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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第一章:狙われた銀姫―FirstStrike-
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4.歪んだ正義

ある意味、下種な主人公かなぁ。

 瞼を閉じれば“彼”のことを思い出す。


 七年前、この街へ引っ越してきた俺は友達がうまく作れなかった。


 両親は生まれた時から忙しく家に戻ってくることがほとんどなかった。あったとしても着替えを取りに来る時だけで家政婦に任せていた。


 しばらくしてから偉大な研究の為ということで家へ戻ってこなくなる。


 家族がいない。


 温もりがわからなかった。


 だから友達を一人も作れなかった。


 親なしと心無い連中の声が刃となって向かってくる。


 奴らからは攻撃することでしか身を守れなかった。


 友達が欲しい。


 温もりが欲しい。


 ハリネズミのジレンマを抱えながら毎日生きてきた。


 そんな俺はある奴と親しくなった。


 切欠は喧嘩だった。


 公園のブランコで遊んでいると年上の連中に絡まれた。


 近隣で有名な悪ガキ達。


 誰とも仲良くせずに一人でいる俺の姿を生意気と捉えたのだろう。


 最初はいちゃもんをつけるだけだったが無視を決め込んだことで腹を立てて喧嘩になった。


 小さい子の喧嘩だ、頭を叩いたり引っかいたりとタカがしれている。


 だが数の暴力というものほど厄介さはない。


 一人が叩けば、もう一人が叩く。


 誰かが動けば次も続く。


 終わりのない暴力の波が襲い掛かった。


 そこに颯爽と一人が現れる。


 帽子を深くかぶったソイツは悪ガキの一人を突き飛ばすと叫んだ。


「弱い者いじめはやめろ」


 暴力から逃れた俺はつかつかと歩み寄るそいつを殴り飛ばした。


「な、何するんだ!?」


「俺は、弱くなんかない!」


 他者から見たら俺は弱い。


 弱い子、そうみられたことが悔しい。


 抗うために暴力という形で戦った。弱いといわれることが腹立たしい。強いんだと叫びたかった。


 そこからは助けに入った子、いじめられていた子の壮大な喧嘩だ。


 悪ガキ達も巻き込んで最終的に残ったのは俺と助けに入った子。


 喧嘩を境に俺は親しくなった。


 “よっちゃん”と名付けられた。俺は“なーちゃん”と呼ぶ。


 公園ではしゃぎまわったり、しょうもない事で喧嘩をして互いに泣き出す。


 振り返って一番、幸せな時間だった。


 だからこそ、幸せが奪われた日を鮮明に思い出してしまう。


――世界が壊れた日。


 魔物が各地に現れて蹂躙していく悪魔の時間。


 見ているだけしかなかった。


 街に愛着はなかったけれど、壊れていくのをみているのは嫌だった。


 その中でなーちゃんだけが動いた。


「よっちゃん、みんなを連れてここから離れよう」


 逃げることを選んだ。


 出会った時からずっと思っていた。なーちゃんは強い。


 暴力のような強さとは違う。別の意味での芯がある強さがあった。


 羨ましいと思う。


 なーちゃんの強さと決意に頷こうとした時、


――“奴”が現れた。


 全身が純白で背中に輝く翼。


 誰もが天使だと思っただろう。


 けれど、俺達にとって“奴”は悪魔だった。


 “奴”は手から光り輝く剣を生み出して俺達以外の奴らを消し去る。


 突然のことに見ているしかできなかった。


 短い時間で周りが血の海になる。


「安心しろ、お前達もすぐに後を追わせてやろう」


 微笑みながら“奴”は光剣を振り上げる。


「よっちゃん!」


 隣にいた“なーちゃん”が突き飛ばす。


 剣は体を貫く。


 かぶっていた帽子が地面に落ちる。


「なーちゃん!」


 俺は駆けよって抱き上げた。


 手や服が真っ赤に染まっていくがそんなことは眼中になかった。


 必死になんとかしようとするが何もできない。


「よっ……ちゃん」


「なーちゃん、何で!」


「僕が動かなかったら…よっちゃん、串刺しになっていた。そんなの、嫌だからさ」


「だからって、お前がこんな、こんなことになる必要ないだろ!?」


 声が震えていた。


 なんとかしようと考えても小さな俺に出来ることは限られている。


 真っ赤になった手が頬へ伸ばされた。


「そう、だね…でもさ、大事な親友が危ない、ってみたら…勝手に動い、ゴホゴホ!」


 顔に赤いものが飛び散った。


「よっちゃん、泣かないでよ」


「誰が、誰が泣くかよ!!お前の勘違いだ…だから、さっさと目を」


「興醒めだ」


 肉を貫く嫌な音が聞こえた。


 俺のすぐ下から。


「ぁ…」


「友情ごっこを最後まで鑑賞してやるつもりだったがつまらん、あまりにつまらないから我自らが幕引きさせてやろう。光栄に思うがいい」


 光の剣が体を貫いている。


 それをただ、みていた。


 何で。


 抱きかかえているなーちゃんの体が冷たくなっていく。


――どうして!!


