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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第六章:逆恨みの追跡者―SilverSnake―
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57.不意打ちの再会



「それにしても驚いたな、そっちのリーダーはうちのスカイとあんなに意気投合するんだから」


「意気投合というよりかは似ているんじゃないかなぁ~」


ノノアはC.D.M.Eのエージェント、名前をノーヴィンという爽やかな笑顔が似合う外国人と共に街を歩いている。


観光している外国人を案内する日本人というスタイルを選び、街中を指さしながら楽し気に動く。


実際は標的である蛇を見つける為の演技なのだが、どこか本気で観光を楽しんでいる節がノーヴィンにはあった。


「ノーヴィンさんは楽しそうにしているねぇ」


「ま、人生は楽しむことが大事だと考えているから、今のご時世、いつ命を落とすかわからないから」


それを聴いて、目の前の男はこの世界について理解していることを知る。


周りは楽しく、この時間が当たり前のように続くと考えているのだろう。しかし、実態は違う。


至る所に現れる魔物、それを束ねる女王と称される上位種。


警報装置があるからと安心してはいけない、魔物の出現頻度は増している。


対して人類は一致団結しているとはいいがたい。


魔物を討伐するホルダー、そのホルダーを殺そうとする使徒。


その事を考える度にノノアは思う。


-―世界は、人間は勝手に滅びるんじゃないか?


