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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第五章:崩壊する境界線―TheBlackChivalry―
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52.決闘ー姫香VS夜明ー

風邪ひいて、寝ていました。


体調管理には気を付けましょう。


 はっきりいって今すぐこの模擬戦を放棄したかった。


 初回と二回をみて、英雄たちの実力はわかった。


 なにより金城秋人とは一度やりあっている。


 あのバスタードソード使いの実力が知りたかったから丁度良かったがこれ以上の模擬戦へ必要性を微塵も感じない。


 黒土からすればこの模擬戦は必要らしく、帰宅許可を出さない。むしろ、積極に戦えと言ってくる。


「お兄さん、ファイト~!」


「ま、頑張ってなぁ」


「夜明さんがあわよくばあの女を始末することを期待します」


「パパ、頑張って」


 仲間達は優しく俺を見送る。


 吹雪の発言は横に置いておこう。


 抱き付いてくるキリノの頭を撫でて外へ出る。


「あぁ、そうそう」


 訓練場へ向かう俺の背中に投げられる声。


「殺してはいけないよ。あと、全力は出さないよう」


 釘をさす黒土へ無言の肯定をして外に出る。


 訓練場では既に水崎姫香が待っていた。


「待タせタ」


 首元につけているボイスチェンジャーで俺だとすぐにばれない。


「いいえ、私が先に早く来ただけです…えっと」


「01ト呼んでくレ」


 手短に答えて腰に下げている模造刀を取り出す。


「武器を出さないんですか?」


「模擬戦ダロ?」


 俺の言葉に水崎姫香は小さく頷いて盾を取り出す。


 イージスと名付けられている盾。


 黒銀の盾を前に出しつつ、拳を構える。


 形にはなっているようだ。但し、それだけ。


「何カ、格闘技をツカッテいるのカ?」


「えっと、いいえ」


「そうカ」


 では、はじめよう。


 そういった途端、開始のブザーが鳴り響く。


 盾を構えている相手に待ってみるが、何か起こる様子がない。


 カウンター狙いか、何か、か。


 模造刀を構えると同時に眼前へ立つ。


 え、と水崎姫香が目を見開く。


 盾で守り切れていない彼女の肩を突いた。


 衝撃と苦痛で顔が歪む。


 その姿に少しだけ罪悪感を覚えつつ攻撃を続ける。


 一撃、二撃、三撃目に至った所で彼女の体にいくつも傷ができていく。


 しかし、下がる様子も降参する様子も見せない。


「まダ、ヤるノか?」


「………はい」


 俺の問いに彼女は頷く。


 諦めの感情はない。


 どうやらまだ痛めつけないとダメなようだな。


 溜息を零しながら刀を振るう。


 ギン!と音を立てて盾にぶつかる。


「っぐ、ぁ、あぁ!」


 防げると思ったのだろう。


 盾で刀を受け止めようとしたが耐えられず隅の壁まで吹き飛ぶ。


「流石、ホルダーの盾というところか」


 模造刀の先端に亀裂が入っていた。


 対ホルダー用というわけではないから強度はそんなにない。


 相手の盾の強度がそれを上回っているという事。


「どうでもいいか」


 あまりに低い声のためボイスチェンジャーで変化されることがなかった。


 ふらふらと起き上がる水崎姫香を眺めながら地面を蹴る。


 小さく、蹴っただけだが、彼女の前へ降り立つ。


 慌てて起き上がろうとした水崎姫香の喉元へ刃を突きつける。


 その目に諦めはない。


 だが、弱い。


 弱すぎる。


 俺は苛立ちを隠さずに叫ぶ。


「オ前は弱イ」


 ショックを受けた様子で水崎姫香はびくっと体を揺らす。


「女王カラ防いだ盾ガどれほどの力を持ってイルかと期待していタが、この程度か、こレならまダ他のホルダー達ノ方が強い。使徒の方ガ強い」


 使徒の方が強い。


 彼女は驚きに顔を歪める。


「私は……」


