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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第五章:崩壊する境界線―TheBlackChivalry―
48/81

48.発表される存在


 死んだ英雄の葬式会場を襲撃した謎の集団。


 金城達は知らないが会場は白一色の武装集団に占拠されていた。大勢の命が彼らにとって奪われている時、彼らは突如、姿を見せた。


 全身を黒一色で纏い、英雄とされる人物たちとは異なる武器を手にして武装集団を無力化させた者達。


 顔を仮面やゴーグルなどで姿を隠し、まさに駿足の動きで敵を無力化させた彼らをマスコミは興味を示した。



 報道陣が知りたかった情報を大和機関は二週間という期間をおいて発表した。


 まずは、敵の存在を。


――断罪の光、ConvictLight。


 アンチホルダーを謳うメンバーで構成された組織で非人道的な実験で生み出された人間、通称“使徒”を戦力として今の社会に牙をむくテロ集団。


 それが断罪の光だと大和機関は報道する。


 彼らの目的はホルダーを滅し、世界を掌握するという事。


 ホルダーは世界を滅ぼす元凶であり魔物こそが人類を救うという恐ろしい考えに染まっており魔物と同等、もしくはそれ以上の危険性を孕んでいる。


 英雄すら殺せる危険性のある連中に日本のホルダーは立ち向かえるのか?


 その疑問の答えを出すかのように大和機関はある部隊の発表を同時に行った。


 それこそが、先日現れた素顔を隠したホルダー達のことだ。


 敵対する断罪の光に素顔をさらされることは危険のため、常に素顔を隠している。


 使徒撃退を目的として秘密裏に集められ、特殊な訓練を受けたホルダー達。


 使う武器、性別、素性の全てが秘匿された存在。


 使徒対策ホルダー部隊。


 彼らこそが新たな脅威に対抗できる希望であり新たな救世主。


 統括する役目を請け負った者、黒土龍二郎の発表に誰もが驚きを隠せなかった。

今まで秘匿されていた理由についてマスコミが騒ぎ出す。


 黒土はメガネを戻しつつ、話を続ける。


 それは敵対組織がどこで情報を嗅ぎつけるかわからなかったから。敵は既に大和機関の内部にも侵入しており様々な情報が盗まれる危険があったから最低限の人間しか参加していない。


