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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第四章:再来する純白―AttackonServants―
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33.灰色の生活の変化

 六月。


 鮫の女王、空の女王襲来と怪獣映画や特撮番組にありそうな連続して起こった最大事件から二カ月弱が過ぎようとしていた。


 気温も夏へ向かってきており、制服は夏服へ変わっている。


 俺は夏服が嫌いだ。


 袖が短いし、服の向こうも見えそうになる。


 服が薄いと体に残っている傷がみえやすくなってしまう。実際の所、夏服の袖口から切り傷と火傷が少し覗いている。


 あらぬ噂が広まってしまうことも嫌いだった。


 そんな気分が続いている剣山第一高等学校のある日の朝、俺が所属する教室のHR。


 俺は目の前が真っ暗になるような気分だった。


 本来なら眠っている筈の時間帯。


 俺が起きているのは視線の先、教壇の傍にいる少女が原因だった。


「えー、このたび、クラスのメンバーとなる子だ。海外にいて入学手続きなどで色々とあったことからこんな時期になってしまったが仲良くしてやってほしい」


 さ、自己紹介を、と教師に促されて剣山第一高等学校の夏服を着ている少女が微笑む。


 肩まで伸びている黒髪は後ろで一つに束ねている。


 白いセーラー服から覗く黄色い肌に染み一つない。服越しからでもわかるスタイルの良さ、そして整った顔立ち。


 クラスの男子達は興味津々という様子で少女を見ていた。


 少女は表情を変えず自己紹介をする。


「西條吹雪といいます。よろしくお願いします」


――西條吹雪。


 掃除屋であり俺と同じアパートでルームシェアをしている彼女がどういうわけか転校生として、さらに偶然なのか、クラスにいる。


 ちなみに俺は知らない。


 彼女も今日までそんなことを一言も伝えていなかった。


 今回の件、絶対にアイツが関わっている。


 それだけは断言できる。


 とにかく吹雪と目を合わせないようにしないといけない。


 けれど、遅かった。


「……えっと、それだけか?」


 名前を告げた後に何も言わない吹雪へ教師が困惑した様子で訊ねる。


「一つだけ」


 吹雪と目が合う。


 綺麗な指がこちらへ伸びる。


 もし身代わりか盾があるなら俺は迷わずにそれを使っただろう。


 だが、現実は非情だ。


 今のアイツを止める手段はない。


「吹雪はそこにいる宮本夜明さんと付き合っています。吹雪と夜明さんが話をしている時は邪魔をしないでください。大事なことを伝え忘れていました」


 小さく微笑んで吹雪は教室へ爆弾を落とした。


 昼休みから吹雪は周りから孤立することになった。













「夜明さん、会いたかったでーす」


「離れろ、暑苦しい」


「つれない態度ですね。でも、吹雪は夜明さんと一緒なら常にハッピハッピーです」


「訳の分からない言葉を使うな。頭が痛い」


 昼休み。


 孤立した吹雪はあろうことか俺の所へやってきて抱き付いてくる。


 薄着になったことで彼女の豊満な肉体を感じさせられて、慌ててしまう俺がいる。


 性欲と無縁とは残念ながら言い難い。


 一応、思春期であることから好意を寄せられている相手から無警戒で抱きしめられると慌ててしまう所がある。


 仏の修業でもして完全に性欲を取り除くか?


