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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第一章:狙われた銀姫―FirstStrike-
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5.同業者と光の英雄


 黒土と別れて俺は病院を抜け出す。


 出る際に痛み止めをいくつか失敬した。戦闘中に痛みでなにもできないなんていうことは起こらない。


 愛用している戦闘服を身に纏う。


 俺の言葉に黒土は何も返さなかった。


 てっきり止めに入るかと考えていたのだが…何か企みがあるのだろうか?


 そんなことを思いながら地面を蹴る。


 風を切る音が耳に届く。


 電柱や屋根を跳びながら目的地へ向かう。


 この地域は既に避難勧告がでている。人の姿がない。


 魔物が現れれば避難警報はでる。しかし、本格的な避難が今まで実行されたことは少ない。出現すればホルダーが魔物を即座に討伐する。


 そんな流れがいつの間にか出来上がっていたからだろう。


 すぐに事態が解決されるとシェルターの中で今も思っている。そんな人間達の姿が容易に想像できて、吐き気がした。


 昔の事を綺麗さっぱり忘れている。


 武器所持者たちがいるから、すぐに事態が解決されるという希望を持ち、自分で何とかせねばという考えがない。


 家畜同然の人間は嫌いだ。


 そんなことを考えつつ、ベルトに仕込んでいるワイヤーで近くのビルへ飛び移る。


 ビルからビルへ移るということをはじめる。


 跳ねるように移動していくと遊園地がみえてくる。


 自衛隊の避難勧告等で人の姿はない。


 電力も断たれているのか、供給停止しているのか遊園地周辺は闇が支配していた。


 もうすぐ、というところで視界の片隅が光る。


 飛来するものを躱しつつコンクリートの屋上に着地する。


 靴底が熱を持つのを感じながら視線を動かす。


 別の建物にナイフを持つ武器所持者の姿がある。


 姿を視認したところで濃厚な殺意を向けられた。


 ゴーグルの向こうから相手を観察していると背筋が冷たくなる。


 振り返りながら雷切を振るう。


「ぐぁああああああああああああああああ!?」


 手ごたえあり。


 どさりと音を立てて巨大な斧を手にした武器所持者が倒れる。


 相手が起き上らないことを確認してから周囲へ意識を向ける。


 他にも武器所持者の姿がある。


 おそらく組織から依頼されてやってきた掃除屋の類だろう。


 魔物の討伐は影でも依頼されることがある。その時の報酬は膨大なものだ。時々、こうやって他の仕事人を潰して多くの稼ぎを手にしようと考える者がいる。

俺に襲い掛かってきた連中もそういう奴らなのだろう。


 一色触発の空気が漂う。


 だが、誰一人動かない。


 表へならず影に所属している武器所持者の殆どは性格、過去の境遇から表で活動させることに問題ありと判断された者。


 横に強いつながりなど存在しない。


 報酬を得るためなら同業者は蹴落とせ。


 影とはそういうものだ。


 今の俺にとってはうざい以外の何物もない。


 ゴーグルの中で目を細めているとナイフ使いが襲い掛かってくる。


 飛来する数本のナイフ。


 雷切を振る。


 衝撃と共に急所を狙ったナイフの軌道を変えるが空中で向きが修正され戻っていく。


「ちっ」


 その場から離れるがナイフは生き物のように追跡してくる。


――追跡機能を持つ武器を使うホルダーか。


 犬のように追尾するナイフを分析しながら目の前のフェンスを飛び越える。


 相手はチャンスと考えたのだろう掌に多くのナイフを実体化させた。


 「少し、遅かったな」


 空中なら避ける場所がない。故に自分が勝てると思っているのだろう。にやりと笑っている相手を冷静に分析する。


 もっと速く動いていたら俺の体は相手の思う描く通り串刺しになっていただろう。


 にたぁと笑みを浮かべている。


 殺す場面でも想像したのだろうか。


 慢心しているゆえに行動を移すのが遅い。


「ここは、既に俺の距離だ」


 刃から放たれた一条の光はナイフ使いへ直撃、銀色の光を迸らせながら地面に倒れる。


 ナイフ使いが起き上ることはない。


 雷切の雷を利用したショッキングガンだ。


 威力の調整は行っているが一日動くことはないだろう。


 びくびく痙攣しているから死んでもいない。


 攻撃してきたのはあちらだから殺されても文句は言えまい。


 地面を蹴り、その場から離れる。


 他の奴からの追撃はなかった。


 俺の戦いを見て勝てないと思ったのだろう。頭のいい奴ばかりで助かる。


 余計なことで時間を取りたくないからな。


 ビルの側面を蹴り遊園地の方へ調整する。


 目的地へ走る。


 ただ、ひたすらに走る。


――どうして、あんな女の為に動こうとするんですか?


