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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第三章:もう一人の黒―BlackBlade―
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27.小さな棘

前回の話、少しだけ修正を入れました。




 自室で水崎姫香は日記を書いていた。


 その日、何があったか。どういうことをやっていこうかということを書いていくことだが彼女にとって日記は今までの自分が生きてきた証になる。


「…そういえば」


 日記を書いていた手を止める。


――いつから日記を書き始めたんだろう?


 物心ついた時は書いていなかった。


 いつからか日記を書く習慣がついていた気がする。


 手を止めて水崎姫香は今まで書いてきた日記をめくり始めた。


 自分の字だから読めないことはない。ただ、書き始めの頃は書きなぐりが多くて読むことが難しい。


 しばらくして、手を止める。


「…………え?」


















 外は雨。


 生徒達は教室内でそれぞれの時間を過ごしている。


 その中で水崎姫香はクラスメイトの輪の中にいた。


 色々な話で盛り上がる中、この輪から離れた所にいる宮本夜明の姿をさりげなく見ている。


 彼は雨が降り注いでいる外を眺めていた。


 白髪に隠れて表情は見えない。そもそも自分達からそっぽを向くような形で顔もみえない。


 あれから、彼とまともに会話ができていなかった。


――不良の宮本が水崎姫香を脅していた。


 そんな噂がいつの間にか広まっていて、クラスの女子達からは「大丈夫?」と心配される。男子達は彼を許せないといって教室内で彼を殴った。


 夜明は何もせずに殴られることから噂の信憑性が増した。教師も彼の言い分を聞かず呼び出されるのは彼のみ。


 理不尽だと姫香は思う。


 どうして彼だけが?


