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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第六章:逆恨みの追跡者―SilverSnake―
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62.金剛の女王


「記憶の価値、か」


「なんだ?」


「いや」


 街から離れた所にある廃墟群。


 魔物によって壊され、修復することもなく放置された街だった場所。


 そこに俺とスカイウォーカーはいる。


 目的は蛇女、宮本陽炎との決着をつける為。


 奴の姿が見えず、時間だけが無駄に過ぎていく中、俺の頭は先ほどの出来事を思い返す。


 記憶の価値。


 あのクソッタレな英雄は不変なものであると抜かした。


 俺からすれば記憶というものはただの記録に過ぎない。確かに過去の出来事は大事なものもある。ただ、それだけのことだ。


 記憶はいつか失われる。


 小さな記憶から大きなものまで長く生きていけば風化するもの。


 それが俺にとっての記憶だ。


 つまるところ、俺は記憶に価値を見出していない。


 だが、奴は違うようだ。


 俺は気に留めていないが水崎姫香の記憶を抹消したことに激怒していた。


「スカイウォーカー」


「何だ?」


「お前にとって記憶とは何だ?」


「いろいろだ。忘れてはいけない記憶、どうでもいいもの。それが俺にとっての記憶だ……そう、俺は選ぶんだよ。どうでもいい記憶とかな」


「そうか」


「あの英雄と呼ばれている餓鬼は大事なものといっているがそんなものは人それぞれだ。俺にとって記憶が無価値なものがあるように貴様にとって違いがある。あんな戯言に耳を貸す必要などない」


「……」


「それとも、罪悪感でも覚えているのか?」


「さぁな」


 自分はわからない。


 今まで関心を貫いてこなかったことに対して考えても答えなどでない。


 わかりきっていることだ。


 今の俺がやるべきことは一つ。


「来たようだ」


 目の前にふらふらと幽鬼のような足取りで現れた宮本陽炎。


 こいつを対峙するのも三度目。いい加減に終わりにしたい。


「お前との因縁も、終わりだ」


 口の端から血を零しながら陽炎は決別を宣言する。


 死人のように白い顔。今にも倒れそう……いや、死ぬ寸前か。


「因縁も何もそっちが勝手に逆恨みしているだけだ。俺はお前に何の感情も関心も抱いていない」


「黙れ!」


 陽炎が叫ぶ。


 その瞳は激しく燃え盛る憎悪の炎を抱えている。


「お前さえ、お前さえいなかったらこんなことにならなかった。お前がいたから私はこんな目にあっているんだ。お前があの日、伊弉冉の力を手にしなければ!お父様があんなものに魅入られなければ、全て、お前が悪い!!お前を消せば解決だ。私のこの体も、あの日の屈辱もすべて消える……すべてが元通りになるんだ」


