56.共闘作戦
タイトル入れ忘れていた(汗
「はじめまして、米国の国土防衛対策機関、C.D.M.Eのコズミックといいます。お見知りおきを」
そういって微笑む男を前に構えを解く。
――C.D.M.E。
アメリカを中心に覚醒するホルダーの保護と戦闘不参加を表明する者達を監視する機関。
国連も承認しているらしく国外問わず活動を認められる許可証〈ライセンス〉を持っている。
「シーデーエムイーって、何か機械みたいな名前だな」
「来栖~、一昔前のおじさんみたいに発音しないでよ。笑い堪えるの必死なんだから」
「うぉい!?」
「そうですね。あまりに愚かな発音です」
「周りが冷たい……てか、発音だけでここまでいわれるのはきついんだけどぉ」
「話が進まない。ふざけるのもやめておけ」
――それにしてもC.D.M.Eか。
沈黙する室内の中で俺はコズミックという男を見る。
笑みを浮かべて剣呑な雰囲気を感じさせない男はどこにでもいる感じで親しみがもてる、そう感じさせる何かがこの男にはあった。
コズミックと目が合う。
「久しぶりだね、元気そうでよかったよ」
「?」
相手は親し気に話しかけてくる。
まるで顔見知りのような態度に俺は首を傾げそうになった。
この男と面識はない筈だ。
「悪いがアンタと顔を合わせるのが今日が初めてだ」
「無理はないか。遠目にキミをみただけだからね」
「そうか」
「訊かないのかい?」
「携わった任務についての口外は処刑の対象になる。聴くつもりはない」
「徹底しているね。うちのエージェントにも見習ってもらいたいものだ」
そういって控えている大男をみる。
迷彩服の大男は肩をすくめるのみだ。
「さて、立ち話もなんだからそろそろ中へ入ろうか」
「待て、そいつは誰だ?」
俺は黒土の後ろで控えている女を指す。
流れるような銀髪にビジネススーツを着ている女性。
どこにでもいるような女性と済ませられないのは腰にまで届く銀髪。
綺麗を通り越して芸術品といってもおかしくはない美貌は多くの男を釘づけにしてしまうだろう。
そんな女性が当たり前のように黒土の隣にいる。今までにいなかったことから自然と警戒心が生まれた。
「あぁ、そういえば連絡がまだだったね。彼女は僕の補佐になるヴァーチュだ」
「ヴァーチュ、デス。よろシク」
どこかタドタドしい日本語で彼女は挨拶をする。
「新入りの挨拶とこれから情報を共有する人との顔合わせがかぶっちゃったけれど、仕方ないか……さ、入ろう入ろう」
黒土に言われて渋々中へ入る。
念のため、周囲の確認を忘れない。
全員が集まった所で黒土が口を開く。
「さて、日本とアメリカが手を取り合って秘密裏に事を進めるという話なんだが、先日、キミ達が襲撃を受けた蛇……あれがどうも関係あるらしくてね」
「関係?」
「キミ達が襲撃を受けた蛇、識別名シルバースネークといわれている彼女はこちらで保護していたホルダーらしき一人だったんだよ」
コズミックの話を静かに聞こうとしていたが気になったことがあり口を開く。
「らしき?アンタ達はホルダー以外も確保しているのか」
「日本では少ないようだけれど、こちらではサイキックを有している者もちらほらと動いていてね。誰がホルダーか識別が難しいことから候補者も保護の対象としているんだ」
「そういや、アメリカはホルダーとは別に特殊能力を持っている奴らがいるんだっけ?」
「なにそれ?アメコミの見過ぎじゃない」
「いや、俺、関係ないし」
「どうでしょう、阿呆な事に来栖ありですから」
「おい!?」
「そのホルダー候補の情報はあるのか」
「あったといえばいいかな」
「……削除したのか?」
「残念ながら外部の手によって削除されており、名前以外はわかっていない」
「名前がわかっているなら対処できるだろ?」
「偽名使われたらおしまいじゃない~」
ノノアの指摘に来栖は沈黙する。
「その確保すべき蛇女の能力はなんです?まさか蛇に変身する能力というわけじゃありませんよね?」
