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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第七章:変革の色―ChangeTheWorld―
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67.死の胎動

「ここは」


俺の視界――世界は黒、いや闇一色に支配されている。


周りの景色はおろか体の感覚すらなくなっていた。


あるのは“俺”がここにいるということのみ。


この感覚は何度か体験しているが未だに慣れることがない。


『そうそう、慣れても困るぞ』


聴こえてきた声は鈴のような心地よさを感じた。


声はすれど、姿が見えない。


「何の用だ?」


『妾と交わした約束を順調に果たしているようだな』


「当然だ」


この空間で俺は目の前の声の主と出会い、力を手にした。


その際に声の主に俺は誓ったのだ。


世界を壊した元凶、七体の女王を殺す。対して力を与えた声の主は全ての魔を滅ぼせと俺に必殺の剣、伊弉冉を与えた。


「俺は奴らを滅ぼす。そのために生きている」


『その割には背負っている物が随分と増えたんじゃないか?』


からからと声の主は笑うように囁く。


相手の指摘に俺は言葉を止める。


――背負っている物。


頭に浮かんだのは共に背中を預け合うようになった仲間、大切な存在達。


何より。


『失った絆を手にした……いや、作り直したという言葉が正しいか?小僧の正体を知って距離をとるかと思えばまさか隣を歩こうとするとは……からから、興味は尽きぬのぉ』


「いけないことか?」


『否、否、否よ。小僧。お前は生きることという事に執着を見せていない。今もそれは変わっておらぬ。ただ、生きている間は彼の者達を守るとしておるのみ……妾の興味があるのはその先よ』


「その先?」


俺は疑問の声を漏らす。


楽しそうに声の主は頷いた気がした。


『お前が全ての目的を果たした時、あの時と同じように死を望むのか、生を望むのか、その時の答えをみるのが楽しみなのじゃ』


「もし、俺が死ぬことを望めば?」


『仮の答えに興味などないが……そうじゃの、愛玩として傍に置いておくのも悪くないかの』


悪趣味な。


『いやいやいや、お主は自分の価値がわかっておらぬ』


暗闇から突如、白い手が現れる。


染み一つない、真っ白い二つの手が俺の頬を掴む。


あまりの冷たさに体が一瞬、震えた。しかし、すぐに俺の体は心地よさを感じるようになっていた。


前は何も感じなかった。今は心地よいと感じるのは変化なのだろうか。


『その通り』


俺の心を読んだかのように声は喜びの色を含んでいた。


頬を触れている手は俺の鼻や額、色々なところを触っている。


『最初の頃よりお前は変化している。その変化はある者からすれば疎ましく。別の者からすれば福音、救いをもたらしていくことになるだろう。お前が望む望まざるにかかわらずその変化は多くを巻き込んでいく。用心しておくといい』


「用心?」


『お前に与えた力は今よりももっと強くなっていく。今よりももっとお前の人格を壊し、死をまき散らすことになるだろう。それだけで止まらない。伊弉冉の真価はその先にある……いずれ、その剣は至る』


ドクドク、と俺の心臓が嫌な音を立てる。


此処から先の言葉を聴きたくない。いや、聴いたら後悔してしまうと本能が訴えているのだろうか。


しかし、声の主は止まらない。


まるでこうなることを予期していたかのように歌うように俺へ言葉を囁いた。


『神を殺す剣、神殺しへ至る伊弉冉はその力がある。そしてお前はいずれ神殺しをするだろう。いやはや、楽しみだ。お前は何の神を殺してしまうのか』


楽しげに笑う声を聴きながら俺の意識は遠ざかっていく。


早朝、闇の中の記憶は抜け落ちていた。


ただ、嫌な夢を見た。


そんな気分だ。


ただ、体は最悪な状態だった。


全力疾走したみたいに息は荒く、全身から噴き出した汗で服はベトベトになっている。


汗で張り付いた髪を拭おうとすると心配そうにこちらを見ているキリノの顔があった。


「パパ、大丈夫?」


不安そうに、今にも泣きそうになりながらキリノが顔を近づける。


「よせ、汚いぞ」


「いや!」


汗でぬれている俺に近づくなというがキリノはいう事を聴かず抱き付いてくる。


こういう時に人の体温ほど気持ち悪いものはないのだが不思議と嫌悪感はなかった。


相手がキリノだからか、それとも俺の感覚の問題なのか。


わからないが、キリノの温もりが心地よくて俺は手を伸ばす。


優しく、キリノを抱き返す。


「パパ?」


「今日は、どこか出かけよう」


「うん!」


不思議そうな顔をしていたが俺の言葉で綺麗な花が咲いたような笑顔を浮かべる。


それをみているだけで俺の中で渦巻いていた不安が消えていくのを感じた。


キリノを余計に愛しく思えて強く抱きしめる。





















「って、吹雪が隣で寝ているの忘れていませんか!?心配していたのにどうしてのけ者にしているんです!?出かけるなら吹雪もついていきますよ!夜明さんの彼女なんですから!」











「チッ」


目の前にいる天使が舌打ちしたような気もしたが、気のせいだろう。


いつも俺が迎えている朝なのだから。




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