 何かを懐かしむように、遠くを見つめながら陽炎は話す。


 その目は俺を見ているようで見ていない。俺を通して自分の幸せだった日をみている。


「愚かだな」


「なんだと!?」


 目ざとく反応する。


 ぞわりと広がる殺気。


「愚か?愚かといったのか!失敗作のデッドコピーの分際でぇ!」


「愚かなのはお前だよ」


 弾丸のように飛んでくる陽炎を前に俺は雷切を瞬時に展開、同時に刀を振るう。


 つんざくような悲鳴と共に伸ばしていた両手が斬りおとされる。


「お前の血は真っ黒か」


 飛び出た両手から零れた血は赤色ではなく闇色といってもいい黒だ。


「これだけ人間からかけ離れておいて、今さら昔の生活に戻れることなんてありえない。幻想に縋っても待っているのは身の破滅だ」


「だ、ま、れぇええええ!」


 起き上がろうとした陽炎の頭を踏みつける。


 起き上がろうとするも腕がない事から体を動かせない。


「無理に動かない方がいいぞ?血液不足で死ぬ」


 じたばたと無様に動き回ることからどくどくと両手の切断面から血が流れていく。


 放っておいてもいずれ出血多量で命を落とす。


 死ぬ死なないはどうでもいいことだ。今は別にやることがあった。


「人を見下すことでしか自分を正当化、いや、幸せを感じることが出来ないか……とても哀れな話だ」


 俺が見下しているという事実で怒りに支配されていて陽炎はわけのわからないことをひたすらに叫んでいる。


 どうやら会話すらできないのか。


「スカイウォーカー」


「何だ?」


「こいつをひっくり返す、足を押さえておけ」


「あぁ」


 騒ぐ陽炎の横からを蹴り飛ばしたところでスカイウォーカーが足を掴む。


 暴れて起き上がろうとする奴の頭を踏みつける。


 体を折るようにして服をめくりあげた。


 めくりあげようとすると暴れたので頭を強く踏みつける。


「おい、これは」


 めくりあげた服の下、そこにあるものをみて、スカイウォーカーが言葉を失う。


 その目は目の前の事実を必死に否定したかったようだ。


「まさか、こいつは」


「そうだ、魅入られている」


「一体、何に!?」


「さぁな」


 陽炎の腹部から胸部にかけて浮き出ている不気味な模様。


 三度目になるがこの模様を俺は知っている。


「すぐにここから――」


「いや、遅い」


 地面が大きく揺れる。


 直下型地震と錯覚するほどの揺れが何度も起こった。


 倒れそうになりながら俺とスカイウォーカーは堪える。


 しばらくして、近くの廃墟を崩して奴は現れた。


 三メートルほどの巨体、全身が肌黒く岩のようにごつごつした肌、丸太のように巨大の腕。


 頭はなく、足は短い、胸部の辺りに黄色い瞳があり白目と呼ばれる部分は真っ赤なことから黄色い瞳が余計に目に付く。


「女王……」


 スカイウォーカーが言葉を漏らす。


 世界を滅ぼそうとした災厄の七体の一つ、金剛の女王が俺達の前に現れる。















 金剛の女王は七体いる中で出現すれば要討伐対象となっていた。


 他の女王は侵攻阻止や防衛手段が殆どに対して討伐の対象になっていた理由は脅威といわれる特殊能力がなかったからだ。


 何度か各国のホルダーが金剛の女王と対峙した。


 あと一歩、あと少しという戦況で女王は逃走を繰り返したことから特殊能力がなく、討伐可能だと各国は判断している。


「おい、宮本夜明!どうする」


「戦うに決まっているだろ?お前はそこの屑女を守っておけ」


 スカイウォーカーへ陽炎を投げ捨てて刀を構える。


 雷切を鞘に納めて伊弉冉を取り出す。


 頭に囁いてくる死の言葉はいつも通り、ではなかった。


「ぐぅ!?」


 頭に圧し掛かってくるような言葉は「死ね」だけではなかった。


――コロセ!


――目の前の相手を殺せ、奴を殺せ、始末しろ!生かすな。


 頭に響き渡る声はいつものものと異なり、目の前の相手…つまり陽炎を殺せと騒ぎ立てる。


 いつもと異なる声に頭を押さえた。


 何だ?


 どうして、今回はここまで頭に響くのだろう。


「夜明!」


 声に顔を上げる。


 金剛の女王が巨大な拳を振り上げる瞬間だった。


「ちぃっ」


 その場から離れる。


 俺が立っていた場所に巨大なクレーターができあがった。


 金剛の女王の移動速度は遅いがその分、拳一発の威力はとんでもないものだ。


 頑丈なホルダーといえど、一発を受けたら命を失う危険性がある。


 伊弉冉を振り上げようとすると激しい頭痛が再発した。


 攻撃対象を陽炎にしないとこの言葉の囁きは消えないのか?


 そんな疑問を抱きつつも、目の前の女王へ意識を集中する。


 ギリギリのところで伊弉冉を展開することも考えたが目の前の相手は女王。そんなギリギリなことをしている余裕はない。


 何より。


「こら、暴れるな!」


「うるさい、死ね、死ね死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 スカイウォーカーの拘束から逃れようともがいている陽炎の声。


 酷く耳障りだった。


 今すぐにでも。


「あぁ、くそっ!」


 頭をふって意識を集中する。


 今は目の前の敵を倒す事、陽炎を。


「あぁぁ、くそっ!」


 苛立ちを隠さずに雷切を取り出す。


 伊弉冉を仕舞い、雷撃を放つ。


 閃光が金剛の女王へ降り注ぐが強固な皮膚に当たった途端に四散する。


 いつもより苛立ちを覚えながらスカイウォーカーがいる場所まで下がった。


「死ね!死んでしまえ!」


「黙れ」


 あまりにうるさいから顎を蹴り飛ばす。


 陽炎は口から汚い血をまき散らした。


 いい気味だ。


 そんなことを考えていると横から拳が飛んでくる。


「何だ?」


 飛んでくる拳を片手でいなす。


 繰り出したのはスカイウォーカーだ。


 アイツは俺を殺すつもりだということがわかる。


「いい加減に、やめろ!俺の前で、女を……妹を傷つけようとするなぁあああああああ!」


 弾丸のようにスカイウォーカーが迫る。


「いいだろう」


 刀を向ける。


 俺の邪魔をするというのなら始末する。


「覚悟はできているんだろう?」


 笑いながら俺は雷切を振り下ろす。


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