「残念ながらその通りなんだ」
コズミックは蛇女の能力を話す。
「彼女の力はメタモルフォーゼ、いわゆる変身能力というものでどれだけの数変身できるのかは不明なのだが、一度変身すれば最低、十二時間は元の姿のままだということがわかっている」
「十二時間かぁ……既に経過しているから変身されていてもおかしくねぇな」
来栖の言葉通り、能力に制限がある場合は何とかできる。
しかし、既に能力が使用できるなら警戒しないといけない。
だが。
「奴が既にこの中にいるかもしれない可能性が出てきたな」
全員に緊張が走る。
ちらりと互いを見ようとする者はいない。
少しでも不審な動きをみせたら疑われる。
そんな空気が漂い始めていた。
「まぁ、大丈夫だろう」
「大丈夫だ」
警戒心が強まりそうになった中、コズミックと黒土がその空気を壊す。
「敵なら何かしでかしていてもおかしくはない」
「一致団結、一応、モットーとしているからね。危険な芽は早めに狩る」
黒土は俺を。
コズミックは殴り合った男を見ていた。
漂い始めた疑惑が霧散していく。
「とにかく、今回は協力して物事の対処に当たる必要があるんだよ。野放しにしておくと国交断裂の危機もあるからね」
「彼女は危険だ。このままではさらなる災厄を生み出す危険がでてくる。早急な対策を、そして」
そういって二人は同時に言う。
「「自己紹介を始めよう」」
俺ともう一人が溜息を零す。
「自己紹介でお食事会ってどうなんだよ……しかも、肉ばかり」
「一番食べている来栖がいっても説得力皆無だよね」
「右に同じく」
「ほら、キリノ、これ食べろ」
「うん」
来栖がぼやく横で俺はキリノへ肉料理を渡す。
その向かい側はコズミックが連れてきたCDMEのエージェントがいる。
数は四人。
男女という組み合わせから俺達と似ていると思った。
隣を見ればノノアは向かい側にいる女性と親しくしていた。俺達の中で一番社交性が高い彼女は既に殆どのメンバーと交流している。
唯一、できていないのは俺の正面に座っている男だけ。
鋭い目つきの男だけはノノアの問いに一切答えない。
会話をする気がない。
「……おい」
「なんだ?」
そんなことを考えていると目の前の男、名をスカイウォーカーがこちらへ話しかける。
話しかけただけなのに場が沈黙に包まれた。
「お兄さんに話しかけるとか勇気あるなぁ」
「首がチョンパされないことを願うわ」
「夜明さんに何かあれば容赦しない」
どうやら吹雪達は俺に話しかけたことで沈黙。
「マジかよ」
「スカイが口を開いた」
「天変地異の前触れか!?」
スカイウォーカー側は彼が口を開いたことで沈黙したようだ。
「宮本夜明といったな。この拠点を使わせてもらいたい」
「何故?話によればお前達にはホテルが宛がわれていると聴いたが」
「盗聴の危険がある。ここはその危険がない」
「だから使いたいと?悪いが俺達も使っていて部屋に限りがある。それでもよいのなら」
「構わない。空いている部屋に案内しよう」
「感謝する」
そんな会話の後、CDMEのメンバーは空いている部屋へ来栖とノノア、吹雪は拠点から離れることにした。
周辺に蛇女がいないかどうか調べてもらっている。
俺の部屋のベッドではすやすやと寝ているキリノの姿がある。
優しく頭を撫でていると小さくドアが開いた。
「休むところだったのか?」
入ってきたのはスカイウォーカーだった。
彼は眠っているキリノを優しげな眼差しで見た後、こちらをみる。
「話がある。ここでいいか」
「外に出るべきではないのか?」
「この話はあまり多くに聞かれるべきではない」
スカイウォーカーの物言いに疑問を覚えつつも俺は頷いた。
「コズミックはまだ明かすべきではないと考えているが俺達が追いかけることになっているシルバースネークはあるプロジェクトで生み出された産物だ」
「プロジェクト?」
