らめてちらちらとこちらをみるようにしていた。


「なんだ?」


「いやぁ、そのお前らってさ、前の遊園地一緒にいたけれど。付き合ってんの?」


「フッ、ばれましたか、実は」


「こいつの言葉は聞き流して構わない。行動もこういうものだと思ってくれていい」


「え、でも」


「それでいいんだ」


 俺が有無を言わないようにいうと二人は渋々という形で頷く。


 水崎の方を見る。


 彼女はてっきりいつものように苦笑していると思っていた。


 だが、違う。


 水崎姫香はぷぃっと顔をそらす。


 ん?


 首をかしげて彼女に声をかけようとするとユーゴが大きな声を上げた。


「そうだ!今度の週末、みんなで遊びに行かねぇか?」


 ガッツガッツと弁当を食べ終えたユーゴの提案に俺は首を横に振る。


「すまない。週末は予定があるんだ」


「うわっ、マジか、じゃあ、姫香は?」


「私?私も週末は無理かな」


「そっかぁ、じゃあ、類と二人で」


「家の手伝い!忘れたわけじゃないでしょうね?」


「うぐ!?も、勿論だろ」


 あの様子だとユーゴの奴、忘れていたな。


 それにしても、と俺は水崎姫香を見る。


 彼女も週末に予定がある?


 もしかして、アレに関係があるのだろうか。


 そんなことを考えながら昼休みの時間を過ごしていた。



















 放課後、俺と吹雪は拠点へ足を運ぶ。


 何度も尾行されていないか注意しつつ、目的地に到着する。


「あ、早かったね~」


 扉を開けてリビングに入るとノノアが出迎える。


「来栖は?」


「あ~、買い出しに行かせたよ。呑気にソファーを占領していて邪魔だったからね!」


「そうか」


 短く返事をして鞄を置く。


 俺がソファーへ腰かけるとすぐ隣に吹雪が座る。


「夜明さんの隣、もらいました!」


「相変わらずラブラブだねぇ。あぁ、羨ましいよ~」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながらいっても説得力のかけらもない。