「弱い、お前と戦う価値はない」


 ブンと音を立てると模造刀が音を立てて折れる。


 武器が破壊された事で勝者確定のブザーが鳴る。


 水崎姫香が勝者となった。


「なん、で」


「良かったな」


 今の俺は笑顔を浮かべているだろう。


 最悪の笑顔を。


「勝ちを譲ってもらえて良かったナァ?」


 戸惑いの顔が絶望に染まる。


「覚えておけ」


 囁くように彼女の耳元へ囁く。


「今のお前じゃ、使徒に殺されて終わる。そうなりたくなければ、自分で考えろ」


――どうすれば、生き残れるか。


――何をすれば、自分は強くなれるか。


――そうすれば。


「お前はまだ、強くなれる…誰にも奪われたくなければ、もっと強くなれ…だが、これは警告を含めている」


 彼女の首筋へナイフを当てる。


 冷たい感触に彼女の体が反応した。


「これ以上、アンタッチャブルへ近づくな。真実に良いも悪いもない…だが、お前の知ろうとしていることは今あるものを崩す危険性のあるものだ。故に知る必要がない。警告は伝えた。これ以上、動くというのなら俺は敵として」


――お前の前に立つだろう。


 低い声で伝えて袖口にナイフをしまい込む。


 扉を開けてやってくる金城秋人達の姿を横目で確認して、仲間達の所へ向かう。

面倒なことをしたせいで疲労が増した。


 静かに眠りたい。


 そんなことを思いながら空を見上げようとして、ここは室内であることを思い出す。


「いやぁ、お兄さんもえげつないことするねぇ」


 戻ってくるとノノアは面白いものを見たという表情で近づいてきた。


「みていたのか?」


「ううん、でも、予想はしていたんだ~。黒土さんからお兄さんとお姫様の関係は聴いていたからね!」


「成る程」


 黒土の奴が他人へ話したことに驚いたが…まぁ、どうでもいいことだ。


「あのお姫様が色々と調べていることはわかっていたみたいだし、使徒や周りの人間へ付け込まれないように強引なやり方で止めようとしたわけだね?」


「いいや」


 首を横に振る。


 ノノアの考えはあながち間違っていない。


 だが、その考えの前に一つだけ無視できないものがあった。


「俺の過去を探ろうとした」


「え?」


「一番、嫌なことをアイツはやろうとした」


 黒となった俺の。


 もっといえば、宮本夜明個人の過去を水崎姫香は調べようとしていた。


 自分の失われた記憶を取り戻すためというのもあるのだろうがこれだけは阻止しなければならない。


 俺の過去。


 誰かがそこへ、仮に仲間が踏み入ろうとするなら、全力で止めなければならない。


 そうでないと。


「………とにかく、話は終わりだ。もう用事はないだろ?俺は帰るぞ」


 疲れている俺へキリノが抱き付いてくる。


 キリノを抱き上げてそのまま外へ向かう。


 少し遅れて吹雪が後を追いかけてきた。


 傍で二人が何やら揉めていたが、かなりどうでもいい。



















 この時、既に警告など意味をなさないということを誰も、俺ですら予想していなかった。
















 撤去用の機材が並ぶ遊園地。


 二カ月ほど前に鮫の女王が暴れた場所だ。


 遊園地としての面影は残っているがそれよりも鮫の女王の死骸が多く転がっている。


 死骸の撤去は予定よりも遅れていた。


 魔物の死骸は有害物質が多く、ウィルステロと同じくらいの危険を伴う。


 その事から慎重な作業を有するのだが、地域に住んでいる住民から早く撤去を求める運動が多発している。


 加えて、空の女王の死骸も撤去優先度が高すぎたことから鮫の女王の死骸撤去はより遅れる原因となっていた。


 その片隅、死骸を集まり小さな山となっている場所。


 ぼこりと何かが膨れ上がる。


 ゆっくりと膨れ上がったそれは人の形をしている。






「……ここ、どこ?」





 現れた少女は周りの景色を見て静かに呟いた。


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