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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第三章:もう一人の黒―BlackBlade―
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29.強襲、空の女王


少女は生まれた時から居場所といえるものがなかった。


親という存在もなかった。


彼女にあったのは師匠と呼べる存在のみ。


師匠は少女に全てを叩きこんだ。


――殺しの技術。


如何にして人は死ぬのか。


どうすれば死なないのか?


曖昧な境界線から過剰な方法まで多種多様な技術を少女へ教え込む。


どうしてそんなことをしたのか。


幼いながらに少女は疑問に抱いたが聴くことをしなかった。


師匠こそが全てであり、彼がいなければ自分は生きていられないのだ。機嫌を損ねたら死へ繋がることを理解している。


時折、少女の傍で師匠は呟く。


――“ノワール”に認めてもらう。


――黒は俺が継ぐべきものだ。


――あんな“餓鬼”が黒など認めない。


――黒は俺のものだ。


――こいつが認められたら“迎え”が来る。それまで多くの事を教え込まないと


狂ったような言葉。


断片なものでも少女は理解する。


師匠はノワールという存在から認められておらず、黒になれない。


黒になるために自分を利用している。


それでもよかった。


少女は師匠から指示されるまま人を殺し続けた。


与えられた武器で人を殺す。


そんなある日、武器をなくした少女の手の中、失ったはずのナイフが現れる。


ナイフは捨てても、壊れても少女の手の中にあり続けた。


これは師匠の教えを守れという事だろう。


少女はナイフが消え続けるまで人を殺していく。


しばらくするとナイフが消える。けれど、少女も倒れてしまう。


再び目を開けるとナイフが現れた。


殺し続けないといけないのだ。


そうしないと迎えが来ない。


「だから、殺すの…貴方みたいないい人を殺せば迎えがくるって………だから、よあけ」


無邪気な、けれど残酷な言葉を少女は叩きつける。


「死んで」


少女の姿が霞のように消えたと同時に黒の背後へ回り込んでいた。


手の中にあるナイフが動く。


瞬間。


「遅い」


視界が暗転する。


気づいた時、少女は地面に倒れていてナイフがなくなっていた。


「……え?」


「今まで反撃されることがなかったんだろうな。簡単に動きが予想できた」


上から聞こえる声。


それはよあけのもの。


しかし、


なぜ?


どうして、生きているのだろう?


少女は困惑する。


今まで少女は一撃で相手を始末してきた。


外したことも失敗したこともない。


目の前でこと切れていて当然。


そうだというのに、目の前にいる黒は生きている。


何故、なぜ?なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ。


「さっきも伝えたがお前は一撃必殺で行動してきた。しかし、その相手はほとんどがジブのど素人だ。暗殺技術に対処できる術を持っていない相手だ。だが、俺は違う」


 少女へ教えるように黒は耳元で囁く。


「俺は人を殺す術を学んでいる。お前の技術もなかなかのものだが、俺に劣らない。だからお前は俺に負けた。それが事実だ。わかったか?」


「………ぐっ!」


 尚も殺そうと足掻くが完全に抑え込まれており犯行へ及ぶことはできない。


 それを黒は許さない。


「ま、お前は立派だよ。助けてくれた人へ恩を返す為に全力だ。先の事に恐れを考えず、自分の感情を後回し、誰かのためなら素晴らしいと称賛される」


「?」


 頭に疑問が浮かぶ。


 褒められていることはわかる。


 だが、彼はどうして褒めてくれるのだろうか?


「なん、で?」


「俺は恩師といえる人の想いを拒絶した。お前と違ってその人の為に全てを捧げるなんて言う行動を拒否した……だから、羨ましいと思う。眩しいと思うんだろうな」


 先ほどまでの冷たい声と違って暖かいものがある。


 力が緩む。


 今までなら起き上がって殺そうとした。


 だが、先ほどのやり取りで相手が圧倒的上位だという事を知っている。殺そうという意思はない。


 目が合う。


 黒は先ほどまでの冷酷さを潜めて、優しさのようなものを感じる。


「だから、俺はお前の運命を認めることが出来ない」


 グローブに包まれている手が少女の頬を撫でる。


 温もりを感じた。


 グローブは冷たい、けれど、その奥の手から温もりが――。


 少女の思考を遮るように激しい痛みが全身を襲う。


 声に出すことも辛く、できるのは胸元を刺すような痛みから逃れようと手を動かす事のみ。


 ドクンドクンと体が脈打つを感じる。


 少女は嫌になって服を脱ぐ。


 破けた服から覗く刻印が不気味に疼いていた。まるで何かに答えるように――あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!


 黒は空を見る。


 闇夜を切り裂くような雄叫びを上げて“ソレ”は降り立つ。


 灰色の翼は数十メートルもあり、足の爪は降り立つだけで地面や周りを傷つける。


 背中や腹部に蠢く吸盤触手はうねうねと動き、ものを集めては握りつぶす。


 時間にして数分。


 灰色の瞳をもつ女王級の魔物。


 空の女王が嘴から奇声をあげる。


 狙いは名もなき少女。


 彼女を食すがために街中へ女王は降り立った。






















 降り立つ女王の姿を“視て”ノワールはほくそ笑む。


 レジストコード“空の女王”が出現することはわかっていた。


「ボクの望んだとおりの展開だよ」


 目を閉じたまま、ノワールは楽しそうに言葉を紡ぐ。


 監視カメラについている高性能マイクは彼女の言葉を集めているだろう。


――関係ない。


 言葉の意味を理解しても、その時は遅すぎるのだ。


 気づいた時に“はじまって”いて“おわって”いる。


 ノワールの眉間が険しくなった。


「どういうことだ……」


 ぶつぶつと言葉を繰り返しながらノワールは目を見開いた。


 見開かれた灰色の目は不気味に動いている。


「許さないぞ……ボクの……」



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