 吹雪に抱きしめられたまま、俺はそんなことを考えていた。


「あのぉ、夜明さん」


「なんだ?」


「隣の席が空いているのは」


「…あぁ、用事で欠席だ」


 俺の隣、そこは水崎姫香の席だ。


 しかし、彼女は今いない。


「大変ですね。マスコミに追いかけられて特番参加とは」


 水崎姫香がホルダーとして上位の力を手にしてからというものの、彼女は様々なメディアへ引っ張りだこになっていた。


 その数はこのクラスの英雄ともいえる金城秋人に匹敵する。


 数多くいる英雄クラスの中で美貌とレア能力を持つことから人気が急上昇していた。


 今日も、昼から教師がテレビをつけるだろう。


 番組は水崎姫香の生い立ちなどが映される。


 それを見せるためだ。


 クラスメイトはこんなに素晴らしいことはないといつか爺みたいに泣き出すのではないだろうか。


「お前、アイツがいないこと……わかっていて聞いたのか?」


「確認です。吹雪にとって“敵”ですから」


「そうか」


 まただ。


 空の女王の戦い以来、吹雪はこうして仇敵をみるような表情を出す時がある。


 それは決まって水崎姫香が絡んでいる時。


 何故、彼女をそこまで敵視するのか。


 何を憎んでいるのか。それは俺に理解できない。


 願わくば変な騒動を起こさないことを祈るばかり。


 といっても祈るような神様はいない。


「さて、あんな奴の事は置いといて。夜明さん、ご飯を食べにいきますよ」


「あ?あ、あぁ」


 吹雪に手を引かれて外へ出ようとした。


「ちょっといいかな?」


 そんな俺達の背中へ、正確に言えば吹雪へ声をかける者がいた。


 クラスの…日本の英雄、金城秋人だ。


 相も変わらず爽やかな笑顔を浮かべている。


「西條吹雪さんだよね?俺は――」


「あぁ、メッキの英雄さんと話をする気はないので、時間もありませんのでこれで失礼します」


 ばっさりと会話を終えると吹雪は俺の手を引いて廊下へ出ていく。


 残されたのは呆然とした顔の金城秋人だった。


「お前、乱暴すぎるだろ?」


「何がです」


「人の会話を打ち切るにしても少し考えてやれ、でないと」


「夜明さんのことを何も知らない癖に悪口を言ったり、不当な評価をする連中と会話をするつもりはないです」


 ぴしゃりと吹雪は俺以外の関わりを持つことを拒絶する。


「吹雪は夜明さんがいればそれで十分です。他の有象無象なんか要らない。吹雪にとって最愛の人さえいればいい。そう、です」


 ギュッと手に力が入る。


 吹雪の手は僅かだが震えていた。


 その目は何かを堪えるようなものがある。


 何に怯えているのか。


 何を感じているのか。


 俺にはわからない。


 だが、


 震えている小さな手を握り返す。


「夜明、さん?」


「腹が減った。早く昼を食べよう」


 こうやって彼女の寂しさを埋めてやることしかできない。


 根本的な解決、それができればどれだけいいだろう。


 だが、俺はこうすることしかできない人間だ。


 吹雪は俺の手を見てから小さく微笑む。


「はい!」



 瞳から先ほどまであった感情がなくなっている。


 それがわかるだけでよかったと思えた。













 吹雪と一緒に校舎の外へ出る。


 誰も利用したがらない中庭へ足を踏み入れた。


 ぴたりと俺は動きを止める。


 ガサガサと近くの茂みが揺れた。


 立ち止まったことで吹雪が不思議そうな顔をしている。


「いるんだろ?キリノ」


 俺の言葉で揺れていた茂みがぴたりと止まる。


「……怒っていないから出て来い」


 しばらくして茂みから小さな女の子がでてくる。


 癖のある髪は外側へはねている。


 痩せこけた頬、灰色の瞳は不安そうに揺れていた。


 怒られるかもしれなと思っているのだろう。


 俺は目線を合わせるためにしゃがむ。


「怒っているようにみえるか?」


 ふるふると首を横へ振って少女はとてとてと抱き付いてくる。


「怖かったのか?」


「ん」


「すまないな」


 そういって俺は少女の頭を撫でる。


 キリノという少女はナイトグールと呼ばれていた子であり空の女王に刻印を刻まれていた魔に見初められた少女だ。


 騒動の後、少女は俺の下で面倒を見るという事で引き取っている。将来は掃除屋として活動させることを絶対条件として。


 人を殺した数が軽く三桁を超えること。


 隠密スキルが上位レベルだということ。


 それらを踏まえた事から抹殺よりも飼うことにメリットが高いと判断された。


 何より手綱を持てるのが俺だけという事と俺が面倒をみられるという点から俺の下にいるといってもいい。


 名もなき少女は俺以外の人間だと容赦なく殺した。


 管理官も挨拶をしようとしただけで頸動脈を斬られたらしい。


 そんな状態の少女は唯一、俺だけに心を開いてくれた。


 黒土の助言もあり少女は俺の家で居候となっている。


 名もなき少女へ俺はキリノという名前を与えた。


 キリノは不安そうな表情から一転してはにかんだ笑顔を俺へ向けている。


 しかし、一つだけ問題があった。


「パパは何をしているの?」


「これから昼休みで食事なんだ、キリノも一緒に食べるか」


「うん!パパと一緒!」


 これだ。


 キリノは俺の事をパパと呼ぶ。


 ホルダーとして様々な殺人技術を仕込んできた人物が彼女の父親、これから面倒を見る人イコールパパという結びつきが染みこんでいることと、家族ならパパだけというのが彼女の頭にある。


 そのために俺はパパと呼ばれている。


 この発言で吹雪と厄介な騒動があったがそれは割愛しておこう。


 思い出しただけで頭が痛くなる。


「ン!」


 吹雪が握っていた手を払うようにしてキリノは俺の手を掴んで歩みだす。


 残念なことだが吹雪と仲良くすることはできていない。


 反対側へ周り手を掴もうとするが再び叩かれて阻まれた。


「吹雪、我慢しろ」


「……はーい、我慢します」


 子供のようにぶぅーと頬を膨らませた吹雪の頭を撫でる。


 できるならこの二人が仲良くなってほしいと願うが、どこかで無理だろうと思う自分がいる。


 おそらくだが求めているものが同じだ。


 同じものでも一つなら、分けることが出来ないのなら奪い合いとなる。そうなったら相手と仲良くするなんて不可能。


 一つの取り合いをする以上、二人が歩み寄ることはないだろう。


 わかっていても、どこか寂しいと思う自分がいたことに、俺は少し驚いた。


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