「吹雪」


 暗闇に響く声へ視線を向ける。


 吹雪が姿を見せた。


 フードを被っており素顔は見えない。


「夜明さんはあの女の護衛を命令されているはずです。貴方が魔物を討伐する必要はないはず」


「それならお前もここへ出張る必要はない」


「…夜明さんは何のためにあそこへ向かうんですか?あそこにいるのは世界を滅ぼそうとする魔物です。害悪だ。いずれ表の英雄が叩き潰しにいくでしょう?貴方が進んで動く必要はない。なぜですか?なぜ?」


「理由ならあるさ」


 目の前の塀を飛び越える。


「なんですか?」


「同じことを繰り返したくない…」


 思いだすのはあの時の自分。


 なんとかできたかもしれないのに只、只みているだけしかできなかった無力で愚かな自分。血反吐がでるような訓練と死闘で体をすり減らしながらも力を望み、手にした。


 けれど、それだけだった。


 力を手にしてはしゃぎ。何もしてこなかった。


――自分を百回以上殺してやりたかった。


 同じことを繰り返すなど愚の骨頂。


 なにより、思い出したのだ。


 あの日に抱いた気持ちを、復讐するという事を。


 首輪をつながれている犬で終わるつもりはない。


 俺は犬じゃない。俺は。


「俺は全ての魔物を殺す。これは…あの日から変わらない俺の覚悟だ」


 過去の俺に対するけじめ。


 そして、これからする事への覚悟。


 どうなるかわからない。只、あの時と同じ結末を繰り返さない。


「そして、水崎姫香を救う」


「何で、ですか?」


「あいつの驚く顔を見たい…のかもなぁ」


 魔物に狙われている少女。


 生きることをどこかで諦めている少女へ叩きつけてやりたかった。


 俺はお前と違い、抗うことをしていると。だから――。


 地面を蹴る。


 吹雪は追いかけてこなかった。




















 女王級が現れた場所は既に遊園地としての原形を保っていなかった。


 短い期間ながらに復興した場所が一瞬で更地に戻った。改めて魔物の恐ろしさというものを金城秋人は思い知らされた。


 休日、クラスメイト達とカラオケを楽しんでいた秋人は大和機関からの緊急の呼び出しを受ける。


 世界に数体しか確認されていない女王級の一体“鮫の女王”が出現した。


 その情報に秋人は驚きながらもやってきた車へ乗り込み、自衛隊の駐屯地で待機していた輸送機へ乗りこみ、現地へ駆けつける。


 魔物が世界へ姿を見せた時、秋人は安全な場所にいたから魔物のおそろしさというものをあまり理解できないでいた。


 実際に遭遇して彼は思った。


 奴らは害悪でしかない。


 それを排除するのが自分達の仕事だと。


 他の仲間は別件で動けないという事だったので秋人のみで女王級に挑まないといけない。


――知ったことか。


 自分がやらないと多くの人が傷つくんだ。それだったら俺がやってやる。


 輸送機から飛び降りながら空中で愛剣を形成する。


 神秘的な輝きを持つ一振りの剣。


――王者選定の剣≪カリバーン≫。



 秋人が持つ刀剣にして最強の証。


 この聖剣に斬れない敵はなし。


 道を切り開くための力。


 降り立った彼の前に存在する女王級は繭のようなものに体を包み込んでいる。


 何をしているのかわからないが動かないのなら好都合だ。


 周囲に人がいないことを確認して聖剣を上段で構える。


 騎士王が持っているとされる剣と比較すれば威力は劣る。だが、選定の剣も本気を出せば大陸を切り裂き、海を割ることは可能。


 魔物だけを滅ぼすよう威力を調整しながら静かに刃を振り下ろそうとしたところで視界に黒い影が現れる。


「っ!?」


 構えを解いてカリバーンを構える。


 火花を散らして秋人は仰け反った。


「誰だ!」


 相手を見る。


 秋人の前に立つのは全身を黒一色の衣で身を包んでいる。


 顔も赤いゴーグルのようなもので隠れていて、素顔がはっきり認識できない。


 しかし、それ以上に自分へ向けられている敵意にぞっとした。


 魔物から敵と認識されて攻撃を受けたことはある。しかし、普通の人間から敵としてみられたことはない。


 秋人は今までこんな人間を見たことがない。


「答えろ!何で俺の邪魔をした」


 魔物は討伐しないと世界が滅ぶ。


 それを阻む相手は危険。


 授業などで何度も教え込まれた事だ。


 それを阻むことが間違いだという事は誰もが理解しているはずだ。


 剣を油断なく構える。


 瞬きすると黒い存在が消えた。


「え?」


 呆然としていると頭上から光が走る。


 咄嗟に反応できたのは奇跡としかいいようがなかった。


 獣のように唸る光の刀を手にした相手と鍔迫り合いをしながら秋人は叫ぶ。


「魔物は危険だ!倒さないと多くの人が傷つく」


 叫びながら繰り出した一撃はたやすく躱される。


 正眼で構えてカリバーンを振る。


 秋人の動きを見切っているのか少しの動きで回避運動をとっている。


 なんで、こうも躱されてしまうんだ!?


 心を乱されながらカリバーンを振るう。それが裏目に出る。


 黄金の軌跡を踏み込みながら躱される。


 間合いに入り込み、拳による攻撃。


 連続攻撃を受けた秋人は衝撃でコンクリートの残骸に体を打ち付ける。


 手からカリバーンが零れ落ちた。


 衝撃で肺から空気が抜けて秋人の意識が薄れる。


 肉体が強化されている武器所持者といえど、今の攻撃は答えたらしい。


「何で…」


 疑問を残して意識を手放す瞬間、相手が答えた様な気がした。

















「お前は、邪魔なんだよ」


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