「その名前をプロジェクト・ホワイト……計画の立案者は宮本不知火……戸籍データ上、お前の父親となっている人だ」
――宮本不知火。
名前は憶えている。
しかし、
「そうか、あの人は生きていたのか」
「あまり驚かないんだな」
「まぁ……あまり接点がなかったからな」
何より要らない子と俺は否定されていた。
そんな親を片隅に記憶しているだけまだ親不孝者と罵られることはないだろう。
「俺が宮本という苗字故にお前は父親と繋がりがあると睨んでいるのか?」
「最初はそう考えていた」
スカイウォーカーは初めて会った時から俺に猜疑の目を向けていた。
他人が信用できないのかと思っていたのだが、彼の目は俺だけに向けられていたからなんとなく理解したのだ。
何よりも。
記憶が確かなら両親は世界が壊れた日以降に日本を捨てて海外へ渡った。
理由は知らない。
研究のためだった気がするし。何か企みがあったような気がする。
あの時の俺は魔物を殺す事しか頭になかった。
家族の事など二の次になっていた。
「プロジェクト・ホワイトとはどんなものなんだ?」
「簡単に言えば人工的に超人を生み出し、魔物から人類を守るというものだ」
これがデータ、だとスカイウォーカーがタブレットを差し出す。
受け取って中身をチェックする。
一見すれば非人道的なものだ。
薬物投与による肉体の強化。
外部から手を加えることによる遺伝子操作。
その全てが失敗に終わっており被験者は死亡していた。
「成功例は一つもないとあったが?」
「公式はという前置きがつく」
「成る程、データに残されないような方法で生み出された成功例がいるわけか」
タブレットを操作するとそのデータらしきものがあるのだが。
「真っ黒、か」
データ削除と書かれて内容が塗りつぶされていた。
この組織も一枚岩というわけではないようだ。
「その蛇が俺を狙う理由は?」
「不明だ。こちらの任務は蛇を見つけ出し回収する事、それができない場合」
「処分か?」
「その通り、Mr,黒土の話によれば貴様が一番の実力者だという。不意打ちとはいえ、貴様の力の一端を見せてもらっている……期待させてもらう」
部屋を出ようとしたスカイウォーカーへ声をかける。
「そういうお前も実力の全てを出していないようだ、期待させてもらう」
俺の言葉に彼は振り返らずに外へ出ていく。
どうも、今回の任務は面倒を通り越してダルイという言葉を吐き出しそうになった。
深夜の街中、不良達が悲鳴を上げていた。
彼等は転倒したバイクを放置して今いる場所から逃げようとしている。
誰もが自分を優先していて他人をみる余裕もない。
そんな彼らの後ろにボロボロの衣服のみの女性がいた。
彼女は闇のように暗い瞳で男達を見ている。
少し前に蛇の姿を見ていたことで彼らの目には恐怖しかない。
「満たされない」
逃げ損ねた一人の首をへし折って女性は言葉を漏らす。
「足りない、苛立つ、怒る」
ぶつぶつと単語のような言葉を紡ぎながら跳び、一人、二人と傷だらけの手で首をへし折っていく。
十分も経たずに山ほどの死体が路地裏に積みあがる。
一つずつ回収して山になった死体を見て彼女は笑みを浮かべた。
口が三日月のように広く裂けていく。
どんどん広がっていくとともに大量の牙が生える。
やがて顔も広がっていき、体も銀色に変わっていく。
巨大な蛇は口からちょろちょろと舌を動かしながら死体の山へ顔を近づける。
やがてぼりぼりと肉と骨を咀嚼する音だけが路地裏に響く。
誰も訪れないのは既に蛇によって命を断たれているのか、片隅で寝ている筈のホームレスの姿もない。
死体の山を食べている蛇の後ろへ近づく存在があった。
純白の衣装をまとった青年がニコニコと笑みを浮かべている。
「うんうん、それだけ食べればキミの狙っている相手もやってくる。もうすぐ、もうすぐ、その炎を解き放てるよ」
青年の言葉に応えず一心不乱に蛇は肉を味わい続けた。




