19.騎士と死神の決斗
少し古いタイトルを意識してみた。
「それで、彼らの様態はどうなのかな?」
「命に別状はありませんよ。強いて言うならしばらく解毒で薬の服用やら色々と生活面で不便が発生するでしょう」
「魔物の毒だからね。当然だ」
空港の一室、
黒土と向かい合うように少女がいる。
纏っているドレスはメイド服のようなもの。しかし、少女の放つ雰囲気のようなものから近寄りがたいプレッシャーが放たれていた。
黒土も相手と話がなければ不用意に近づかないだろう。
「そういえば、アロンダイト殿は」
「彼なら問題ないよ。少し休まないといけないという事で愚痴っていたけどねぇ」
吹雪によって不意打ちを受けたアロンダイトだが命に別状なく、しばらく病院で安静にする必要があるという事で日本の病院にいる。
護衛がいなくなった為に彼女はSP達に連れられて今日、帰国することとなる。
「それにしても、彼の剣、あれは一体なんなのかなぁ?」
ずぃっと少女が顔を寄せる。
整った顔立ちで誰もが見惚れるほどの美貌だが、目は笑っていない。
教えろといわれていることに気付いている黒土は微笑む。
「残念ながら僕や組織もわかっていないんですよ。把握できていることは、使用者を選び命あるものを全て無へ返すということ」
「ふーん、あれは使えそうだね、うんうん」
「おやおや、貴方の目に叶うほどということは英雄の素質ありですか」
「まー、出会った時はあまり向いていないと思ったんだけど、今は良い素材だ」
黒土は小さく微笑む。
「今回の収穫は武器喰いを撃退したことだ。うちのナンバー2でも倒すことが困難だった相手…期待できる戦力だよ!奴らへの牽制にもなる。いやはや、マーリンの予言通りだ」
少女は手や足を動かしながら喜びを表現する。
機嫌がいいことを確認して黒土は話を切り出す。
「約束通り、予言の内容を教えてもらえますか?」
今回、黒土が英国の騎士団からの協力を申し出た理由は“これ”にある。
騎士団は“来るべき戦い”に向けて使える武器所持者を勧誘するために来日した。戦いの相手を彼らは明かさなかったが来るべきという点でかなり大規模なものなのだろう。
候補は日本に現存しているホルダー達、全て。
その中には当然、英雄金城秋人は入っていた。加えて黒と雪。決して表へ出してはいけない影のメンバーも含まれていた。
自分の管理している所持者ならば今後の展開に利用できると判断して、取引に応じたのである
応じる代わりに彼は報酬を求めた。それが英国の騎士団とやらが厳重に管理している予言の内容の開示。
組織内である噂があった。
ホルダーの中に未来を予知できるものがおり、その者が記したデータは予言と称されて英国に厳重保管されているというもの。
眉唾ものだと誰もが思っていたが噂が流れるという事は何か切欠がある。それを確認することも含めて黒土は動いた。
そして、ようやく掴めたのだ。
「うんうん、素晴らしい人材もいることがわかったし、気分もいいから特別に教えてあげるよ…武器喰いに大打撃も与えただろうし、まぁ、残念なことがあるとすれば武器喰いの情報を回収できなかったという事だね」
組織が全力を出して追跡しているが未だ、珠洲沼、武器喰いは見つかっていない。
武器を食べて力に変えている。素顔を変えられることから組織も苦労しているのだろう。
敵の情報が少なすぎることが痛手だった。
「ま、連中もそろそろ動き出すみたいだし、前哨戦はこっちの勝利だね。あぁ、予言の事だったね。教えてあげるよ――海に囲まれた小さな国、そこに現れる武器喰いを死者の国から授かりし剣にて葬る白の死神ありし、其の者、混沌を照らす者なり」
告げられた予言、もとい未来の話。
騎士団の武器所持者の一人が持つ。一説で未来を予知する力に記されていたらしい。
導き出される未来は絶対に起こる。
満足というような表情の黒土に対して彼女は疑問顔だ。
「なーんか、彼に合致すると思わない?」
「そうですか?」
「黒土君はどうみるの、自分の部下にそういう呼ばれ方している子がいることに関して」
「まぁ、有体にいえば、武器喰いを倒すために彼がいるというのは間違いだということかなぁ」
