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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第六章:逆恨みの追跡者―SilverSnake―
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55.C.D.M.E

新勢力ならぬ、新組織登場です。

「夜明君!?その手、どうしたんですか」

 夏、セミがうるさい季節。


 半袖の夏服へ衣替えした剣山第一高等学校の教室で水崎姫香が驚きの声を上げる。


 彼女は俺の右腕、ギプスで固定されているのをみていた。


「車と接触事故を起こして折れた」


「えぇ!?大丈夫だったんですか」


「この程度で済んだ」


 ひらひらと固定されたギプスをみせる。


 それだけでひそひそと周りが騒ぎ始めた。


 耳を傾ける必要はない。内容は予想できる。


「でも、痛かったんじゃないですか?どのくらいで完治するんです」


「……一か月もあればこのギプスはとれる」


「そんなに」


「この程度で済んで幸運らしい」


 嘘だが。


 折れた腕はあるホルダーの能力で治っている。


 しかし、俺へ疑惑の目を向けている彼女の予防策だ。


「一体、どうしてそんなことに」


「暴走車だった、よくあることだ」


「……」


 そっ、と小さな手が俺に伸びてくる。

 


 ギプス越しで感触は伝わってこない。不思議と彼女の温もりのようなものが感じられた。


 心配そうにこちらを見ている水崎姫香。


 俺は人の温もりに飢えているのだろうか?


