66.静かに“世界”は動き出す
新章です
イギリス。
十年前に起こった“世界が壊れた日”の爪痕はこの国にも残っている。
近代兵器の全てが通用しなかった魔物によって地図から消え去った国や土地は少なくもない。事実、英国も“奈落の女王”によって滅びかけたことは人々の記憶に深く刻み込まれている。
魔物に狙われた英国を守護したのは後に騎士王と称されるホルダーと数人の奮闘があったからこそ。
彼らの活躍をみて、街の人々は騎士と称えた。その出来事から彼らはホルダーではなく騎士という愛称を持たれている。
そんな彼らの集う場所、円卓の騎士達の本拠地たる本部“ブリテン”というビルがある。
ブリテンは事務員をはじめとしてホルダーの素質ある者、彼らを補佐する者達が毎日、過酷な訓練を行い、外での生活に対処できるよう様々な教養を吸収していく。中には過酷な修行に耐えられず後方支援に移動する者もいるが、全ての訓練を終えて試練を闘破した時、晴れて“騎士”として認められる。
英国の希望ともいえる彼らの集う建物。
建物の中を一人の騎士が突き進む。
訓練に励んでいる者、事務をこなしている誰もが彼の姿を見て動きを止める。
190センチを超える長身、鍛え抜かれた肉体。鋭い目つき、短く刈り上げている金髪。
任務を終えたばかりなのか、騎士が纏う正装はほとんどが破れてその機能を失っていた。
彼が向かうのは最上階の執務室。
そこは騎士の中の上位、聖剣の名前を武器に授けられたもののみしか立ち入りを許されない聖域。
「……失礼します」
扉をノックして中へ入る。
室内は豪華な材質の机や椅子、カーペット、天井にはシャンデリアらしきものが取り付けられている。
一人が生活するにはあまりに広すぎる空間。
その室内で仕事をしているのはアロンダイトの主であり騎士団を束ねる人物、騎士王と称される。アーサー・アンダーセンがいる。
入室したランスロットは僅かに顔を動かす。
室内に漂う血の臭い。
「やぁ、アロンダイト」
部屋の中心で騎士団の証であるエンブレムのついた制服の男性がアロンダイトを出迎える。
流れるような金髪、長身で青い瞳。整った顔立ちの青年だが、その顔や服は血で汚れてしまっていた。
「フレリックか。ここで何をしている主の部屋だぞ?」
「一応が前につくだろ?暗殺は様々な脅威から身を守るべく、表向きは此処にしているというだけの話。バカとなんとかは高い所が好きと考えるからねぇ」
「もう一度、聞く。貴様は此処で何をしている?」
表情を変えず、アロンダイトは尋ねる。
「使徒狩り」
肩をすくめながらアロンダイトへあるものを投げる。
途中で落下して、カーペットに転がった物は人の生首。
それも一つではない。三つほどの男女の首が転がっていた。
「使徒の配下か」
「使徒を名乗った……えっと、セーチィモだっけ?そいつは殺したら灰になった。聖剣に弱いのかもしれないね」
「使徒が直接、ここを攻めてきたか」
「愚かだよねぇ。本拠地といってもここは形だけの場所。我らが主は」
「それ以上は」
「わかっているよ。あぁ、使徒って予想以上に強かったね。女王級と比べると弱いけれど」
アロンダイトをはじめとする円卓の騎士は一度、女王級と戦っている。
結果は敵を退かせることができたのみ。
「そういえば、アロンダイトと主がお気に入りの子は使徒と女王を三体も殺しているんだよねぇ?」
「あぁ」
「楽しみだなぁ、その子と会ってみたいよ。とても強い子なんでしょ」
「そうだな」
極東の地で出会い、決闘を行った白髪の少年の事を思い出したアロンダイトは懐かしむ。少し前の事なのに随分と昔のように感じてしまったのだ。
「主はどこだ?」
「いつもの気まぐれ、そろそろ戻ってくると思うけれど、どうしたの?」
「これだ」
手の中にある封筒をフレリックに見せる。
白い封筒に金色のライオンと二つの剣。
それをみた彼は面白いものを見たという表情になった。
「久しぶりだね。五年くらい前だよね?その封筒が来たの」
「あぁ、あの時は各国の英雄の顔合わせだった」
「今回もそうなるのかな?」
「知らん、とりあえず我らが主へ手紙を」
「受け取ったよぉ~」
ランスロットの手の中にある手紙が消えて、のんびりとした少女の声が響く。
二人が首を動かすと唯一、綺麗だったソファーの上に腰かける少女がいる。
ひらひらしたメイド服、頭の上についているリボンはウサギの耳を連想させた。
きらきらと輝く青色の瞳は封筒の中身を見て目をキラキラさせている。
「我が主」
「アロンダイト、ごくろう様。フレリックもケガはすぐに直すんだよ」
「勿体ないお言葉です」
「どこへいっておられたのですか?」
「下々の様子を見て回っていたんだ。やっぱり彼らの話題はあれだね?魔物を討伐した黒の救世主で話題だよぉ~」
楽しげに笑う少女は嘗て日本でアロンダイトの従者といっていた少女、アストリア。
しかし、その姿は仮の姿でありその正体は、英国最強のホルダーにして騎士たちを束ねるトップ。
騎士王と称されるアーサー=アンダーセン、本人だ。
「さて、我が騎士アロンダイトにフレリック=トライハルトよ」
「「はい、我が主」」
先ほどまでの態度が一変して束ねる者としての風格を放ちだすアストリア。
少女の前に二人の男が膝をつく。
頭を垂れて主からの言葉を待つ。
「どうやら米国から英雄召集が掛った。おそらく使徒関連についての話だ。お前達は私の護衛として同行することを命じる」
「「イエス・ユアマジェスティ」」
血まみれの室内で二人の円卓の騎士は主たる騎士王の言葉に頷く。
「嬉しそうですね。マスター」
「そうみえるかい?」
コクンとフレリックがいなくなったところでアロンダイトが頷く。
「だって、全国の英雄召集だよ?日本も隠しきれない筈だ」
「マスターは奴が出てくると?」
「そうだよ?最強の相棒たるキミが命名した“白騎士”彼もこの場に姿を見せると思っている」
「だから楽しみなんですね」
「そうだよ!使徒を殺し、女王を何体も滅ぼしているまさに救世主!そんな彼が混沌渦巻く会食に何をもたらすか、楽しみで、楽しみで仕方がない」
無邪気な笑顔でアストリアは空を見た。