 うっすらと空いている目は動く様子がない。


――どうして俺達がこんな目に合わないといけない!


「お前達人間は一人残らず消し去ってやる。我を目覚めさせたことを後悔させて、全て滅ぼす。絶望しろ、お前達に未来はない」


 薄れていく意識の中で“奴”の言葉が反響する。


 俺は死んだ。でも戻ってきた。


 力を手にして。


 奪われたものはかえってこなかった。


 だから、誓った。


 今度は俺が奴の全てを奪って、潰してやる。





























 視界に白い天井が広がる。


 体を起こすとわき腹に小さな痛みが走った。


 視線を下すと包帯が巻かれている。


「そうか…」


 記憶がよみがえる。


 水崎姫香と共に遊園地へ、女王級の魔物が出現。


 記憶が整理したところで傍に人の気配があった。


 横を見ると水崎姫香が半ばベッドへ体を預けるようにしている。


 腕に包帯を巻かれている以外に外傷はみられなかった。


 卓上の携帯が振動している。


『その様子だと無事に目を覚ましたみたいだね。安心したよ』


 電話の相手は俺の質問に答えない。


「あれからどうなった?」


『女王級は遊園地のど真ん中で活動停止中、自衛隊の攻撃を受けても動きはなし…大和機関は各地にいる武器所持者を集めて総力戦を考えているようだよ』


「そうか…」


『悪いけれど、キミは彼女の護衛を引き続き』


「俺の気のせいかもしれないが」


 黒土の言葉を遮る形で訊ねる。


「あの魔物は水崎姫香を狙っていたような気がした。今回の護衛の件と何か関係があるのか?」


『どうだろうね?もし、彼女が魔物とかかわりがあるとしたらどうするつもりだい』


「殺す」


 迷わずに答える。


 魔物は全て根絶やしにする。


『おやおや、なら、教えるわけにはいかないね』


「彼女に何かあるようだな」


『まー、この応対じゃばれるね。上からの指示を伝えるけれど、護衛を続行せよ。次の命令があるまで待機だよ』


 電話を一方的に切る。


 駒に必要以上の情報は伝えないというわけか。


 携帯を置こうとすると水崎姫香と目が合う。


 電話の間に目を覚ましたらしい。


 寝ぼけ眼だった彼女だったが、瞳を潤ませて俺へ抱き付いてきた。


「宮本君!良かった…」


「おい、何を」


「本当に、よかった」


 腰辺りに抱き付いている彼女はぽろぽろと涙を流していた。


 こういう時にどうすればいいのかわからない。


 しばらく考えて、彼女を引きはがす。


「離れろ」


「ご、ごめんなさい。その、痛む?」


「こんなものかすり傷にもならない。それに、痛みなんか慣れている」


「慣れちゃ、ダメだよ」


 心配するように彼女は言う。


 それに俺は返さない。


 沈黙が続いた。


「宮本君、ホルダーだったんだね」


「……あぁ」


 雷切とアレを使う所を見られた以上、ごまかすことはできない。


 最悪、記憶を消すという手段がある。


「私を殺すためにいるの?」


「…どういう意味だ」


――私を殺す。


 その言葉の意味が分からず訊ねてしまった。


「宮本君なら……いいかな」


「おい?」


 水崎姫香は立ち上がると上着を脱ぐ。


 突然の事に俺は困惑する。


 上着を脱いで、その中にあるシャツまで脱いでいく。


 本来なら止めるべきだったのだろう。


 だが、薄着になっていくにつれてあるモノが目に入った。


「何だ、それは…」


 服の上から覗くはずの白い素肌。胸から首、二の腕までに刻まれたような不気味な刻印。


 タトゥーとは別のものだという事はわかる。


「これは、魔物に刻まれたんだ」


 昔、魔物の頻出が今よりも多発していた時期。


 小学生の修学旅行でバスに乗っていた彼女は魔物の襲撃を受けた。


 一人だけ生き残った彼女へ魔物によって刻まれたらしい。


「それが、あの魔物だったの…」


 これは生贄の証だと魔物は刻印を通して伝えた。


 時が来れば自らが食す。


 それまで死ぬことは許されない。


 魔物はそれだけを伝えると姿を消した。


 今日、魔物は現れて、刻印を通して言われる。


「時が満ちたって…」


「じゃあ、奴はお前を食べるために…」


「うん」


 自分の体を抱きしめながら彼女は頷く。


 後悔と恐怖。


 怯えている彼女の顔に浮かんでいる感情はそれだった。


「魔物にそんな特性があったんだな」


 一般的に魔物とは対話ができない。


 人類を虐殺する存在として認識されている。無差別に殺しているのかと思ったらある程度の好みのようなものがあった…どうでもいいか。