「そういうと?」
「彼はいずれ今の世界を壊して再生をもたらす英雄ということです、いずれ、そうなってもらう」
「そっかぁ、なら――」
黒土の言葉に英国最強の騎士は小さな笑みを作った。
「彼はアロンダイトを倒さないとねぇ~」
▼
「夜明さん夜明さん!これはどうでしょう?」
「そうだな」
「夜明さん!みてください、半額になっていますよ!お買い時だと思いませんか!?」
「そうだな」
「みてください!まだ五月ですけれど、水着のセールが始まっていますよ!これから買いに行きましょうよ!」
「なぁ、吹雪」
「なんですか?あ、夜明さんの好みは何ですか?す、スタイルに自信はないですけれど、が、頑張ってどんなモノでも着こなして見せます!」
ぎゅっと胸の前でアピールをする。
それだけで服越しに胸の形が崩れた。
普通の男なら目が行くだろう。
だが、俺は別のことで彼女にいいたいことがあった。
「離れてくれ、腕が痺れてきた」
ショッピングモール、そこに吹雪といた。
消耗品がなくなってきたことから買いだめしておこうと考えて大規模ショッピングモールを選んだ。
それが間違いだった。
リニアレールで移動中、ずっと彼女に腕を掴まれていた。
離そうにも人ごみではぐれてはいけないということから断念。ショッピングモールに着けば離れると考えていた。
それすらも間違いだった。
「デートです!」と叫んだ吹雪によって離れるどころかより強く抱きしめられる。
服越しだが柔らかい感触が伝わってきて少し慣れない。
人ごみの中を二人で歩く。
傍からみたら俺達はどのように映るのだろう。
ふと、こんなことを考えた。
仲のいい友達?
恋人だろうか?
自分と吹雪はキスをした。
彼女から告白をされて俺は応じている。
つまり、そういうことなのだろう。
俺と吹雪は恋人同士のようだ。
別に嫌な気持ちとかはない。
吹雪は俺の中で大事な存在になっている、失いたくない。
ならば、恋人という事なのだろう。
「夜明さん!夜明さん!ゴホゴホ!」
「騒ぎすぎだ…ほら、水」
腰のポケットからペットボトルを取り出して彼女に飲ませる。
「まだ治っていないんじゃないのか?」
「大丈夫です。少し薬を飲まないといけないですけれど、問題ありません。それより吹雪の事を心配してくれましたか」
「当たり前だろ」
「嬉しいです!」
ニッコリと微笑む吹雪に少し心が痛む。
武器喰いが流した汚水によって彼女は少なからず体を害していた。
常人よりも強靭な肉体である俺達にとっても魔物によって侵された水は少なからずダメージを与える。
幸いにも日常生活へ影響を及ぼすことはない。
しばらく薬を飲んでいれば回復もする。
もっと多く水を飲んでいたり、長く浸かっていたら命を落としていたかもしれないけれど。
「俺も同じだ。けど少し落ち着け」
「はぁい」
しゅんと項垂れる吹雪の姿を見てぽんぽんと頭に手を置く。
「あ、夜明さん」
「時間は有限だが楽しもう…俺も、楽しむからさ」
「はい!」
笑顔の吹雪を見て俺も自然と笑みを浮かべようとして止まった。
人の波に逆らう男がいる。
周りの視線をモノとせず。
自分の道を体現するかのように立つ、いや佇んでいる男がいる。
長身の男。
「会うのはこれで三度目、だな」
「…」
行き交う人の中、アロンダイトが静かに告げた。
「場所を変える。ついてこい」
アロンダイトの言葉に俺は静かに頷く。
吹雪が不安そうに腕に抱き付いた。
「大丈夫だ」
安心させるように腕を握り返しながら俺達はショッピングモールを離れる。
彼につれてこられたのは廃ビル。
取り壊しが決定しているらしく、外には壊すための重機が置かれ、建物の一部も倒壊していた。
「何の用だ?」
「取り繕うことをやめたか」
こいつに俺や吹雪の正体はばれている。
もう演技をする必要はない。
アロンダイトは小さな笑みを作ると懐から白い手袋を取りだして投げる。
「俺は主の命令を守るのみ…影で戦う武器所持者よ。貴様に決闘を申し込む」
叩き付けられた手袋を手に取る。
海外の決闘の仕方など知らないが、確か受け取ると成立するのだったか?