「あぁ、くそっ、おでん缶探して遠くまでいっちまったよ」


 リビングに来栖がやってくる。


 その手には大量の買い物袋。


「お、来ていたのか」


「随分と大量に買ってきたな」


「そこのお嬢様にぱしらされたからなぁ」


「酷いなぁ、お願いしたら快くいってくれたじゃないか~」


 刃物を向けながら笑顔のお願いってなんだよと来栖がぶつぶつといっているが聞き流すことにした。


「夜明さん、そろそろ」


「……そうだな」


 メンバーが揃ったことだし、そろそろ話をするか。


「みんなに話がある」


「お兄さんから話なんて、珍しいね。どんなことかな?」


「面倒な予感がするの俺だけか」


「先日、俺はノワールと遭遇した」


「ノワール?誰だ?」


「永遠の監獄に閉じ込められている人だよね?確か、何年か前に最悪の事件を起こしたとかで影だったけれど、監獄行きになったって聞いたけど」


「そいつが脱獄していた。おそらく通達がそろそろくるだろう」


 ピロリとそのタイミングで携帯電話が鳴り出す。


 俺達が端末を見ると黒土からでノワール脱走の情報が掲載されていた。


 加えて。


「お前が狙われている!?」


「あぁ」


 ノワールは何も言わなかったがあの目は俺を狙っていた。


 あの時、殺されそうになった時のものと同じ目。


 そう遠くない未来。


 いや、近いうちにノワールは再び姿を見せる。


 その時は全力の殺し合いが待っているだろう。


「夜明さん?」


「いや、何でもない」


「でもさ、なんでノワールっていうのはお前に固執するんだよ?」


「そういえば、そうだね?ボクが聞いた話だと他人と触れ合わず邪魔しようものなら即殺害って聞く危険人物なんだけど」


「アイツは俺の師匠だ」


「は?」


 来栖が驚きの声を漏らす。


「ノワールは俺に殺しの技術をすべて教え込んだ。先代の黒なんだよ」


「「えええええええええええええええ!?」」


 これにはさすがの二人も予想外だったのだろう。驚きの声を上げた。


「アイツは俺を同じ存在に仕立て上げようとした」


「同じ存在?」


「ノワールは綺麗なうちに人を殺すことを目的としている。綺麗なうちというのが俺にも理解できないんだが、醜い存在程、生きている価値はないということらしい」


「お兄さんはそういうところに共感しなかったんだ?」


「そうだな」


「ま、まぁ、危険人物に狙われているっていうなら警戒するに越したことはねぇな」


「それともう一つ」


「まだあるの!?」


 お兄さんも大変だねーというノノアの声を聴き流しながら伝える。


「俺の家にノワールの手先が住み込んでいる」
























「死んじゃえ!お前なんか死ね!」


「……」


 夜明の部屋。


 キッチンで料理をする金髪の女性へキリノが叫びながら手のナイフを振り回す。


 女性は使用済みのボウルで次々と繰り出されるナイフを躱している。


 ある意味、光速の領域へ達している彼女の斬撃を目の前の女性は淡々と裁いていた。


「消えろ!お前なんかがパパに近づくな!」


「それは不可能です。私は夜明殿の身の回りの世話をすることが使命であります。本来ならあの方の邪魔をする者の排除も仕事にあるのですが、あのお方は心の広い方。貴方のようなごみ虫ですら面倒を見ようとしておられる。本当ならすぐにでもめった刺しにしてやりたいが我慢しているという事を理解しろ。餓鬼」


