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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第四章:再来する純白―AttackonServants―
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32.告発者からの警告

日本のある場所に設置された研究施設。


 そこへ複数の“影”が侵入を果たす。


 彼らは組織からの命令を受けていた。


 内容は施設の中にある研究データ、それらに関与する者の排除。


 彼らは本来の影と呼ばれる掃除屋と大きく異なる。


 掃除屋は報酬をもらうことで任務へ参加するのだが、この影は掃除屋とは異なり報酬を受けずに仕事を行う。


 組織の命令、指示こそが全て。個人の意思の介入は許さない。


 どこか洗脳を受けた様な連中、それがこの“影”である。


 彼らは忠実な犬だ。


 組織のためならすべてを捧げるほどの忠誠心を持っている。


 研究データの末梢。


 どうしてこのような行動をする必要があるのか?


 研究のデータがどういうものなのか彼らは知らされていない。


 知る必要のない事は訊かないし調べることもしない。


 わかっていることはここの研究が実る事によってホルダー達の存在が危険にさらされるという事。そのために彼らは警戒厳重の研究施設へ潜入している。

只、只、施設の爆破を彼らは命じられた。


 疑問を抱く余地もない。


 そもそも任務で自分の考えを持ち込むことは許されない。


 彼らは命令をこなすのみ。


 事前に頭へ叩き込んだ各所の重要箇所に爆薬を設置していく。


 決められた時間、行動、目標、それらを確実に達成する。


 後は離れた所でスィッチを起動するのみ。それで任務完了だ。


 だが、彼らの予想を裏切る事態が起きる。


 一人の影が最初に気づく。


「なんだ…?」


 立ち去ろうとしたところで視界の隅に何かが映った。


 ちらちらと天井から白い羽が舞う。


 一つ、二つ、やがて無数の羽が彼らの頭上から降り注いでくる。


 異変が巻き起こる中で、それは舞い降りた。


 まず、人の形をしている。


 中性的で男にも見えるし女にも見えた。


 纏っている衣は純白。服から覗く肌も同じくらいの白さを持っている。


 純白で、穢れを知らない存在。


 そう思わせてしまうほどの美しさがある。


 純白の姿に影である彼らは動きを止めてしまう。


 長年の本能が危険だと鳴り響いている中でも彼らは動けない。


 動こうとする意思すらなかった。


 まるで考えることが罪であるかのように彼らは白き存在を眺めている。


 だから、一人目が命を散らすのはあっという間だった。


 悲鳴を漏らすことなく、一人は炎に包まれて消える。


 白い炎。


 何もない所から燃え上がった炎は悲鳴を上げることもないままに命を失った。


 次の一人は水に包まれて溺死する。


 最後の一人になって事態に気づくが遅い。


 体から鮮血をまき散らして最後の一人が消える。


 残されたのは三つの亡骸、そして眺めている白い存在。


 空へ伸びる二枚の翼。どこかでも純白の体。


 そんな存在の近くに車椅子に乗った女性がやってくる。


 無表情だった白い存在の顔に感情の色がでた。


「この亡骸をどうするの?」


 白い存在が尋ねた。


 どこまでも澄み切った声に車椅子の女性は言葉を紡ぐ。


「はじまりの狼煙にするのよ」


















「それでは会議を始める」


 暗闇の中で響いた声に黒土は欠伸をかみ殺しつつ、姿勢を正した。


 照明はついておらず、壁に設置されているスクリーンが明かりの代わりとなっている。


 この場にいるのは普通の人間ではない。怪しい集団ではあるがこの国を裏から支えている者達なのだ。


 黒土を含めて掃除屋と関わりを持っている。


 全員が掃除屋になっているホルダーと組織をつなぐ仲介者であり、管理者でもある。


 そんな連中を一か所に集めての会議ということで全員の顔に緊張が走っていた。


 何故なら、少し前に定例会を終えたばかりだった。一か月も経たずに今回は緊急という命題で呼び出されていることから何か大きな事件が?という事で身構えているのである。


 緊急で呼び出されるなんて言うことは今までになかった。故に全員が緊張しているのだろうと黒土は推測を立てていた。


「(ま、今までにこんな事態はなかったからね、みんなピリピリしていて当然かな?)」


 機関に属している彼らだが基本的に掃除屋以外と接点を持つことはない。


 どこでどのように情報が漏れるのか定かではないのだ。故に彼らは機関内で顔を合わせたとしても同じ人種なのかわからないのだ。


 さらにいうとこの場にいるメンツも顔を隠している。黒土も百均で購入した恐竜の被り物をしている。


 室内の重苦しい空気の中でうんざりしながら話が始まるのを待つ。


 しばらくして悪の組織に属しているようなとんがり帽子のようなもので顔をすっぽりと覆った男が声を発する。


「今回、緊急で集まってもらったのは他ではない。最悪の事態が起きた」


 またか、と黒土は溜息を零す。


「それは先日の女王級よりも厄介なものなのでしょうか?」


 一人が声を発する。


 鮫の女王が現れた際、掃除屋を関与させるかどうかでひと波乱があった。


 少し前に現れた空の女王においては手柄は全て表のホルダーへ流すことで面倒なことがあった。


「厄介だ。その気になれば我らの組織、ホルダー全てが滅びかねない事態だ」


 室内に動揺が走る。


 組織の危機、それは影にとって聞きなれたもの。


 これを対処するために自分達は存在しているのだと誰かが言う。


 黒土は別だ。


 他の面子よりも険しい表情を浮かべている。


 ここまで緊迫するという事は途轍もないことなのだろうと推測できる。


 先日、女王級が一人の少女を狙ったこと、空の女王が日本へ侵攻したことは記憶に新しい。


 それよりも危険なことという事に黒土は話の続きを待つ。


「先日、敵対組織の研究施設へ影を三名送り込み、対処に当たらせた。結果は失敗。侵入した三名は物言わぬ体となって帰ってきた。ちなみに侵入した三名のコードネームは『鷹』『猟犬』『黒蜥蜴』だ」


