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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第五章:崩壊する境界線―TheBlackChivalry―
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44.衝撃の放送

 剣山第一高等学校の教室。


 そこで俺は机の上に突っ伏す形で惰眠をむさぼっていた。


 連日の任務で睡眠時間が激変していたことから体にかなりの疲労が蓄積している。


 鍛えているといっても限界があった。


 HRが始まるまでのんびりと睡眠を味わおうとした。


 それも彼女によって壊される。


「おはよう!夜明君!」


 ポン、と肩を叩かれて眠っていた意識が無理やり覚醒させられる。


 顔を上げれば流れるような銀髪と白い肌、太陽のように明るい笑顔が俺を待っていた。


 これだけ聞いていれば幸せかもしれないが、俺にとっては最悪の目覚め。


「水崎…」


「おはよう、どうしたの?眠そうな顔をしているけれど」


「寝不足、というわけでおやすみ」


「え!?ダメだよ~」


 眠ろうとしたところで水崎姫香に止められる。


 HRまでまだ時間があるのだ。少し休ませてほしい。


 彼女がいなければ授業中だって寝ていられる。


「もうすぐ先生が来るんだから起きておかないと内申によくないよぉ!」


「眠たいんだ。ギリギリまで休みたい」


 しかし、根が真面目な少女はそんな不真面目を許せないらしい。なにより俺が悪く見られることを極端に嫌っていた。


 これがより悪化することになると知っていながら。


「まーた、水崎さん、アイツに話しかけているよ」


「本当は脅されているんじゃないの?」


「金城君に相談した方がいいのかも」


「でも、最近、忙しそうに飛び回っているよなぁ」


「仕方ないって、何か、変な連中がうろついているらしいし」


 ぼそぼそと聞こえよがしに囁かれる言葉。


 全てとまでいかないが俺の悪口だ。


「そういう水崎も疲れているように見えるけど」


「ううん、私は大丈夫だよ」


「目の下に隈」


「え!?」


 慌てた様子で目元を触る。


 ブラフにあっさりとひっかかりやがった。


 溜息を零す。


 俺の仕草でブラフと気づいたのだろう。水崎は頬を膨らませる。


「意地悪ですね。夜明君」


「俺の安眠を妨害した癖に何を言う」


「健全な生活を送るべきなんだよ。ゲームばっかりしないで」


 寝不足の原因は俺がゲームをしているという事になっている。


 実際は掃除屋としての活動をしているのだが、それを言うわけにはいかない。特に、この女の前では尚の事だ。


 水崎姫香は表で活動しているホルダー。


 本来なら表は影といえる掃除屋と関わってはいけない。


 しかし、彼女は失われた記憶を取り戻しつつある。


 記憶がよみがえった時、彼女は俺の正体に気付く。


 そうなった時、何が起こるだろうか?


 俺の事を責める?


 もしかしたら。


 その先を考えようとした時、担任教師がやってくる。


 HRが始まる。




















「夜明君」


 昼休み。


 教室から抜け出そうとした俺へ水崎姫香が声をかけた。


「なに?」


「その、一緒にご飯食べない?」


「予定が入っているからパスで」


 あの日、俺が水崎姫香を拒絶してから少しは距離をとれたと思った。


 しかし、それは間違いのようでいつも以上に彼女は俺と接しようとする。


 何かが彼女を強くさせた。


 その理由が何かはわからない。


 強い拒絶で離れることがなかった。


 周りはそれを許そうとしていない。


 俺が拒絶しただけで周りは安心と攻撃的な二つの感情が向けられる。


 安心は彼女の誘いを応じなかったこと、もう一つは彼女の誘いを拒否したことにより嫉妬。


 矛盾をはらみながらもこの二つの感情は俺に関する敵意であることに変わりない。


 全く、人間というものは面倒だ。


 教室の外へ出ると待っていたように吹雪が腕へ抱き付いてくる。


「夜明さーん」


 猫のように体へすり寄ってくる吹雪をやんわりと押し戻して廊下を歩きだす。


 いつもの場所へ向かう。


 中庭で吹雪特性の弁当を味わう。


 それが俺の昼休みだった。


「あの女、本当に鬱陶しいですね」


 ぱくりと食べてから呟く。


 あの女というのは水崎姫香の事だろう。


 吹雪は心底、彼女の事を嫌っている。


 その理由は推測の段階でしかない。


「でも、夜明さんは吹雪の彼氏なんです。あの女は関係ない」


 うふふふと小さく笑って強く腕に抱き付いた。


 何か言おうとしたところでポケットの携帯電話が音を立てて鳴りだす。


 しかし、俺はおかしさに気付く。


 携帯電話はマナーモードにしていた。


 着信やメールは振動して伝えてくれるはずだ。それなのに形態は着信音を鳴らしている。


 それだけではない。



――Prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr。



――Prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr。



――Prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr。



 吹雪のポケット、校舎の至る所から携帯電話の着信が鳴り響く。


「なん、ですか?」


「吹雪、電話に出るなよ」


 念のため、吹雪へ警告をして周りを警戒する。


 しばらくして、設置されている校内のスピーカーから声が響く。


『この世界は汚れている』



























『この世界は汚れている。都会から離れれば浮浪者、盗み、殺害、強姦、様々な犯罪が人を襲う。平等と歌いながらトップにいる人間は様々なことを隠している』


 突然の演説に誰もが呆然としていた。


 かくいう俺も動けない。


 正確にいえば、この事態に頭の処理が追い付かなかった。


『この世界は偽りに溢れている』


 嫌な予感が俺の中で響く。


 警鐘だ。


 この放送はすぐに止めないと不味い。


「吹雪、放送室へ急ごう」


「はい」


 困惑しつつも吹雪は頷く。


 この状況に彼女も気づいたのだろう。


 校舎の中へ飛び込む。


 その間も放送は続く。


 目的の放送室が見えてきた。


 放送室の壁に設置されている『放送中』というランプはついていない。


 教師達は突然の事態に対応できていないのだろう、放送室の前に姿が見えない。


 俺と吹雪は頷いて放送室の中へ入る。


「夜明さん、これ」


「……誰も、いない」


 放送室の中は誰もいないどころか機材は使用されている痕跡がない。


 それなのに今も頭上で放送は続いていた。


『偽りの英雄の一人は始末した。残りもいずれ我々が葬り去り、この世界を救済する』


「なに?」


 聴こえた言葉に俺は顔を上げる。


 偽りの英雄?


 その言葉の意味を理解する直前、放送室に設置されているテレビにある映像が映された。


「!?」


 俺達は息を飲む。


 テレビの向こう。


 どこかの山奥。


 そこで一人の男が十字架に磔にされてこと切れていた。


 テレビを見ている人間なら誰もが知っている相手だ。


「表の英雄が死んだ、いや、殺されたか」


 日本で数人しかいない表の英雄の死。


 これが敵の宣戦布告だということをどこかで俺達は察した。


 そして、事態が動くことを俺達はまだ、知らなかった。


 既に境界線がなくなっているということも俺達はわかっていなかった。






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