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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第二章:灰かぶりの夢―WhiteKnight-
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12.騒動


 魔物と金城秋人が戦う場面を画面の向こうから俺は見ていた。


 高校の教室。


 今は金城秋人と水崎姫香の二人が魔物と戦っている。


 学園で一番の人気者と転校してきて数日足らずで学校中から好かれている少女。


 その二人が魔物と戦っている姿を見たい、応援したいというクラスメイト達の要望に負けた教師が“特別”にみせていた。


 何度も見せられているから興味はない…はずだった。


 俺の視線は時々映る、水崎姫香へ向いている。


 彼女は巨大な手を実体化させた盾で防いでいた。


 ぎこちない動きで必死に攻撃から身を守っている。そんな姿を見て「がんばれ」という声が教室から漏れる。


 か弱い少女が必死に敵の攻撃から仲間を、身を護る。


 現実でみたら応援したいと思うだろう。


 俺からすればそんな奴は戦場に出すなという所だが…。


 攻撃を防ぐ盾に亀裂が入ってはじけ飛ぶ。


 ふらふらとおぼつかない足取りながらも彼女は再び盾を実体化させる。


 かなりの体力を消耗させながらも迫る攻撃を防ぐ。


 ようやく他の魔物を倒したのだろう。輝く剣を手にした金城秋人が彼女を狙っていた魔物を倒す。


 最後の一体を倒したことで映像が変わる。


 ナレーターと学者の討論になったところで視線を窓の外へ。


 緊張していた空気も緩慢としたものに変わっていく。


 まるで自分達もその場にいたというような感覚を俺は嫌いだった。


 戦っている者からすればこんな空気は遊びに近い。


 命のやり取りをすればわかる。普通なら遠慮したいだろう。


 水崎姫香が武器所持者になってから何回目の戦闘だろうか?


 ふと、そんなことを思う。


 彼女はまだ数える程度しか戦場に出ていない。


 普通の子なら泣きじゃくっていやがるだろう。


 命を失う危険もあるんだ。


 進んでいくはずがない。


 だが、彼女は魔物が出現する度に戦場へ足を運んでいる。


 戦う場所に絶対という言葉は存在しない。


 いついかなる所で命の危険へ繋がるかわからない。


 しかし、水崎姫香は恐れの表情をみせなかった。


 そんな彼女から目を離せないのは罪悪感からくるのだろうか?


――お前は忘れてはいけない。


 耳元で言葉をささやかれたような気がした。


 だが彼女へこれ以上踏み込んではならない。


 これ以上、彼女へ干渉してはいけないのだ。


 水崎姫香と俺は別世界の人間。


 鮫の女王。


 数少ない魔物に彼女は狙われていた。その運命から逃れた時、俺は彼女の記憶を消した。


 掃除屋としての姿を見られたのだ。


 そのため、俺と接していた日々の記憶まで消えてしまう。


 安堵すればいいのか、悲しめばいいのか俺にはわからなかった。


 只、彼女から目を離すことは許されないと心の中で思っているだろう。


 ブルブルとポケットの中で小さな振動が起こる。


 「気分がすぐれないから早退する」と告げたが誰も彼へ返事をしなかった。それどころか彼のことをいない者扱いしていた。


 不良として嫌われているから当然かと自虐的な笑みを浮かべ、教室を出る。












 訪れたのは今にも潰れそうなBar。


 表の看板はOpenと記されている。


 建物内へ踏み入ると熱気と煙草の煙が出迎えた。


 酒を飲む場所だから当然かと思いながら携帯を開く。


 そこには差出人不明のメールがあった。



『担当の黒土不在のため、私がキミ達の指揮を執ることとなった。任務があるので指定する場所へ19:00までにこられたし』



「ここが指定された場所ですか?」


「そのようだな」


 後ろからついてきた吹雪がきょろきょろと周りを見ていた。


 バーの店内にいる男達はぽつりとつぶやく。


「また餓鬼だぜ?」


「おそらくあいつらも掃除屋だろう」


 強面の視線が探るように向けられる。


「おいおい、あの髪の色」


 予想でしかないがここにいる連中は全員が掃除屋、もしくは陰に関与する人間だろう。


 視線や肉付き、動きの一つ一つが鍛えられているものだとわかる。


 そもそも掃除屋はホルダーだからといってなれるわけではない。


 肉体訓練と精神訓練の二つを受けて、最低限のラインまで底上げしてから実戦で使われる。


 といっても掃除屋のほとんどが腹に傷を抱えている連中ばかりだ。片方の訓練を受けるだけで済むことが多い。


 俺の場合は両方を念入りにうけさせられた。


「あの、よ――」


「ここで実名を使うな」


 小声で吹雪を制する。


 掃除屋は同じ穴の狢だが互いに信用してはいけない。


 目的のためならば手段を択ばない。そんな連中が多々いるのだ。


 さらに個人の情報というのはお金と同じくらいの価値がある。


 情報があるとないで結果は大きく異なる。だからこそ、ここにいる連中へ余分な情報は与えたくなかった。


 それにしても、また餓鬼か。


 黒土から話に聞いていたが俺に近い歳の掃除屋が何名かこの街付近で活動している。


 おそらくその連中もここにいるだろう。


「その髪、お前が白の死神か?」


 そんなことを考えていた時だった。


 室内の奥から学生服を着た少年がやってくる。


 俺も学生服だが、相手は額にバンダナを巻いていた。


――“白の死神”


