53.新たな脅威
今回の章はこれにて終わりです。
コミティアへ参加していたり、色々あって更新がすっかり遅れました。
次章は今月中にスタートしますので、お待ちください。
永遠の監獄。
そこは表沙汰にできないイレギュラーホルダー達を隔離して管理する施設。
日本の国境ギリギリの無人島に設置されているそこは脱獄不可能、入ったら一生をそこで終えるといわれるほどの厳重なセキュリティが施されている。
夜明達が表と裏の境界線を壊したが彼らの存在を公にするわけにはいかないため、今もこの監獄は機能していた。
その中で最も危険とされている人物が隔離されているエリアがある。
人が監視を行わず常に移動する警備ロボットと監視カメラ、壁や鉄格子には高圧電流を流すほどのセキュリティが施されている場所に一人だけが隔離されていた。
「ふんふふふーん、ふんふふーん」
全身を拘束されている女性は鼻歌を歌っている。
顔も隠されているからどんな表情をしているのかわからない。しかし、鼻歌にのって体を揺らしている限り気分はいいのだろう。
そんな彼女の前に白い衣服の男女が立っていた。
「なーんで、こんな奴のところにこないといけないんだよ」
男が悪態をつく横で少女は無言だ。
二人の侵入者がいることに気付いている筈なのに女性は鼻歌をやめない。
むしろ、二人がきたことで鼻歌が大きくなっている気がした。
「おい、てめぇに話があるんだ、鼻歌やめろ」
鼻歌がさらに大きくなった。否、声を出して歌いだした。
その態度に男の怒りのボルテージはあがっていく。
こんなところへ足を運ぶことすら彼のプライドを貶めているに等しい。それに加えて目の前の女の態度が彼の神経を逆なでていた。
短気な性格の男は靴音を大きく鳴らす。
威嚇する際に使う手段だ。
「てめっ、喧嘩売ってんのか!」
「やめなさい」
前へ踏み出そうとした男を少女が止める。
腹部あたりへ手を当てて、抑えつけるようにしていた。
「邪魔すんな!こいつには立場ってものをわからせてやる!俺達が何なのか、こいつよりも強いってことを」
「“間合い”へ入れば貴方の命がありませんよ?」
少女の言葉に男は胡散臭そうなものをみる目をむけた。
「…あ?何寝ぼけたこと言ってんだ。こんな、ガッチガチに拘束されている奴に俺様がやられるわけがないだろ?」
「こうなりますよ?」
論より証拠。
言葉で聴かないのなら見せればいい。
少女が男より少し前に指を出す。
その途端、指が刃物で切り裂かれたかのように地面へ落ちる。
「な!?」
ぽたぽたと斬れた指先から血が零れていく。
「うーん、久しぶりに切ったけど、指先だけだねぇ。命は奪えていない」
顔を隠されているというのに何を斬ったのか把握した女性へ男は気味が悪い者を見る目を向ける。
それと比べると少女は表情を変えない。
「断罪の光がボクに何の用かな?まだ、出番は来ない筈だけれど」
「てめっ」
「貴方なら居場所を知っているのではないかと我々のトップは考えています」
「あぁ、アレのこと?難儀だねぇ。ちゃんと鎖で繋いでおかないからぁ。慈しむべき死を与えられずに苦しんでいる声が聞こえるよ」
「教えてください。アレはどこに向かおうとしているのですか?」
「教えてあげて、ボクにメリットはあるのかなぁ」
「てめぇ、舐めた態度をとり続けると痛い目みるぞ」
「そこの小僧はうるさいなぁ、いい加減、黙ってくれないと……殺すよ?」
ノワールの低い声に男は言葉を詰まらせる。
本来の彼ならばプライドを傷つけられて激怒して相手を惨殺していただろう。
しかし、それを忘れさせるほど、目の前の相手の威圧感が勝った。
まさに底なし。
断罪の光に属している使徒の二人は本能的に思い知らされる。
――ノワールと戦おうとするな。
戦えば、自分達でも無事で済まない。
「さて、そこの冷静な女の子、キミの探し求めているものだけれど。それは既に日本にいる」
「……そうですか」
「隠密に回収するつもりなら、急いだほうがいい。彼女は目的の為に手段を択ばない。その気になれば町一つ、あの炎で燃やし尽くすだろうねぇ」
「わかりました」
彼女は小さく頷くとノワールへ背を向ける。
「おい、行くのか?」
「用は果たしました。長居は無用です」
「コイツ、始末しなくていいのかよ」
「貴方は殺せるのですか?」
クワルトの質問にデースィモは黙る。
本来なら否定しない。
「おそらく世界最強の五本指に入っている彼女を殺せると貴方は本当にいえますか?我らが主に誓って?」
目の前の相手があまりに底なし過ぎて彼は頷くことが出来なかった。
ノワール。
先代の黒にして最恐最悪の狂人。
対峙した相手を殺した数は三桁を超え、多くのイレギュラーホルダーや民間人の命を奪い去った。
実力だけなら世界最強といえる相手に取引を持ち掛けるなど餌を腹ペコの獣へ差し出せという意味がある。
何より機嫌を損ねたら拘束されていても殺される。
クワルトとデースィモはそれをみせつけられたばかりだ。
「チッ、わーったよ」
デースィモが了承したことを確認してクワルトは歩き出す。
「ところで……あれは何のために日本へ?」
ぴた、と足を止めて振りかえる。
沸き上がった疑問を目の前の相手へぶつける。
アレは今まで何の感情も、動きを見せることすらなかった。
実験に立ち会ったクワルトからみてもあれはただ生きているだけの存在。
それがどうして、急に動き出したのか、少なからず彼女の中で興味がある。
「簡単なことだよ」
素顔を隠されているというのにノワールは楽しそうだった。
「あれは自分を“裏切った”男を追いかけて、自分のものにすることを目的としている。まさにあの伝説通りの結末になるかどうかは彼次第になってくるかもね」
「彼というのは今の黒、ですか?」
「今はセイヴァー01なんていう変な呼び名になっているけどねぇ……さてさて」
楽しそうに笑っているがその目は、彼らは気づいていないがノワールの目はずっとするほど冷たい光なきものだった。
「ボクの気持ちを無碍にした彼はあの子の気持ちを受け止めきれるかなぁ?見ものだよ。ま、頑張るといいさ。よ・あ・け」