自分達のやってきていることは全て無駄なのではないだろうか。


ぼーっと考えていたノノアの前にソフトクリームが現れる。


「ほい!」


「え、あ、ありがとう~」


驚きながらもノノアは笑顔でソフトクリームを受け取る。


「何考えていたか知らないけれど、難しいことは無理に考えない方がいいんじゃない?」


「え?」


「考えても出ない答えってあるんだからさ、そういう時は自然に出てくるまで待っていればいいと思うよ」


「そうだね、うん、そうしょう!さ、ノーヴ君!行きたいところを所望すればいい!案内してあげるよ」


「その意気だよ!そぅだねぇ、このスシっていうのを食べてみたい!」


「しょっぱなから難易度高めいくねぇ……来栖からスっておいた一万円の出番だぁ~」


「よくわからないけれど、行こう!!」


昼間からハイテンションの二人は街中を歩きだす。


当初の目的は綺麗さっぱり消え去っていた。



















来栖は疲れていた。


普段、周りからおちょくられていることである程度の耐性はついていたが、その斜め上を行く事態が起こっている。


「何で、こんな不良の山ができあがってんだよぉ」


彼の前、たむろっていた不良達が死体の山のように積みあがっている。


その数は軽く10を超えていた。


彼等は普通の街中を歩いていたというのにどういうわけか不良が集まったのだ。

理由はわかっている。


目の前でこきこきと肩を鳴らしている女性だ。


180センチを超える長身、纏っているライダージャケットのような服から現れているヒップやウェストは男を魅了させるほど蠱惑さをもっている。


自分に自信のある男なら声をかけようとするだろう。しかし、場所というか状況に問題がありすぎた。


その女性は山積みになっている不良たちの上に立ち、獣のように舌なめずりしているのだ。


「さぁて、こいつらをおいしく頂こうか」


「いやいやいや、ちょっと、待って、待った!」


倒れている一人を掴んで服を引き裂いていく女性を見て、流石の来栖も待ったをかける。


「ンだよ。これから楽しいところだって言うのに……一人くらい食べさせろよ」


「往来の街中で不良を血祭りにした挙句の果てに食べるなんてなに恐ろしいこと言ってんだよぉ……任務のこと忘れているでしょ」


囁くようにしてから周りを見る。


人が多くないけれど、視線が集まり始めていた。加えて、携帯端末を構えている者の姿もあった。


「と、とにかく、ここから離れよう!目立つことは避けないと!!」


手を引こうとしたら視界が暗転する。


放り投げられた来栖は山積みの上に倒れこむ。


「な、なにすんの!?」


「気安く触るな」


「なんで!?てか、余計な騒ぎを起こすなっていわれているでしょ」


「余計な、だろ?これだけ暴れていたら蛇女も姿をみせんだろ」


「……シャルブイさん、ひでぇなぁ」


「気安く名前を呼ぶな、豚」


「ぶ、豚って」


「貴様みたいにふらふらしている奴は豚で充分だ。名前で呼んでほしかったら立ち上がることだなぁ」


「(どこみながら話してんだよ)」


叫べば痛い目を見る。


目の前にいる女性、シャルブイは短気で暴力的な性格。反論すれば殴られる。


沈黙を選ぶことにした。


来栖はなんとなくだが察した。


目の前の女性といい、スカイウォーカーといい、C.D.M.Eのメンバーも一癖、二癖もあるんだろうなと思った。


「(あいつらの所……流血沙汰起こっていないといいんだけど)」


彼の予想は既に裏切れていることを知らない。

















目の前で鮮血が飛び散る。


壁や床、宙に舞う血をみた吹雪の瞳は見開かれていた。


上半身を切り裂かれてこと切れるC.D.M.Eのエージェントだった体。


話しもせずに街中を歩いていた時、何の前触れもなくエージェントの体が両断される。


敵の襲撃かと考えようとしたが目の前に立つ人物を見て思考自体がマヒしてしまう。


「武器喰い」


「やぁ、ふぶっきー。元気そうだねぇ」


目の前に現れた女性はかぶっていたフードを外して笑みを浮かべる。


獣染みた笑み。


見るものすべてを恐怖へ陥れる気を放ちながら彼女はその場から動かない。


武器喰いはホルダーが持つ武器を食らうという異常な力を宿した存在だ。姿を見せたのは何カ月も前。その時は夜明を巻き込み、魔物によって汚染された水道施設の中で激しい戦いが行われた。


何より、吹雪は夜明と出会うまで武器喰いの部下として活動していた。


夜明と再会する形で武器喰いとは袂を分かっている。


「キミ達の噂は耳に届いているよ?黒の騎士団だっけ?中二臭いと思ったけれど、メッキの勇者と比べて天と地ほどの差があるから凄いねぇ……使徒も三人ほど倒しているみたいだし」