「アンタと戦う理由がない」
「貴様は理由がなければ戦わないのか?」
「必要のない戦いはしない主義だ」
「貴様は何も守れない」
アロンダイトの言葉に体が反応する。
「貴様の技術はその歳にしては素晴らしいものだ。最強の一角になれるといっても過言ではない。しかし、心は未熟だ。赤子といってもいい。それほどの強さを持ちながら弱きもののために振るおうとしない。それどころか仲間を助けにすら来なかった」
その話に間違いはあるが事実を知らない彼からすれば俺は仲間を助けない非情な人間とみられているわけか。
「だが、今の貴様は前と何かが違う。決定的な変化がでている。それを見極める為!戦う事とした」
奴は腰に納めている剣を引き抜く。
「俺が決闘に勝利すればそこにいる小娘を騎士団へ連れていく。どうだ?これでも貴様にとってこれは必要のない」
「もう、黙れ」
吹雪を背にして雷切を取り出す。
感情に呼応するように刀身に纏う雷が唸る。
「てめぇが俺の何を期待しているとかそんなことに興味はない…しかし、俺の大切な奴を奪うっていうなら敵だ。俺の殺すべき敵だ。決闘だか知らないが奪う者がいるなら潰す、消し去る!それだけだ」
「では、決闘開始――」
アロンダイトが合図を告げたと同時に間合いへ入り込む。
驚愕に目を見開いた顔と交差する。
貌へ向かって刃を振る。
咄嗟に持っている剣で受け止められる。
火花と雷がぶつかりあう。
「合図をしたのはお前だ。卑怯だとはいわないよな?」
「当然、中々の動きだな。将来が楽しみともいえる」
雷切を振るい、下がる。
しかし、相手はそれを許さない。
「近くに来たんだ。そうそう離れる必要もないだろう?」
振るわれる連撃。
剣が襲い掛かってくる。
雷切で防ぐ、目で視る、を繰り返しながら敵の動きを掴む。
敵と交差を繰り返した回数は二桁なろうとしていた。
「驚いたな」
ボロボロになった剣を見てアロンダイトは呟く。
歯毀れが酷く、片方の剣は柄から先がなくなっている。
「この名のない剣を使い続けて十年。傷つくことはあれど、折れることはなかった。だが」
話している奴へ雷切を振るう。
派手な音が響く。
残りの剣が折れた。
「これで!」
「お前は俺の武器を潰したと喜んでいるだろう。それは間違いだ」
「…どういう、意味だ」
心を読んだような言葉に驚く。
武器所持者の戦いにおいて勝利の基準はいくつかあるが持ち主の武器を破壊することが多い。
壊れた武器は再生をするが使用できるまでのかなりの時間を有する。加えて、持ち主の精神もかなり疲労することが多く。無力化させる場合。武器破壊が有効とされている。
奴の言葉の意味を考える。
あの剣がアロンダイトの武器ではないということか?
