45.黒土の計画
偶に他のユーザーさんの小説をみていて、思うんですけれど、キャラ設定とかありますけれど、この小説もそういうの出した方がいいですかね?
「崩壊が始まっている」
黒土は大和機関の管理するビルに呼び出されていた。
彼の前にいるのは組織の長たる壱与。
扇子で口元を隠した彼女の言葉に黒土は内心、笑みを深める。
待っていた時がきた、もし、表情が顔に出ていたらそう読めただろう。
「数時間ほど前に全国で流された映像は知っているな?」
「はい」
「既に分かっていると思うが放送は敵によってジャックされ、表の英雄の一人、伊達が命を落とした」
年長者にして表の英雄のまとめ役である伊達が死んだ。
この事実は大和機関によって秘匿したかった。
「我々が情報を整理する前に敵の手によって流された」
「…そのようですね」
壱与は口元を扇子で隠しながら会話をする。
しかし、表情は険しい。
敵に先手を取られたことが悔しいのだろう。
「秘匿していた情報が表へ流れたことによって…奴らに先手を取られた。ここから先は情報戦になっていくことは間違いなし」
「それだけで終わるでしょうか」
壱与の言葉に黒土は自らの疑問をぶつける。
「敵は我々の存在を潰すことを目的としている。この前の施設の任務。あれによって多くの手駒たる掃除屋を失った我々に対して次に敵がとってきたのが情報戦…これだけで終わるとは考えられない。そうすれば」
「まだ、続きがあると考えるか?」
「はい」
頷いた黒土に彼女は眉間へしわを寄せた。
「黒土よ。お前ならどんな手段をとる?」
「考えられる限り境界線の崩壊です」
「境界線?」
「組織は罪を犯すイレギュラーホルダーを確保するという裏の仕事があり、この事実は超一級秘匿事項です。敵が情報戦を仕掛けるとしても、この点を放置することはありえない」
「境界線の崩壊とは」
「はい、表と裏の、今の成り立っている現実を壊すことをさします」
壱与は顔を顰める。
「そこで、私から提案があります」
その提案を聴いた時、壱与は驚きで顔を歪めた。
「お主、本気なのか?」
「敵が崩壊しようと目論むなら、先にこちらから動く必要があります。現状、表の英雄の情報が流された以上、情報戦はこちらが不利。このまま行く場合の最悪の線引きとしてのラインだと思われます」
「…成程、貴様の話を聞く限り、これ以上の秘匿は不可能だな」
壱与の言葉に黒土は表情を変えていないが内心は計画通りと思っている。
本来なら相手の嘘を見抜くという力がある壱与だが、黒土は嘘をついていない。組織に忠誠を誓っており、その中で彼の“計画”を推し進めているだけに過ぎない。
「良いだろう…お前に一任する。頼むぞ。黒土」
「わかりました。壱与様」
恭しく頭を下げて黒土は室内を後にする。
「裏の終わり…予期していたとはいえ、早すぎる。早すぎるな」
誰もいなくなった室内で壱与は呟いた。
「テレビで流された表の英雄、伊達時治下〈だてときちか〉、情報によると槍の武器を使い、各地域の魔物討伐をしていたそうだ」
黒土が手配したマンション。
そこへ俺達は集まっている。
あれから黒土から指令を下される場合、ここで集まることが決まっていた。
来栖が集めてきた情報を伝える。
「まー、ボクたち、表の英雄についてはほとんど知らないからねぇ。そもそも表の英雄って、何人いるんだっけ?」
「今回いなくなった伊達を除けばあと八人…になるな」
「ということは九人かぁ、多いような少ないような?」
首を傾げるノノア。
「実際の所、各国と比べると表の数はすくねぇよ。英国の騎士団はレベルの低さ問わずして最低でも三十人はいると聴いている」
来栖の言葉通り、日本のホルダーの数は少ない。
覚醒した人間が犯罪者、正確に問題がありという事で厳選されてきたことから少ないという理由がある。何より大和機関の厳選審査が厳しすぎる。
「ま、俺達に問題あるのは否定しねぇな」
全員が頷く。
「…来栖、全員の英雄の名前、知っているか?」
「まぁ、一応、調べてきたけどさ」
来栖はタブレットを操作して名前を読み上げる。
――金城秋人。
メディアによく登場する、英雄たちの顔。
――立花唯。
学生、陸上部に所属している。
――盃ほむら。
雑誌モデルもこなしている。
――剣立次郎。
剣術の達人、実家の道場を継承している。
――野原誠一郎。
ゲーマー、常にゲーム機を持ち歩いている。
――工藤乱歌。