「それで、魔物の言葉通り熟すまで生きてきたというわけか」


 傷を広げるような言葉を投げる。


 水崎姫香はショックを受けた様な表情にならなかった。


 俺の言葉に彼女は置かれているペーパーナイフを手に取る。


「おい、何を」


「自殺しようとするとこうなるの」


 止めに入る暇もなく、彼女はペーパーナイフを胸元へ突き立てた。


 しかし、ペーパーナイフは胸に刺さる直前で歪曲して地面へ落ちる。


 手に取ると刃物としての機能は完全に失われていた。


「死のうとすると…止められるんだ。今までにいろいろと試そうとしたんだ…服毒、水死、首つり…火災の中へ入ったこともあったかな」


 全部失敗したけど、と自虐的な笑みを浮かべる。


「そして、今日、あの魔物がやってきた…」


「ふぅん」


「…同情とか、してくれないんだね」


「必要なのか?」


 俺の問いに彼女は首を振る。


「同情されても何か変わるわけじゃないから…やっぱり、宮本君は違うね」


「…違う?」


「うん。はじめて会った時もそうだけど、宮本君はクラスメイトのみんなと何か違うって思ったんだ」


「浮いていて嫌われているからな」


「違うよ」


「違う?何が」


「宮本君は…なんていえばいいのかな。強い人だなって。私があってきたどの人達よりも強い。そう感じたんだ」


「ハッ」


 強い?


 この俺が?冗談も大概にしてほしい。


 俺みたいな奴が強いというのならこの世界からとっくに魔物を駆逐できているだろう。


「俺が強かったら何も失っていないさ」


「え?」


「何でもない」


「……やっぱり、宮本君と話していると楽しいなぁ」


「自分で言うのもなんだが、こんな根暗と話していて楽しいか?」


「うん、何だろうね。私はここにいるんだぁって実感できるんだ」


「…お前は」


――お前はどうしたいんだ?


 そう問いかけようとした言葉を飲み込む。

















 飲み物を買いに行くといって病室を出る。


 夜の病院内を歩いていた俺は壁にもたれている黒土を見つけた。


「話せ」


「上から目線だね。まぁ…仕方ないか」


 黒土は「これはS級秘匿情報なんだけど」という前置きをして話し出す。


「彼女は魔物に魅入られた少女なんだよ」


「魅入られた?」


「公式に発表していないけれど、上位種の魔物は食べる人間を選別する。選ばれた人間は胸に刻印を刻まれて時が来ればその魔物に捕食される。選ばれた人間を魔に魅入られた者と呼んでいる」


「…そんなことが」


「否定したいところだけどねぇ、残念ながら過去に実例が存在するから否定できない。もっともその原理に関しては解明されていない。上は秘密裏にそういう人間を把握して管理する方針をとっているのさ」


「今回の護衛に俺が選ばれた理由がわかった」


 つまるところ表沙汰になっては困る水崎姫香の秘密を守る意味もあったのだろう。


 影が護衛につけばすべてが秘密裏に終わらせることができる。


「文字通り、掃除屋か」


「さて、本題に入ろうか」


 黒土の言葉に顔を上げる。


「水崎姫香の護衛を続けよ…魔物殲滅するまでね」


「殲滅が完了した後、水崎姫香は?」


「…キミの知るべきことじゃないよ」


「そうか、なら」


――その命令は拒否する。


 俺の言葉に黒土は信じられないものを見るような目を向けた。


 離れようとした時、背後で鉄の音が響く。


「何の真似だ?」


「わかっているだろう?掃除屋は命令拒否を許されない。この命令を受けないとキミは拘束、もしくは処理される」


「そんなことはわかっている」


「ならば、何故だ!」


 拳銃を構えたまま黒土は叫ぶ。


「無駄だ。こんなものは通用しない」


 一瞬で黒土と間合いを詰める。


 隙をついて奴から拳銃を奪う。


「何故、か」


 俺は自問する。


 何故、命令に逆らうか。


 何故か。


 答えは簡単だった。


 俺は。


「気に入らないんだ」


 俺は水崎姫香が気に入らない。


 運命という言葉で全てを諦めて、抗おうとしない彼女を見て、あの時の自分と重なる。


 親友が殺されるのを見ていることしかできなかった時。


 無力な自分と重なるのだ。


 だから、気に入らない。


 今の水崎姫香を守りたいなんていう気持ちはなかった。


 故に、俺は本来の目的を実行する。


「一体、何を」


「黒土、俺はこの時を待っていたんだよ」


 外の景色を見て微笑む。


「俺は女王級を殺す。そして」


――ついでに水崎姫香を救ってやる。




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