「うるさい!」


 キリノが怒りで顔を染めてナイフを振るう。


 今度はオタマによって防いでいた。















「なんじゃ、こりゃ」


「見ての通りだ」


 テレビに接続したカメラの映像を来栖とノノアへみせていた。


「キリノちゃん、お兄さん以外の人は容赦ないもんねぇ」


「てか、これ、いつのやり取りだよ?」


「二日前だ」


「このやり取りが今も続いているって」


「カオスだねぇ~」


「まったく、夜明さんに迷惑をかけるなんて万死に値します。今すぐ吹雪が殺して」


「やめろ」


「了解です」


 今にも外へ出ていこうとする吹雪へ釘を刺す。


 他人が俺に接することを嫌がるキリノ、俺に依存に近い吹雪、加えてノワールから俺の世話を命ぜられた金髪の女性、ゼリノア。


「修羅場通り越してなんていうのこれ?混沌?」


「面白いね!やっぱりお兄さんは面白いよ」


 こちらに同情の目を向ける来栖に対してノノアは面白いとひたすらに連呼している。


「帰った時に部屋の中に死体があればどうするか、本気で悩みそうだ」


「ありえるな、てか、コイツ、敵なんだろ?なんで中に入れているんだよ」


「最初は放置していた。そうしたらずっとその場から動かず、アパートの大家が不審者として通報しそうになったから家へいれた」


 あの時は本当に驚いた。


 玄関を出たところで優雅にお辞儀をして、待ち構えていた。


 俺は静かにため息をこぼす。


「そろそろ戻る。キリノが心配だ」


「あの女の人じゃなくて?」


「あぁ」


 はっきりいってあの女をキリノは殺せない。


 動きを見ればわかる。


 ゼリノアという女は強い。


 おそらくその実力は世界で活躍しているホルダーたちに匹敵する。


 キリノの身を案じて俺は急ぎ足でアパートへ戻った。



















「パパァ!」


 玄関の扉を開けると小さな影が飛び込んでくる。


 屈んで飛び掛かってきたキリノを優しく抱きしめた。


「すまない、どうした?」


 涙をポロポロとこぼしているキリノの頭を優しく撫でる。


「アイツ、嫌い!」


 泣きながらぐいぐいと顔を押し付けてくるキリノをあやしながらリビングへ入る。


「おかえりなさいませ、夜明殿、夕食なさいますか?それとも入浴になされますか?」


「お前が料理を作ったのか?」


「はい」


 背筋を伸ばしたまま頷くゼリノア。


 柔和な笑みを浮かべる彼女に俺は淡々と返す。


「食事だ。お前を含めて四人分できているんだろうな?」


「当然です。お二方と私も分も用意させてもらっております」


「そうか、吹雪、キリノ、ご飯にしよう」


「うん」


「わかりました」


 俺の言葉に渋々という形で着席する吹雪とキリノ。


 座ろうとするとゼリノアが椅子を引く。


 まるで執事のような動きだ。


 彼女は三人が座ると食卓に料理を並べていく。


 本来ならこの女の料理を食べることに危険がある。


 何せ、ノワールの仲間であり毒を盛っている可能性もあるだろう、だが、俺はそれを疑わない。


 俺が食べ始めることによって二人ももそもそと目の前の食事に手を付ける。
















夜中。


 キリノが眠っていることを確認した俺は布団から這い出る。


 左右をキリノと吹雪に挟まれていて本来なら動けなくなっているのだが、今回は無理して抜け出した。


 部屋を出てそのままリビングのベランダへ出る。


 ベランダに先客がいた。


 うっすらと差し込む月の光を浴びながら夜の世界を見ている金髪の女性。


 ゼリノアは閉じていた瞳を開けてこちらをみる。


「眠れませんか?」


「……いいや」


 用意しておいた椅子に俺は座る。


 向かい合う形でゼリノアの顔を見た。


 青い瞳がこちらを見つめる。


「何か言いたいことがあるのでしょう?」


「そうだな、俺は遠まわしに尋ねるという事があまり好きじゃない。単刀直入に聞こう、ゼリノア……貴様は俺のことを恨んでいないのか?妹を見殺しにした俺を」


 質問にゼリノアは一瞬、無表情になり柔和な笑みを浮かべる。


「いつから気づいていたのですか?」


「確証はなかった……しいて言えば、アンタの目」


「目?」


「似ていたんだよ。アイツと」


「……そうですか」


 小さく息を吐いてゼリノアは顔を上げる。


「改めまして自己紹介させていただきます。ゼリノア=ロードメイト、貴方と共に試練の島にいたリヴィル=ロードメイトの姉です」


 立ち上がって優雅な挨拶をする。


 その姿はともに戦って死んだ仲間の姿と重なった。


「やはり、アンタはリヴィルの親族だったか」


「はい、貴方のことはノワール様から教えていただきました。妹と共に戦い、最後に生き残った男の子と」


「……恨んでいるか?一人、生き残った俺のことを」


「貴方のことは恨んでおりません……といえばウソでしよう。最初のころは貴方を見つけだして殺してやりたいと考えておりました」


「今は違うと?」


「はい、今は貴方様の勇士をみるためにお傍へお仕えしたいと考えております」


「勇士?人殺しをしているような人間のーー」


「殺すにしても貴方の行動にはちゃんと理由がある。そこに歪みや自己満足の類はないと思っております」


「……詭弁だ。人殺しは人殺し、違いはない」


「そう、その目です」


 うっとりとした表情でゼリノアは俺に近づいてくる。


 椅子から離れた彼女は頬へ手を伸ばす。


「ノワール様と似ていながらもどこか異なるその目です。私は貴方様のその行く先がみたいのです。それが私の望みであり、貴方の傍にお仕えする理由です」


 どこか歪んでいる笑みを浮かべて彼女はこちらを見つめている。


 何が彼女をそこまで突き動かすのか。


 どんな理由でノワールが俺に差し出したのか。


 理由のわからないドロドロしたモノに頭の中で警鐘が鳴る。


「どうしました?」


「別に」


「もしや、まだ警戒されておられるのですか?」


「……だったら」


「何度も仰いますが私はノワール様の部下でしたが今は貴方を主としております。主を裏切るようなことは絶対にいたしません。疑うなら殺しても構いません」


 強い意志を宿した瞳。

 

 ゼリノアの顔を不意に重ねてしまう。


 かつて、共に戦った仲間の一人。リヴィルを思い出す。


 女性でありながら騎士に憧れ、人として正しくありたいと願った剣士。


 ゼリノアはしばらくして俺から離れる。


「申し訳ありません、お見苦しいところを」


「気にしていない」


 もし、コイツが本性を見せて襲い掛かってきたとき、俺は殺せるかどうかわからなくなっていた。


 彼女と重ねてしまう俺はおそらく正常な判断ができなくなってきている。


 このままでは、彼女が敵となった時。


 俺は殺されてしまうだろう。

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