 司会の言葉で全員に緊張が走る。


 会議では属しているホルダーの事は掃除屋で統一されている。今回、影といわれているのは組織に忠誠を誓い、途轍もない強さを持つホルダー達だ。


 そんな彼らが殺された、これは重く見た方がいいかもしれないと黒土が考える横で話は進む。


「(敵対組織かぁ)」


 黒土が気になっていた点、それは自分達の属する組織に敵意を持つ連中の事。


 魔物による世界滅亡の危機をはじめとして世界は一つに固まる動きを見せている。


 共通の敵を倒すことで団結しようとした。


 それに異を唱える者が少なからず存在する。そんな連中は国や組織へテロという形で犯行の意を示す。


 そういった連中を大和機関や各部署は敵対組織という枠組みにはめ込んでいる。


「(そういえば、先日現れた武器喰いも敵対組織というものからやってきたんだっけ?それに連なる者だとするなら………根はかなり深いかな?)」


「一つ、訊かせてもらってもよろしいですか?」


 顔を隠している一人が立ち上がる。


「そこの施設はどのような研究をなさっていたのですか?我らが保有するホルダーを滅ぼす危険となるとそれ相応な力を秘めているのだと推測はできます。しかし、どのようなものかわかれば対処も――」


「残念ながら詳しいことはわかっていない。だた」








「天使だよ」









 呟かれた言葉に全員の視線が一つに集まる。


 黒土と同じように傍観していた仮面の男が呟いたのだ。


「天使……だと?」


「左様、“我ら”の組織はキミ達、真実を隠すために暗躍しているホルダーを一掃する為の救世主、断罪者を生み出すことを目的としていた。つまり、対武器所持者≪アンチホルダー≫というわけだよ」


「君は、誰なのかな?」


 饒舌に話す男へ黒土は尋ねる。


 懐にある拳銃をいつでも抜けるように手を入れていた。


 司会者が把握していなかった情報をぺらぺらと告げるこの人物は油断できないと警鐘が響いている。


 さらにいえばここで開示するという点が怪しい。


 もしかしたら――と。


「我らは告発者だよ。偽りの守護者達」


 仮面の男と目が合う。


 どす黒く濁った不気味な目。


 危険だ。コイツは何をしでかすかわからない。


 黒土は拳銃の安全装置を解除する。


「警告する。早急に我らへ降伏せよ。さもなければ最強の救世主達が偽りの守護者を断罪の光で滅ぼす。世界は改変の時期を迎えているのだ」


「貴様ぁ!」


 黒土と別の男が懐の拳銃へ手を伸ばす。それよりも速く何かが煌めいた。


 バチュと頭蓋が砕ける音が響く。


「「ひぃぃぃぃぃぃぃいいいいい!?」」


 数人から悲鳴が上がる。


 仮面の男へ発砲しようとした男の頭がはじけ飛ぶ。


 柘榴のように鮮血をまき散らす。


 返り血を浴びて悲鳴が上がる。


「警告はした……だが、貴様らは受け入れる様子がないようだ。よって第一の断罪を始めよう」


 バリバリィと背部のスーツを破り白い翼が現れる。


 一対の翼は虹色の輝きを放つ。


 全員が動けない中で翼をもつ男は掌に輝く剣を生み出す。


「断罪する、断罪、断罪、断罪、断罪ダンザイザイザイザイザイザイザイザイザイザイザイザイザイザイ!」


 ノイズ交じりの声を発しながら男が剣を空へ掲げる。


 同じ言葉を繰り返している姿はどこか壊れているラジカセを連想させた。


 剣先がまばゆい光に包まれていく。


 おそらくこいつは全てを滅ぼすまで止まらないだろう。



 全てを消し去ろうとする。


 この場にホルダーがいればまだ救いはあっただろう。しかし、この会議へホルダーの参加は認められていない。故にこの場にいるのは普通の人間だけだった。


 告白者は楽に殺せると思っていたのだろう。


「消エろ」


 剣を振り下ろしてこの場の人間を消し去ろうとする。


 だが、それは実行に移らなかった。


「やれ、師子王」


 上空から黒い影が舞い降りる。


 剣を振り上げようとした男の体を一刀のもとに両断した。


 カチンと刀を鞘に納める。


 直後、大量の血を吹き出しながら告発者の体は消滅した。


「――鬼神」


 誰かが彼の名前を呟く。


 目に大きな傷を持つ、影の中で最強の実力者として君臨している者。


 表とは別に影の中で君臨する強者。


 鬼神は倒れた死体を一瞥することなく隅へ移動する。


「事態は急を要する」


 司会者の声に全員が目を向ける。


「管理している掃除屋を総動員してでも、敵対組織の計画を阻止、潰すのだ」


「失礼ながらその敵対組織の名前は?」


 黒土の言葉に司会者は組織の名前を告げる。


「ConvictLight………“断罪の光”というアンチホルダー組織だ」


次回の更新は水曜日を予定しています。

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