 それは俺が掃除屋として活動をはじめて、少しして呼ばれるようになった仇名だ。


 白い髪と死神と見紛う程の命を奪った数からいつからかそう呼ばれた。


「何故、俺がそうだと?」


「頭の髪だよ。不良だからって白髪はそうそういねぇーよ」


 どうやら髪の色で判断されたらしい。


 ばれると思うなら毛染めしろと言われるかもしれないがこの髪を毛染めしようとしても薬品が全く定着しないのだ。


 だから、ずっと白髪で生活している。


 ぞろぞろとバンダナ少年の後ろから同い年くらいの面々がやってきた。彼の仲間だろうか?


「へぇ、アンタがあの死神。もっと老けている奴かと思ったぜ」


「公式だと表の英雄が女王を倒したことになってるけど、アンタだってな」


「俺が倒した」


「けれど、噂じゃあ、二人で挑んだんだろ?」


「それって本当なの?女王って他の魔物違って特殊能力とか凄いんでしょ?そもそも掃除屋は問題があるから掃除屋なわけで問題児が勝手に動くってどうよ」


「ヘヘッ、もしかしたら表の英雄さんが弱らせたところを倒しただけかもよ」


「もしかしたらその女王が本当に雑魚だっただけかもなぁ」


 初対面からそうだが、俺はこいつらが好きになれなかった。


 そもそも人間の殆どが嫌いだが、こいつらは特に嫌いな部類だ。


 人を品定めして、勝手に位置づけする。


 そうして期待外れなら勝手に落胆していく。


「おい、どーなんだよ?なんとかいったらどうだ?」


「失せろ」


「あ?」


「俺が何を話したところで信じないだろう?だったら何も言うつもりはない。俺は用事があってここにきている。お前らと話している時間はないんだ」


「ケッ、お高く留まってんじゃねぇよ」


 最初に話しかけたバンダナが唾を吐く。


 それは俺の靴に当たる。


「いいか、二つ名もっているからって自分が強いなんて思うんじゃねぇよ。てめぇは俺達より後に掃除屋になっているんだ。あまり目立つようなことをしていると潰すぞ」


 指で虫を潰すような動きを見せてバンダナは警告する。


 どうやら嫉妬もあったようだ。


 ますます嫌いなタイプだ。


「おい、聴いてんのか、この“雑魚”が」


 その時、自分を抑えられなかった。


 コイツを殺そう。


 バンダナの男に向かって手を伸ばそうとしていた。


「侮辱、するなぁああああああああああああああ!」


 それよりも早く、吹雪が前へ踏み出していた。


「ぶへぁらぁぁ!」


 派手な音を立ててバンダナ男が地面へ倒れる。


「この!この!謝れ!謝れぇええええええええええええ!」


 マウントをとるとそのままバンダナ男を殴り続ける。


 大剣を振り回せるほどの腕力のある吹雪だ。


 本気で殴り続けていたら顔の形も変わるだろう。


「やめ、ブハッ!たす、だれか、たすけ!」


 バンダナ男の悲鳴に仲間の一人がようやく動き出す。


 槍を取り出すと吹雪に向かって突き出す。


 それを雷切で地面へ叩きつける。


「つぁあ!」


 電撃が槍を通して手を痺れさせた。


 かなり痛かったのか仲間は悲鳴を上げる。


「ここがどこか考えろ」


 文句を言われる前に告げる。


「どこって…」


「多くの掃除屋がいる前で騒ぎを起こせば管理官に裁かれるぞ。この中には密告者がいるかもしれないからなぁ」


「!?」


 状況を理解したのだろう。


 槍を持っていた男は慌てて武器をしまった。


「吹雪、お前もやめろ。それ以上は流石にやりすぎだ」


「え、あ、はい」


 俺に言われたことで正気に戻ったのか吹雪は立ち上がる。


 殴られ続けていたバンダナ男は気絶していた。


 辛うじて顔の原型が保っていることが救いだろう。歯が何本か折れているが。


「どうやら俺達を呼び出した奴は現れないようだ。帰ろう。時間の無駄だった」


 コクンと吹雪が頷いたのを確認して扉の方へ向かう。


 後ろで何か騒ぎが聞こえたが長居するだけ問題は悪化することは目に見えていた。


「そうだ」


 俺はハンカチを取り出すと吹雪の手をとる。


「え、あの」


「血だらけのまま外に出ると厄介だ。拭いておけ」


「……ありがとうございます。夜明さん、吹雪は嬉しいです」


「別に、これ以上、騒ぎに巻き込まれたくないだけだ」


 そっぽを向きながら俺は店の外に出る。


 後ろで吹雪は大事そうにハンカチを握りしめていた。


 それから携帯電話に代理の奴から連絡が届くことはなかった。


 何だったのだろうか。



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