 殴った生徒も叱られるべきだと思った。


 このことを教師へ意見したこともある。


 しかし、教師陣は自分を心優しい少女とみており「こんな奴にも手を差し伸べるなんて聖女のような優しさだな」と担任すら涙ぐむほど。


 違うのに。


 彼が悪いわけじゃない。


 それでも宮本夜明へ悪意が向けられる。


 彼に攻撃が降り注ぐ。


 それを止める者はいない。


 自分は止められない。


 彼に拒絶された自分では。


「姫ちゃん、どうしたの?」


「いえ、何でもないです」


「そう?さっきから外を見ているような?」


「あ、雨はいつ頃やむのかなぁって」


「あー、一日中ふるみたい」


「うわぁ、最悪だよ。今日バイトだし」


「中のバイトでしょ?」


「そうだけどさー、靴下とかがずぶぬれになるのはいやだなぁ」


「そ、そうですね」


 携帯端末を見てクラスメイトの一人が悪態をつく。


 ちらりと“彼”の方をみると…いない。


 どこへ?と視線を向けようとしたところで鞄を手に廊下へ出ていく姿があった。


「ちょ、ちょっとごめんね」


 クラスメイト達を押しのけるようにして輪から出ていこうとする。


「あ、姫香」


 入口で金城秋人が驚いた顔をしている。


「どうしたんだ?慌てた顔をして」


「えっと」


「もしかして」


 表情を見て何かを察したように秋人の目が鋭さを帯びる。


「宮本の奴に何かされたのか?」


「え、う、ううん」


「隠すことはないんだ。何かあれば俺に相談してくれ。大切な仲間なんだからさ」


 気障な台詞と共に鋭い目で去っていこうとしている宮本夜明を睨んでいる。


 仲間が大事を信条としている金城秋人にとって害をなすものは許さない。


 例えクラスメイトでも彼は容赦しないだろう。


 今にも殴りに行きそうな空気を察した姫香は話題を変えた。


「そういえば、昨日の任務は大変でしたね。金城君はケガとか大丈夫ですか?」


「うん?あぁ、あの程度の相手なら何度も戦ってきているから問題ないさ。姫香こそ、ケガはないかい」


「はい、私は大丈夫です…そうだ、金城君に聞きたいことがあるんですけど」


「いいよ、俺に答えられることだったら」


「少し前に鮫の女王っていう魔物が現れたそうじゃないですか?その時の事を教えてほしいなって」


「別にいいけれど、どうしたの?」


 鮫の女王と呼ばれる最強の魔物の一体が出現した時の記憶が曖昧だった。


 自衛隊によって保護されてから病院へ運ばれる前の記憶が一切ないのだ。その時に姫香はホルダーとしての力へ目覚めた。


「ほら、その時の私って記憶が混濁していてよくわかっていないので、もう一度、聞いておきたいなって」


「オッケー、なら、教室で話そうか…」


 それから教室へ戻った秋人は真面目な表情でその時の話をした。


 興味本位でクラスメイト達も聞いてくる。


 重大な部分は大和機関から厳命されているからか濁していたがおおまかなことはわかった。


「そういえば、魔物を倒そうとした時に邪魔をしてきた人がいたな」


 ぽつりと秋人が呟いた言葉を姫香は聞き逃さなかった。


「邪魔?」


「俺が魔物を倒そうとしたら訳の分からないことを言って邪魔してきたんだ。おそらく錯乱していたんだろうと思う…気づいたらいなくなっていたけれど」


「どんな人だったんですか?」


「あまり覚えていないんだよな…確か、全身が黒かったような」


 ぼんやりと思い出すように呟いた言葉に姫香は衝撃を受ける。


 “黒”。


 この一言は途轍もない意味を持つ。


 少し前、学校を襲撃してきた謎の人物。


 秋人は覚えていなかったがローブの人物を助けてくれた彼の姿が過る。


 全身を黒で統一していた。


 もしかしたら……。


「どうした?姫香」


 考えでうつむいていた自分を覗きこむように秋人がいう。


「え?」


「いや、何か考えるような顔をしていたからさ」


「少し…ね」


 言葉を濁しながら姫香は思う。


 黒衣の人物。


 彼に会えば何かわかるかもしれない。


 水崎姫香は名前も知らない黒衣の人物を探すことにした。


 自分の中で擽っている疑念を晴らすべく。

















 放課後、姫香はクラスメイト達と談話を終えて学校の外へ出る。


 家族と離れて一人暮らしという大変な生活なのだがホルダーとなったことで国から援助がなされていることで最初の苦労というのが嘘みたいな毎日だ。


 友達と遊んだりホルダーの訓練に励む。


 慌ただしくも充実な毎日だ。


 これから訓練へ向かおうと考えていた姫香だったが校門の方を見て動きを止める。


 そこに宮本夜明が立っていた。


 雨が降る中、傘をさして分厚い雲を眺めている。


 浮かぶ顔の色は何なのか。


 姫香は再び彼と話をしようと決意した。


 近づこうとした時、彼へ近づく姿が――。


「夜明さん!」


 大きな声と共に傘をさした少女が夜明へ飛びつく。


 バシャと雨水が二人へ降り注ぐが気にする様子を見せない。


 年齢は自分と同い年くらいだろう。


 髪を後ろで束ね、服越しからでもわかる豊かな胸。


 彼へ向ける顔は愛を含んでいる。


 抱き付かれている夜明は嫌そうな表情を見せない。


 姫香がみたことのない感情を向けていた。


「っ!」


 それを見た途端、歩みを止める。


 よくわからない感情がじわじわと湧き上がっていく。


 理解する事をする前に彼女は駆け出す。


「あぁ、姫香、いたいた」


 校門から、彼らから少しでも遠ざけようとしたところで金城秋人が声をかける。


「どうした!?」


 秋人は驚いた顔をして彼女の肩を掴む。


「何で泣いているんだ!?何かあったか!」


「…………………え?」


 姫香は手で顔を触る。


 どうやら泣いていたらしい。


 自分でも気づかなかったことに少し驚いてしまう。


「ごめんなさい。大丈夫」


「本当か?何かあればすぐに話してくれ。俺が力になるから」


「……何か用事?」


「少し、大事な話だ」