 ホルダーといっても彼らは取り締まる側であり顔がバレてしまえば隠密活動もできない為、情報開示は行えないなど。


 マスコミの質問にすらすらと答えていく黒土。


 そのやりとりを遠くのビルから眺めている者達がいる。


「なんというかさぁ~」


 倒れている白衣の狙撃手に斧を突き立てて来栖、もとい嵐が呟く。


「あぁいう記者会見行っている横で本来、俺達がいるべきものじゃないの?なんでこんな連中の始末を俺達がやらないといけないんだよ」


「敵がここを襲撃する可能性があるから雪達で見回りをするという話です」


「そうそう~、それにしても本当に狙撃してくるなんて予想されやすいのか…黒土さんが凄いのか、なんともいえないね」


 ふらふらと体を起こして拳銃を構えようとした男の手を黒が雷切で切り落とす。


 悲鳴を上げてのたうち回る男を見ながら会場を見る。


 今も力説している黒土、その姿を視ていると少し前の記憶がよみがえる。
















「境界線を壊せとはどういうことだ?」


 黒土の言葉に夜明達は困惑する。


 境界線といわれて彼らの頭に浮かぶのはホルダーの表と裏。


 共通して考えられたのはそれだった。


「そのままの意味だよ」


「だから訊いている。ホルダーが生まれてそれを管理している組織、いや大和機関が築いてきた全てを崩すつもりか?」


「そ、そうだぜ!?裏は問題があるってことで今の地位にいるんだ。それを壊す理由ってものを説明してくれよ!」


 冷静さを取り戻した来栖が訊ねる。


 此処にいるメンバーは性格、生活に問題があるという事から表の英雄になれず裏の掃除屋として活動してきた。


 その長年、築いてきたものを壊す。


――理由がわからない。


 場にいる全員の気持ちがそこにあった。


「今のままだと大和機関も、日本、世界すべてが滅ぶからという理由がある」


「滅ぶ?」


「断罪の光…彼らが保有する魔獣と使徒。その全てが我々にとって脅威となる。その敵と戦うには今のままじゃ圧倒的に不利なんだよ」


「だから、境界線を壊すの?それだけじゃ理由には」


「十分な理由だよ。はっきりいって、現状じゃ、奴らに対抗することは不可能だ。負けは見えている」


「そういう」


 夜明の言葉に黒土は顔を上げる。


「お前が判断した根拠は何だ?」


 黒土が勝てないと判断するに至る何かが夜明は知りたかった。


 互いに付き合いの短くないからこそわかる。


 彼が今のままで負けるといった事に理由はあると。


「密かに活動することにデメリットが多きいのさ。今までは陰ながらにイレギュラーホルダーや敵対する連中を捕縛することができる相手だった。しかし、向こうは包み隠すことをしない。それどころか本気を出せば街中で騒ぎを起こしかねない。そんな奴らに今のままでは後手に回り続けてしまう…何よりも、これが重要なことだ。表の連中は人を殺せない」


 人を殺せない。


 その言葉の意味を夜明達はよくわかった。


「成程」


 夜明は納得した。


 表の英雄たちは魔物を殺す事においては躊躇いをみせない。


 しかし、人間と戦う。こと細かく言えば人の形をしている者に対して連中は戦うことを拒むだろう。


 決まってこう言うだろう。


――人間とは戦えない。我々が戦うのは魔物だ。


 夜明の言葉に彼らは納得をみせる。


 表の連中と違い、自分達ならためらいもせずに命を奪うことが出来る。


「いっちゃえば、彼らは温いもんね~」


「そんな連中が果たして使徒と戦えるか、答えはノーだ。甘い連中じゃ、殺されるのがオチだ。実際、一人が殺されている。この調子じゃ全員が狩られるのは時間の問題だ」


「…だから、境界線を壊して吹雪達に奴らと戦わせようというんですか?」


「その通り、勿論、キミ達の事についての報道はいくつか制限が掛けられるけどね」


 黒土の言葉に全員が沈黙する。


 今まで裏の人間として活動してきた自分達が表へ出ることに戸惑いがあるのだろう。


「表へ出ても奴らを殺せるのか?」


 沈黙を破るようにして夜明が訊ねる。


 皆が息を飲む。


 夜明は笑っていた。


 しかし、普通に浮かべる笑みではない。


 復讐者としての笑みだ。


「俺達が表に出ても、奴らを潰すことに変わりはないんだな?」


 確かめるような問いに黒土は「待っていた」とばかりに目を細める。


 そのことに気付いた者はいない。


 夜明の目の奥の復讐心に驚くばかりだ。


「そうとも、キミ達がやることに変化はない。奴らを潰す。そうして、平和を維持してもらう。ただ、マスコミなどに存在が明るみに出るだけ」


「そうか」


 彼は静かに立ち上がる。


「必要なことなら俺は表へ出る」


「キミならそういうと思っていたよ。これからも頼むよ」



















「お、記者会見が終わったようだな」


 来栖、嵐の言葉に黒は視線を向ける。


 窓の向こう、会見が終わるも未だマスコミは黒土を追いかけていた。


 遠くから見ているこちらと黒土と視線が交差したような気がする。


 黒はゴーグル越しに周りを見た。


 英雄が死んだ。


 新しい敵が生まれた。


 対抗するために新たなホルダーが現れる。


 しかし、街に住む人々の生活に大きな変化はない。


 これだけの騒ぎがあったというのに誰も怯えたりしていない。


 変わらないのだ。


 何も変わらない。


「……世界を守る事に興味はない」


 彼の中にあるのは復讐する事。


 自分から大切な友を奪った白い奴。それと同じ姿をしている使徒を殺す。


 大切なものを自分から奪うというのなら。


「何であろうと容赦しない」


 その時、黒の目はある少女の姿を捉える。


 おそらく会見を眺めていたのだろう。


 腰にまで届く銀髪、整った顔は何かを探すように動いている。


――水崎姫香。


 彼女を見ていると自分の中で渦巻いている復讐の炎が薄まる。


 代わりに何かが、言葉にすることのできない何かが自分の中で大きくなっていく。


「俺は」


 中で渦巻く感情が何なのか謎を残しつつ、黒達は全ての敵を排除してその場から消える。


 報道されたホルダー部隊に関してネットである名前が囁かれることとなった。



――黒の騎士団。



 全身を黒で統一していたことからいつからかその名が定着していくことはまだまだ先の話である。


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