世界的有名な人物、常に世界を渡り歩いており、日本にいないことが多い。
――木下水地。
元科学者、後方支援が多い。
そして、水崎姫香。
「結構、男女分けられているんだね。むさくるしい男達だけかと思っていたよ」
「ま、それぞれの力が本気で相手すると面倒な事に変わりないんだけどな」
感心するノノアに来栖が呆れた声を漏らす。
実際の所、金城秋人と水崎姫香を除く英雄について俺達は知らない。
本来なら関わることすら許されない相手だ。そんな存在と近くにいる俺と吹雪はどれだけ異常なのかと理解させられる。
「ンで、問題なのは表の英雄が殺されて敵さんの…断罪の光だっけ?そいつらの宣戦布告が全国へ報道されちまったことだ」
「断罪の光…少し前の宣戦布告から色々なところに関与しています」
「あぁ」
ここ数日の依頼。
それは断罪の光が関与していると思われる施設の調査、情報の収集だ。
「ま、その先兵なのかわかんねぇけれど、あのツギハギ君がいるところに断罪の光あり、っていうことしかわかってないからな」
「そうだな」
ツギハギ。
先日の奴隷オークションでも姿を見せたツギハギ人間。いや、もっと雑なことを言うならゾンビという言葉が正しいか。
あれは断罪の光が対武器所持者、もしくは敵対者を始末するために作り出した先兵らしく、普通の人間より頑丈、ホルダーの武器を受けてもある程度なら戦闘継続可能という人間兵器。
正確な名前がわからないことからノノアの「ツギハギゾンビ」もしくは「ツギハギ」を仮名としている。
別に敵だから名前とか不要なんだろうけれど。
「多分、表の英雄を殺したのって…あれだよね」
「今の所それ以外、考えられない」
ノノアのいう“あれ”。
国内にあった断罪の光が用意していた研究施設。
そこにいた複数の白い衣の連中。
デースィモやクワルトといった男女達。
「一度、ぶつかってみてわかる…あいつらはイレギュラーホルダーや並の魔物よりも力がある」
勝手に顕現した伊弉冉でぶつかったからわかる。
あいつらと本気で戦うことになったら殺し合いになるだろう。
此処にいる連中でも苦労する。最悪、待っているのは…。
「夜明さんがいうなら吹雪達も警戒する必要があります」
「そうだね~。お兄さんほどの猛者がいうんだから」
「そーだな」
俺の言葉に彼らは納得したような表情になった。
あの任務の後、彼らと距離が縮まった気がする。
俺が受け入れたという事もあるのだろう。任務以外でノノアや来栖とやり取りをすることが増えていた。
あの店へ足を運ぶことは嫌なんだが、来栖と二人で訪れて酷い目にあったのは記憶に新しい。
「英雄の死…これからどうなるんでしょう?」
吹雪の疑問に俺達は答えられない。
英雄が死ぬ。
しかも魔物以外、人の手によって命を落とすという情報が広まれば“何かが”起きる。その何かは俺達の生活を大きく変えてしまうことになる。
「俺達は…」
ピンポーン。
室内に響き渡る音。
その音に俺達は静かに立ち上がる。
音を立てずに入口へ向かう。
来栖は懐から拳銃を。
俺は投擲用ナイフを取り出す。
ノノアと吹雪は脱出経路を確保するために外を確認する。
俺が開けると来栖へいう。
頷いたことを確認してから扉をゆっくりと開けた。
同時に踏み出してナイフを相手へ繰り出そうとして動きを止める。
「お前か」
「いやぁ、ちゃんと連携が取れているようで嬉しいよ…できたら、このナイフひっこめてくれるかい?」
両手を上げて降参というポーズをとる黒土。
溜息を零しながらナイフをしまう。
「ところで何の用だ?」
黒土を部屋へ招き入れてから俺は訊ねる。
何の用事もなくこの男がここへやってくるとは思えない。
「断罪の光について何か動きがあったのか?」
「いいや、まだ動きはない」
黒土はそういうとノノアが用意したお茶を受け取る。
「まだ?」
「敵に先手はとられている…もしかしたら何か既に動いている可能性もある。ま、そこは気にしなくていいことだ。僕達が対処する所だからね」
「それを言うためだけに来たのか」
ニヤリと黒土が笑う。
その顔に俺は嫌な予感がした。
こういう時の奴の顔は大抵、碌な事を言わない。
「キミ達にある依頼を持ってきた」
「依頼?」
「そう、キミ達にしか頼めない。いや、キミ達だからこそできるものだ」
「…なんだ?」
黒土の言葉に俺達は驚いた。
「キミ達に境界線を叩き壊してもらう」
その言葉の意味を理解する事をすぐにできなかった。