 秋人が小声で話をするといって近くの喫茶店へ足を運ぶ。
















 二人が訪れた喫茶店は多くの学生も利用するが雨ということで人が少ない。


 入口から死角となっている場所に腰かけた所で秋人が口を開く。


「殺人鬼を捕まえようと思う。協力してくれ」


「……殺人鬼って、あの?」


「あぁ、クラスメイトを殺した奴だ。そいつを捕まえる」


「警察に任せれば」


「今も被害が出ている。このままだともっと増えるかもしれない」


「だから、私達が動くの?機関からは何の指示も」


「俺が伝える。そうすれば何とかなるはずだ」


 迷いのない目。


 姫香が言っても彼は梃でも動かない。


 一度決めたことは何が何でもやろうとする。


 意志が固い。別の言い方をすれば頑固者。


 殺人鬼が捕まらない限り止まらない。


 それを抑える必要がある。


「私も付き合うよ」


「いいのか?」


「金城君だけだと危険だもの。足手まといになるかもしれないけれど…聞いた以上は力になりたいから」


「ありがとう」


 小さく微笑み、秋人は時間の打ち合わせをはじめる。


「…………やれやれ」


 二人の話を盗み聞きしている人物がいるなど露と知らず。










 ナイトグール。


 夜の殺人鬼。その存在は警察だけでなくマスコミや世間を騒がせている。


 魔物とは違う。人間がもたらす脅威。


 警察は警戒と犯人確保のため巡回を行い、住人達は不用意な外出を控える。


 そのため、街は不気味なほど静かな世界になり果てていた。


 静寂の世界へ水崎姫香と金城秋人は踏み込む。


 手に懐中電灯と地図。


 何かあれば連絡できるよう携帯端末をポケットに入れて二人は夜の街のパトロールをはじめた。


 警察が夜間外出禁止命令を出したことでおそろしいくらい静かだ。


 マンションや家は電気がついているから中に人はいるだろう。


 居たとしても人の気配が感じられない。


 まるで誰もいないような気分だ。


 魔物が徘徊すればこんな世界になるかもしれないと機関から言われているが殺人鬼が徘徊しているだけでこんな状態になってしまうことに姫香は恐怖を感じた。


「誰も、いないな」


 金城秋人が小さく呟く。


 殺人鬼を探し始めて数時間。


 まもなく日付が変わろうかという時刻。


 街の明かりもいくつか消灯されて闇が広がっていく。


「そろそろ……帰ろうか」


「あぁ」


 悔しそうな表情を浮かべながらも秋人は頷く。


 おそらく初日で殺人鬼をみつけることを期待していた。


 彼は運が良い。


 まるで彼の願ったことが現実となる程に運が良かった。


 しかし、その運は時として周りへ被害をもたらす。


 例えば。


「え?」


 まるで気配も感じさせず水崎姫香へ近づく小さな影。


 月が照らす小さな光の中で煌めく刃がゆっくりと迫る。


 姫香が気付いた時、喉元へ迫る小さなナイフ。


 目前に迫る死。


 それを叩き潰すように巨大な黒剣が振り下ろされた。


 水崎姫香の髪が派手に揺れる。


 爆風ともいえる衝撃で後ろに飛びそうになりながら水崎姫香は見た。


 自分の前に立つ黒衣を纏った人物。


「姫香!!」


 カリバーンを構えた金城秋人が守るように前へ立つ。


 その目は黒衣をまとっている相手を警戒していた。


「お前…ナイトグールだな」


 輝く黄金剣を向けながら相手へ問いかける。


 相手は巨大な大剣を片手に持ったまま否定も、肯定もしないまま歩き出す。


「ま、待て!」


 行く先を遮るように前へ立った金城秋人。


 その姿を鬱陶しそうに大剣を空へ掲げるようにして。


「邪魔だ」


 彼めがけて振り下ろす。


 咄嗟にカリバーンで受け止める。


 しかし、見た目通りの重量なのか受け止めた彼は苦悶の表情を浮かべていた。


「邪魔」


 大剣を防ぐことに意識を集中していた秋人は怠っていた。


 目の前にいる黒衣の人物は片手で大剣を操っている。


 つまり、片方の手は自由という事。


「ぐはっ!?」


 両手で黄金剣を握っていたことから不意打ちともいえる拳に反応できず大きく後ろへのけ反った。


「な、なんだ、この威力…魔物よりも」


「……失せろ」


 上段から振り下ろされる大剣。


 地面を削りながら放たれた斬撃を秋人は躱すことができない。


 直撃を受けるという所で盾を展開した姫香が割り込む。


「う……きゃっ!」


 展開した盾が砕け散り後ろへ倒れる。


 意識を刈り取られそうになるほどの攻撃だった。


 盾が消失したことで全身が鉛のように重たい。


 それでも意識を保っていられたのは訓練の賜物だろう。


「姫香、大丈夫か!?くそっ、お前、何でこんなことを!」


「……お前、邪魔」


 風が吹いてフードで隠れている顔が少し見えた。


 暗闇から覗く瞳はぞっとするほど冷たい。


 全てを凍てつかせるほどのものを感じた。


 それをみた秋人や姫香の体は震えだす。


「邪魔、邪魔だ。お前がいるだけで彼が揺れる。雪のものだ。誰にも渡さない。とられてたまるか…お前みたいな奴が近づこうとすることすら烏滸がましい。力のない弱者が」


 小さな口から紡がれる言葉は全て姫香へ向けられている。


 どろりと粘着のある言葉がまとわりつく。


――弱い。


 その言葉は途轍もなく強いものだった。


 夜明から拒絶されたものと同じくらいの。


「失せろ弱者。お前は不要」


「やめろ」


 横から別の手が伸びてきた。


 振り下ろされようとしていた大剣が途中で止まる。


「……どうして」


「離れるぞ。騒ぎを大きくし過ぎた警察がくる」


「な、なんだ、お前達」


 倒れそうになった姫香の腕を現れた第三者が掴む。


 不思議な気持ちに包まれる。


「……あたた、かい?」


 そのまま姫香は意識を手放す。


 胸に小さな痛みを残したまま。


今度の更新は水曜日…もしくは週末になるかもしれません。


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