「何の用ですか?」


親しく話しかける相手に吹雪は静かに尋ねた。


油断してはいけない。


あれから幾度も場数を潜り抜けた吹雪だが彼女には遠く及ばない。


黒月を取り出して戦闘となったら足元に転がっている死体と同じ末路を辿る。


「貴方は組織から追われている身です。そんな人がこんな町中に、組織の一員である吹雪達の前に目的もなく現れるとは思えない」


ニタァと三日月の笑みを深めた。


「いやぁ、成長したねぇ。愛は人を変えるといったが本当のようだ。依存しているだけのようにみえるけれどね」


「……馬鹿にしないでください」


「うん、馬鹿にはしてないよ。さて、と、話に入るけれど」


クルン!と武器喰いが前に手を振る。


金属が砕け散る音と共に地面へナイフが落ちた。


「おやおやおやぁ」


武器喰いが顔を上げると雷切を向けている夜明と背後から拳銃を突きつけているスカイウォーカーの姿がある。


「久しぶりだねぇ、白の死神君?いや、ここは黒の救世主とでも呼べばいいかい?」


「何故、ここにいる?」


「目的もなく来てはいけないかな?」


「無駄話をするな。こちらが質問をする」


無駄口を叩く武器喰いの後頭部へスカイウォーカーが拳銃を押し付ける。


直後、夜明とスカイウォーカーは同時にその場から離れた。


武器喰いを中心に膨大な殺気があふれ出す。


「あぁ、鬱陶しい……自分達に主導権があるような態度をとりやがって。いい加減にしねぇと頭カチ割るぞ」


豹変した武器喰いにスカイウォーカーが迷わず発砲する。


弾丸が額に突き刺さろうとした時、見えない壁に当たったように空中で制止した。


「そんなおもちゃが通用する――」


横から夜明の雷切が繰り出される。


雷の一撃は武器喰いにあたる直前で動きを止めた。


「話の途中に割り込んでんじゃ、ねぇよぉおおおおおおおおおおおおおお!」


「させません」


武器喰いが動き始める前に黒月を頭上から振り下ろす。


やはり見えない壁に阻まれるが衝撃を殺しきれないようで武器喰いの足元が陥没していく。


「ぐっ、げぇ」


「離脱する。スカイウォーカー」


「命令するな!」


夜明の言葉と共にスカイウォーカーが懐から閃光弾を投げる。


眩い光で視界が奪われる隙をついて三人はその場から離脱しようとした。


「まぁ、待ちなよ」


おかしなことが起こった。


閃光弾が輝いて視界を奪い、逃げるだけだった。


そのはずなのに。


「どういうことだ」


異変は微々たるものだったが夜明は気づいた。


状況がリセットされている。


スカイウォーカーが懐から閃光弾を取り出そうとして、吹雪が後ろに下がろうとしていた。


――時間が少し巻き戻っている。


少し遅れてスカイウォーカーや吹雪も気づく。


「仕掛けたのはこちらだが、少しくらい落ち着いてもらおうか。キミ達は子供ではないのだから」


紳士的な態度を見せる武器喰いに夜明達は慎重な動きをとる必要があるとアイコンタクトをとる。


「何のために俺達の前に姿を見せた?」


「今回の騒動が気に入らない。加えるとある人物の計画通りに動きたくなかっただけさ」


「ある人物とは誰の事です?」


「残念だがそれを教えることはできない。私にその権限がないからね」


「信用できるか」


「信じなくて構わない。だが状況は非常に切迫しているということを察してほしい」


「どういう意味だ?」


夜明の問いに武器喰いは小さな息を吐いて、とんでもない爆弾を投下した。


「このままでは本当の意味でプロジェクト・ホワイトが完遂されるのだよ」


























爆風と衝撃が彼女を襲う。


咄嗟に盾を展開できたのは今までの訓練の賜物か、運の良さか。


そのことを思う暇を許さずに巨大な影が襲い掛かる。


尻餅をつきながらも腕に装着している盾で防ぐ。


衝撃で後ろへ転倒した彼女へ再度、襲撃者は迫る。


「な、んで!」


飛来する拳のようなものを避けて水崎姫香は叫ぶ。


土煙が舞う中でローブを纏った人物は鋭い瞳で睨んできている。


「なんで、なの!?」


ふらふらと倒れそうになりながらも彼女は問いかけた。


目の前の相手へ問いかける必要がある。


「どうして、私を襲うの!?夜明君!」


ショッピングモールの中。


水崎姫香がローブを纏った宮本夜明に叫ぶも応答はなく、自らの手を振る。


照明の光を受けて輝く白髪がきらきらと輝く。


何メートルも離れた距離をなくすように手が伸びていく。


伸びてくる手はイージスを掴む。


払い落とす暇もなく手に引き寄せられながら地面を転がる。


「きゃっ」


悲鳴を上げながらも近くの柱にしがみつく。


同時に盾を奪われないように必死に抑えこむ。


相手は小さな笑みを浮かべて手を引き戻す。


するするとゴムのように伸びていた手が戻っていくのを見ながら姫香は叫んだ。


「どうして、どうして、なの?」


「お前が憎い」


ソプラノボイスで夜明が言葉を紡ぐ。


その言葉は憎悪が籠っていた。


いきなりの事に水崎姫香は困惑する事しかできない。


どうして、彼はいきなり自分へ憎いと言い出したのか。


何故、自分は憎まれているのか?


そんな彼女へ夜明は一言「憎い」としか言わず両腕を伸ばす。


腕の先端が槍へ変化する。


迫る槍をイージスで防ぐ。


直撃できなかった槍は軌道を変えて彼女へ迫ろうとする。


「させるか!」


そこで金色の剣を携えた男が割り込む。


「秋人……くん」


金色の剣を夜明へ向けている金城秋人の乱入に姫香は呆然としてしまう。


「大丈夫か?姫香」


「どうして」


「話は後だ」


剣先を宮本夜明へ向ける。


「宮本夜明、お前、何者だ」


「邪魔だ」


問いかけへ応えず金城秋人へ接近、手を振り下ろす。


ギリギリのところでカリバーンで防ぎ、反撃へ転じようとした時。


見上げた秋人は息を飲む。


夜明の下半身が人でなくなっていた。


「蛇、人間!?」


「シャアアアア!」


蛇のような奇声を放って鞭のように伸びた手が秋人へ襲い掛かった。


「やらせない」


イージスで手を防ぐ。


後ろへ倒れそうになるのを秋人が助ける。


しかし、頭の近くに瓦礫が掠り、頭から血が流れていく。


「お前、許さない!」


「だ、ダメ」


衝撃によるダメージか意識が朦朧としている姫香は秋人がやろうとしていることを止める。


彼が襲う理由はわからないが秋人は敵として戦おうとしている。


同じクラスメイトということもあるが、彼が剣を振るえばとんでもないことが怒ってしまう。察した水崎姫香の言葉を彼は聴かない。


金城秋人は既に前へ踏み込んでいた。


金色に輝く剣が宮本夜明へ振り下ろされる。


止めようにも間に合わない。


斬撃が彼の体を切り裂こうという瞬間、横から黒い影が飛び込む。


小さな雷撃と発砲音。


その場に聞こえるはずのない音が響き渡る。


目の前で対峙している金城秋人は驚き、離れている姫香は呆然と彼の名前を呟く。


「ゼロワン、さん」


セイヴァー01。


テロリスト断罪の光に対抗すべく選出されたホルダー部隊の一人。


彼は金城秋人のカリバーンを刀で受け止めて銀色の蛇人間に拳銃を向けていた。


混沌。


そんな言葉が姫香の頭に浮かんだ。


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