 目の前の彼女と接している時、不思議と俺は何かを懐かしむ。


 それが何なのか、思い出そうとしてもできない。


 俺は。


「夜明さん!」


 思考の海へ沈みかけた所で第三者の声が響く。


 顔を向けると吹雪がニコニコとやってきている。


 その目は全く笑みを浮かべていなかった。


「おはようございます。もう吹雪を置いて出て行かないでくださいよ。夜明さんの右手は“まだ”使えないんですから」


 そういって俺の手を自身の体の方へ引き寄せていく。


 ケガをしているという事からあまり怪しまれないよう抵抗はしない。


 水崎姫香は一瞬、悲しそうな表情を浮かべるもすぐに笑顔になった。


「変な奴……」


「え?」


「いえいえ、ありがとうございます。水崎さん、私の彼氏を心配してくれて」


 彼氏の部分を強調して吹雪は言う。


 再び彼女の感情の波に変化が起こった。


 一瞬の事で元に戻る。


 何より時間切れだ。


「姫香」


 俺達が話をしていると英雄がやってきた。


 金城秋人は笑みを浮かべてやってくる。


 顔には包帯が巻かれていた。


「どうしたの?」


「あまり大きな声で言えないけれど、魔物の戦いで傷ついたんだ」


 困ったという様な態度でいう金城秋人へ水崎姫香は無事でよかったと漏らす。


 惚気を聴く気になれず俺は立ち上がる。


「夜明君、どこへ?」


「保健室、少し気分が悪い」


「それなら」


「大丈夫、ひとりで行ける」


 断りを入れて教室を出る。


 吹雪がこっそりと後をつけようとしていたがクラスの男子生徒に話しかけられて失敗している様子を確認してから保健室へ向かう。










「久しぶりにやってきたと思えば、キミは彼女の紹介すら私にしてくれないのか?」


 保健室の担当教師である片桐先生は半眼でこちらをみている。


「いきなりなんです?久しぶりですが、彼女とは身に覚えがないのですが」


 吹雪の事だろうと察したが一応、ぼかしてみることにした。


「白を切るか……まぁいい、無理に問い詰める必要もないしな。それよりもつれないなぁ、此処の所、暇をしていたんだぞ」


「保健室が暇なことは良いかと……色々とこちらが忙しかっただけです」


「確かに暇な時間は全て私の趣味に費やすことが出来た。しかし、一人というのは時に寂しいものでね。話し相手を欲しがることがあるのさ」


「ややこしいですね」


「人間……いや良い女とはそういうものさ」


 フッと笑みを深めて片桐先生は笑う。


 酷く様になっているのは彼女の放つオーラ故か。


 俺はその姿に見惚れそうになりつつもベッドへ腰かける。


「休みたいようだな」


「腕をケガして痛むんで」


 ギプスの腕を見せる。


 痛みもあるが何より昨日の任務の為に睡眠時間が削られていて脳が休むことを訴えていた。


 一瞥してから空いているベッドを指す。


「そこで休むといい」


「ありがとうございます」


 制服の上着と靴を脱いで横になる。


 カツカツと靴音と共に片桐先生が椅子へ腰かけた。


「……あの」


「なんだ?病人は安静にしておけ」


「傍で腰掛けられたら気になるんですが」


「安心しろ、看病するだけだ……教師の務めだろ?」


「そうですね」


 肩をすくめて横になる。


「変なことはしないでくださいよ」


「私をキミの知っている変態と一緒にするな。看病してやるだけだ」


「そうですか……では、寝ます」


 背を向けてそのまま眠りにつく。


 眠る瞬間に誰かの言葉が聞こえた様な気がした。


「前よりも変わったとみえる…………が、根底は変わらず、か」



















「一体、なんだったんだ?あの蛇」


 夕方、学校が終わり俺と吹雪は家へ戻らずに拠点へ向かう。


 尾行されていないか何度も確認を繰り返してたどりついた為に、いつもより遅い到着だ。


「夜明さん、腕は大丈夫なんですか?」


「痛み止めをうってある……戦闘は可能、制限時間があることを除けば、な」


「わかりました!夜明さんが戦えるようになるまで吹雪が全力でカバーします」


「いや、いい」


「ですが」


「片腕が使えなくても対応はできる」


 短く拒絶して扉を開ける。


 小さな足音と共にキリノが足にしがみつく。


「パパ!」


「遅くなった。すまないな」


「ううん!ノノアが相手してくれていた」


「そうか、みんなは?」


「真っ黒メガネ以外は全員きた」


「俺が最後か」


「俺達が最後ですよ」


「……チッ」


 抱き付いてきた吹雪を見てキリノが舌打ちをする。


 キリノはあれから少し態度が軟化した、みんなと接して角が少し丸くなった。それだけで変わるものかと首を傾げたくなかったがキリノ曰く「少し我慢する」ということらしい。



 勿論、吹雪に対してはふとした切欠で殺し合いに発展しそうな関係である事に変わりはないけれど。


「リビングへ行くぞ」


 にらみ合っている二人へいって玄関から移動する。


「あ、お兄さん、きたね~」


「遅かったな。大丈夫だったみたいで安心だ」


「あぁ、襲撃はなかった」


 出迎えた二人は私服姿でのんびりとくつろいでいた。


 最初の頃と比べると拠点を自分の部屋のように扱い始めている。


 俺の部屋も敵に狙われている危険があるからキリノをここで生活させているからあまり二人の事を言えないな。


「とりあえず、全員が揃ったし……話をするとしますか」

 来栖の言葉で全員がソファーへ座る。


「念のため周囲を調べたが監視されている様子も盗聴の気配もなかった」


「一応、ボク達の身元がバレていないかも確認したけれど、それらしき動きはなかったよ!」


「ネットなどを調べましたがあの蛇の目撃情報はありません。それと確保した人質ですが尋問中に命を落としたそうです」


「死んだって!?」


「服毒でもしたの」


「輸送中に殺されたらしい、黒土からの報告によると首から下を引きちぎられたような状態だったらしい」


「それって」


「あの蛇の仕業だろうな」


「てか、あの蛇は一体なんなんだ?CLが作り上げたキメラか何か?」


「それについては黒土から連絡があると……」


 手を上げて会話を中断させる。


 俺と吹雪が扉へ、ノノアと来栖が退路を確保すべく非常扉の方へ向かう。


 ゆっくりと扉を開けようとした時、乱暴にドアが壊されて武装した男達が入ってくる。


「02、無力化させる」


「了解です。03、04!敵襲!」


「オッケー!」


「こっちはいない!」


 先頭の男がこちらへ銃を向けて叫ぶ。


 英語だった。


「ここは日本だ」


 間合いを詰めて手から銃を叩き落す。


 男は大きな拳を繰り出してきた。


 ギプスで受け流して左拳で殴る。


 衝撃で少し下がりながらも放たれた拳が壁にめり込む。


――普通の拳じゃない。


 こいつの攻撃は常人がだすものじゃない。


 隣の吹雪へ武器を出すなと指示する。


 驚きながらも身のこなしで攻撃を躱して相手を翻弄していた。


「警告する。これ以上、ふざけた真似をするならてめぇらを本気で消すぞ」


「よし、そこまでだ」


 扉の方から黒土が現れる。


 傍にはアメリカ人らしき男が立っていた。


「悪ふざけも度が過ぎると身を亡ぼすという事を知ったらどうだ?黒土」


「互いの実力を知る機会が必要だったんだよ。そうでないと今回の任務はクリアできない」


「あの蛇、こいつらと関係があると?」


「まぁ、その件に関しては……彼から説明してもらおう」


 男は四十代後半から五十代前半。


 金髪で優し気な表情を浮かべていた。


 纏っているスーツは高価なものだと一目見てわかる。


 男はこちらへ挨拶をした。


「はじめまして、米国の国土防衛対策機関、C.D.M.Eのコズミックといいます。お見知りおきを」


 告げられた組織名に今回の騒動は規模がでかくなる。


 俺達はそう直感する事しかできなかった。



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