「武器所持者は自身が生み出した武器を使うことで真価を発揮する…だが、俺はその中でかなり特殊な部類に位置していてな。貴様は英国の騎士団から騎士へ名前が与えられる理由を考えたことがあるか?」
「名前、だと」
「そうだ。俺や他の騎士団の使う武器は守るべき対象である女王から直接、名前が与えられる。騎士団にいるメンバー全員、例外なく」
だが、俺の場合は違うとアロンダイトは言う。
「俺は、俺自身の名前に力を持つ!アーサー王に使えていた騎士ランスロットは他の騎士たちよりも忠義に燃えていたという。主を守るために全力を発揮する。そして、俺の力も同じ…我らが主は俺の姿をみて、騎士と重ね、一つの剣と見た!わかるか?俺は“騎士”であり“剣”でもあるのだ!」
折れた剣を捨てて、落ちている鉄パイプを手に取る。
瞬間、鉄パイプが奇妙な光を発する。
輝きに包まれた鉄パイプを壁へ叩き付けた。
コンクリートの地面が陥没する。
「俺の力“アロンダイト”は手にした“物”を“武器”へ昇華させる力がある。武器の切れ味、威力などは自身の力量によって左右されるという事が難点!だが、あえて言おう!力量によって左右されるなど関係ない。我が剣は我が主の為に使う!主の命令こそが全て、それを果たす為なら俺はこの命を捨てよう!黒…白の死神、否、宮本夜明よ!貴様に守る者はあるか!?その命を捨てる覚悟を持つか!?」
アロンダイトの問い。
少し前の俺なら答えなかった。
いや、答えられなかっただろう。
今は違う。
はっきり言える。
雷切の剣先をアロンダイト、最強の騎士へ向ける。
「仲間を守る。俺は仲間のためにこの刃を振る。もう大切な人を失わないために戦う。騎士、いやアロンダイト。お前が俺の仲間を奪うっていうなら阻止する。俺はもう何も失わない!」
「良い覚悟だ!しかし、覚悟あれど力が伴なければ意味がない!俺に見せてみろ!!宮本夜明よ!貴様の力をぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお」
「うぉらぁああああああああああああああああああああ」
そこから先はただひたすら泥試合のような戦いだった。
アロンダイトはパイプが折れれば別の道具を使う。
鉄パイプが使えなくなれば瓦礫だろうと石でも使って勝利をもぎ取らんが為に戦いへ向かう。
いかなるものであろうと雷切を使って切り伏せる。
近づけまいと超電磁砲を放つも相手はやすやすと防ぐ、もしくは躱す。
それらを繰り返して二人の武器所持者の体に傷が増える。
体から血が吹きだそうが骨が折れても止まらない。
譲れない信念、目的の為に宮本夜明、シャルル・アロンダイトはぶつかり合う。
泥試合に決着がついたのは夜になった時。
お互いの体力が底をつき、立ち上がることもできなくなっていたという。
「なんとまぁ…第二位とはいえ、彼とぶつかりあった結果がこれかぁ」
プライベートジェットの機内。
設置されたスクリーンをみてアストリア、否、イギリス支部第一正規軍円卓の騎士団、騎士団長アーサー=アンダーセンは笑みを深める。
仲間の能力によってスクリーンで戦いの様子を見ていたが、彼女の想像を上回る結果だった。
「うん、もういいよ」
ここにいない仲間へ指示を出すとスクリーンは消える。
シートへ深くもたれつつも彼女の中で沸き起こるアドレナリンは止まることを知らない。
騎士として、戦いに身を置いている者として“あれ”をみて何も感じないわけがなかった。
もし、あの場にいれば自分も参加していた。
はっきりといえる。
日本の切り札は金メッキの勇者ではない。裏で活動している宮本夜明、黒だ。
「命を刈り取る死神が切り札…これはこれで、面白いですねぇ…でも」
存在を日本が秘匿している以上、彼が表へでてくることはないだろう。
それはそれでつまらない。
何よりこちらの思惑とはずれてしまう。
「ま、この予言に変化がない以上、焦る必要もない」
タブレットを取り出して彼女は一つのファイルを開く。
極秘と記されているファイルの中にはある文が記されていた。
海に囲まれた小さな国、そこに現れる魔の者達、滅びをもたらさん。しかし、死者の国から授かりし剣にて葬る白の死神ありし、其の者、混沌の世界に光を照らす者なり。
終わりの笛が世界に鳴り響く中、黒の破壊者と白の救世主は――。
続きは打ち込まれていないのか、削除されたのか空白だった。
黒土に伝えた内容は変化される前のもの。
このデータは常に変化して、上書きされる。その日がくるまで新たな言葉は刻まれ続けていく。
だが、今はそれでいいとアーサーは微笑む。
「それにしても、アロンダイトったらぁ、勝手なことをするんだからひやひやしたよ」
右腕として優秀だがそれ以上に武人としての気持ちが強い彼は時として主たる自分を驚かせることがあった。
それが宮本夜明との決闘。
決闘の最中に告げた言葉。
「“白騎士”ねぇ」
激化する戦闘でテンションが上がっていたのだろう。
――貴様は死神にあらず!その覚悟は守る者と同じ!白の死神ではない!白騎士だぁああああああ。と叫んでいた。
宮本夜明個人を気に入ったのだろう。だが、騎士としての名前を与えたのは少し、ほんの少しまずかったのかもしれない。
「あとで問題になったらどーしょ?」
そんなことをいいながらも彼女の顔は常に笑顔だった。




