35.仲間〈チーム〉
学校を抜け出した俺達はあるマンションにいた。
共にいた蒼こと寺小屋ノノアは道中、やたらと話しかけてきた。
――今までどんなことをしてきたのか。
――好きな食べ物は何?
――彼女はいるの?
――最近、どんなことが趣味なのか?
――偶には店へ遊びに来てよ~、等。
喋るマシンガンのようなトークに黒土の言う目的地へ着いた時の疲労度は戦闘のモノよりも濃かった。
マンションは普段から人が使っていないのか生活感というものがみられない。
「さ、寛いでくれるかい?」
「随分と緩んでいるが盗聴の心配は?」
「問題ない、定期的に検査しているからね。不安なら――」
黒土の言葉を最後まで待たず、雷切を取り出す。
刀先を床にそっとつける。
周囲に小さなスパークが広がっていく。
「これで盗聴器は使いものにならない」
「すごいね~」
「流石、夜明さんです!」
「遅くなりました」
後ろの扉が開いて男がやってくる。
黒いジャケットに青いジーンズ。髪を茶色に染めている。
年齢は俺よりも上だろう。鋭い瞳などから漢らしさが前面へ出ていた。
外見的特徴の中で一つ、気になることがあった。
――頬に赤い手形。
まるで殴られたような痕がある。
誰だ。コイツ?
俺の視線に気づいたのか青年は笑みを浮かべる。
「俺だけ自己紹介していないみたいだから先に言うわ。俺の名前は来栖来駕だ。ま、よろしく」
「まだ、みんな名乗ってすらなかったんだけど細かい紹介は後でね。とりあえず腰かけてよ」
黒土の言葉にそれぞれが席を下す。
対して、俺は壁へもたれる。
「あれ、座らないの?」
「不測の事態が起きても対処できるようにしていたい」
「なーる、お前、頭良いんだな」
「夜明さん、大好きです!」
「本題の話をする前に自己紹介しようか、これから命を預け合う仲間≪チーム≫になるわけだし」
――仲間≪チーム≫?
黒土の言葉に疑問が浮かぶ。
掃除屋である俺達は単独が原則となっている。
それ以外で行動を共にすることはあってもチームはなかった。吹雪とはパートナーという間柄になってから一緒に仕事をしていたがそれまでは一人でやってきた。
どういうことだ?
怪訝な表情を浮かべている中、話は進む。
「まずは俺からだ。さっきもしたが名前は来栖来駕。コードネームは嵐。年齢は23歳。みんなより年上かもしれねぇがよろしく~」
「質問~、その頬の手形なぁに?」
「あ、いや、これは…」
「キリノを連れてこようとして殴られたようだな」
「なっ!?」
来栖来駕が驚いた顔を見る。
話の途中で姿を見せたキリノは足にしがみついて離れない。
黒土に頼まれてキリノを迎えにやってきたようだ。
その際、キリノはうっかり相手を殺しかけたと泣きながら話す。
「パパ、その、あの、ご、ごめん、ごめんな、ごめんなさい」
「気にするな。お前が悪いわけじゃないから、ほら、鼻水ふけ」
「ぐす……うん」
「続けておいてくれ」
俺は自己紹介を続けるよう伝える。
「次はボクだね~、寺子屋ノノアだよ~。気軽にノノアって呼んでほしいなぁ。あ、コードネームは蒼だよ。よろしくぅ~、年齢はな・い・しょ。後、表ではメイド喫茶に働いているからよかったら遊びに来てね~」
「(さらりと店の宣伝をしている)」
立ち上がり元気よく話す少女、ノノア。
少し前に俺と黒土が訪れたメイド喫茶で働いていた子。
この子も掃除屋だった。
どこに誰がやっているかわからないな。
「ふ、吹雪は西條吹雪です。コードネーム雪です。ひ、一つだけ宣言しておきます。夜明さんに手を出したら吹雪は容赦なく血祭りにあげるつもりなので!」
ガチガチに緊張している。
俺以外を必要としないと常に妄語しているだけあって他人と関わり合うことになれていないようだ。
ノノアはどこかほほえましく。
来駕はだらんと鼻の下を伸ばしている。
そして、最後。
全員の視線が俺へ集まる。
キリノをあやしていたらいつの間にか最後だった。
「……宮本夜明。コードネームは黒だ。以上」
「え、それだけ~」
「もっと話せよ」
外野がうるさい。
「黒土、説明してくれ。仲間とはどういうことだ?」
「そのままの意味だよ。これからキミ達四人はチームとして仕事に当たってもらう」
「基本的に掃除屋は一人~二人で行動するものだ。この数が多い理由はなんだ?集団活動が濃くなると裏切られる可能性があるといっていたのはお前だぞ?」
疑問へ答える前に黒土がいくつかの資料を取り出す。
「数ヶ月前から僕らの組織と敵対する連中が活発な動きを見せていてね。調査していた所、対武器所持者兵器を生み出そうとしていることが発覚したんだ」
「対武器所持者?」
「そんなものが作れるの~?」
困惑の声を上げる来駕とノノア。
それに対して俺と吹雪はある存在が頭を過った。
可能性がないわけではない。
奴の存在が対武器所持者兵器だというのならあれがピッタリだろう。
――武器喰い。
ホルダーの使う武器を喰らうことを目的としていた敵。
実際、金城秋人の聖剣を食べていた。
奴はどこかの組織に属しているような事を言っていた。
「まぁ、二人のような反応を組織がとってね。一部の判断で調査を始めたのさ」
「当然だな。武器所持者を倒せるのは武器所持者、それを覆すような状況を組織は信じない。しかし、放置もできないから調査をする」
俺の言葉に黒土は頷く。
「その結果がこの現状を引き起こしてしまっている」
黒土が資料を見せる。
地図と施設の写真。
「これは?」
「敵対組織が兵器を作っている施設だよ。少し前に組織へ忠誠を誓っている影がここへ侵入。遺体となって戻ってきたのさ。さて、組織からの命令を伝えるよ」
黒土の言葉に全員の表情が変わる。
どれだけ軽くても全員掃除屋。
既に仕事の顔になっている。
「チームを組んで、施設へ侵入。研究内容、データを把握せよ。兵器についても殲滅だ」
「……一つ、質問です」
沈黙を保っている中、吹雪が訊ねる。
「何かな?」
「どうして、チームを組まないといけないんですか?普段、掃除屋は単独行動が基本の筈ときいています。答えを教えてください」
「吹雪ちゃんの質問の答えかわからないけれど、予期できない事態が起きているという事でいいのかな?」
「流石ノノアちゃんだね。少し前に施設へ侵入した影三名がこれはこれは惨たらしい死体で帰ってきたんだよ。ご丁寧に警告付きでね」
「警告?」
「ま、その話は置いといて。僕らが懸念しているのは三人も“影”として実力のある者達が惨殺されたという事だよ」
「それはあってもおかしくねぇことだろ?俺らは死と隣合わせなんだ」
「いれられたら否定はできないさ。ただ、少し引っかかることがある。まぁ、上が不安要素を0にしたいという理由からこういう形になったのさ」
「いつ、侵入する?」
質問に黒土は「二日後」という。
「短い期間だけど、キミ達は交流して連携を身に着けてもらいたい。まぁ、急造りのチームだから仕方ないとはいえ、最低限のことをやってほしいね」
ちらりと俺の方を見た。
一番、そういうことが苦手な人間にカテゴライズされている。
「部屋も用意してあるからそこでしばらくの交流を頼む。幸いにも学生は今日から休みだ」
このマンションに四人プラスアルファで生活。
面倒なことになったと言わずにいられなかった。




