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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第二章:灰かぶりの夢―WhiteKnight-
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10.呪われた少女


 物心ついた時から私に居場所はなかった。


 家も、学校も、遊び場ですら居場所じゃない。


 閉鎖された村で忌み嫌われていた。


 周りからいつもこう呼ばれる。

――呪われた子。


 何故、そう呼ばれるのか理解することもできず周りから産んでくれた親からも必要とされなかった。


 一度、親へ叫んだことがある。けれど、その訴えは彼らへ届かなかった。


 いつも遠くからみていることしかできない。


 それが私の日々となった。


 親が働きに行く時、


 学校へ同い年の子が行く時、


 外食へみんなが出かける時、


 どこかへみんなが遊びに行く時も、


 ただ後ろから眺める事しか許されなかった。


 どれだけ楽しそうに話をしていても、何かをしたいという話を聞いているだけしかできない。そんな毎日嫌気がささなかったことはない。


 ついていきたい、遊びたい、学校へ行きたい。


 どれだけ親や周りへ訴えてもそれは許されなかった。


 全ては、呪われた子だからという一つだけで。


 一度、見つからずに抜け出して外へ遊びに出た。


 けれど、すぐに見つかった。


 楽しかった時間は一瞬で地獄に変わる。


 連れ戻された私に待っていたのは全員からの暴力。


 許されないことをした。


――お前は呪われた子なのだ。


――勝手なことをするな。


――絶対、外に出るな!


――呪われた子。


――呪われた子め!


――この、呪われた子!


 その一言は心を蝕んだ。


 振るわれる暴力の中でそう考えるようになった。


 両親も、周りの人間も無表情でそう言い続けた。


 自分がいけない。


 学校へいけないのも、外に遊びに行けないのも、友達を作ることも…どこかへいくことすら自分が呪われた子だから許されないのだ。


 気が付いたら呪われた子は何もしてはいけないと思うようになった。


 家から一歩も出ず与えられた食事だけをとる。


 家畜同然の扱いを私は受け入れることにした。


 だからこそ。


 あの日、私だけが生き残った。


――“世界が壊れた日”


 後に名付けられたあの日の出来事。


 世界各国に現れた魔物というモンスター達。


 それは後に女王級と名付けられた七体の魔物が出現した日。


 女王級の魔物から生み出された魔物が村へ現れた。


 後で知ったことだが主要都市の殆どは女王級による被害だがそれ以外のものは女王級が生み出した魔物だった。


 村の近くに魔物は姿を見せた。


 皆が大事なもの、家族をつれて逃げ惑う中、私は家から一歩も動かない。


 魔物は動くものだけを狙い続けた。


 娘を守ろうとした父母、銅像を抱えて走る男、車に乗って遠くへ少しでも逃げる者達。


 それらを魔物は踏みつぶす。


 自分を産んでくれた家族が消える光景をただみていた。


 しばらくして大人たちが私を救助する…ことはなく。謎の男達に拉致される。


 遅れてやってきた自衛隊は村の生存者を0と記録した。


 居場所がない私は身内も知らない不思議な力を宿していた。


 掌から生み出される小さな結晶。


 これが呪われた子といわれる理由だったのだと思う。


 つい、暇つぶしで結晶を生み出したところをみられてしまう。


 その結晶を見た男達は「もっとだせ」と言い続ける。


 黙々と流れ作業のように結晶を生み出す。


 それがダイヤモンドの原石であると知った。


 男達の指示通りにしていたある日、結晶とは別にある物が生まれた。


――小さな刃の欠片。


 誰かが自分のことを“武器所持者〈ウェポンホルダー〉”といった。


 その時の彼らは結晶欲しさにひたすら作れと言い続けるだけで大きな騒ぎにならない。


 彼らはダイヤを手放したくなかったから何も言わなかったのだろう。


 騒ぎになれば武器所持者を管理している組織がやってきて私を連れていく。それを許せないほど彼らの欲は深い。


 金を生み出す鳥を手放すものなどいるわけがないのだ。


 露知らず私は作り続けた。


 必要とされたから作る。


 それだけの理由だった。


 誰かに必要とされなかった反動だろう。誰かに必要とされることがこれほど満たされるものだという事を知らなかった。


 彼らが喜ぶのならどんどん作ろう。


 そうしているうちにおいしい食事がどんどん出てくるようになるばかりか綺麗な服を与えられることもあった。


 これが幸せというものなのだろうか?


 ようやく私は幸せというものについて実感をもてていた。


 その場所は唐突になくなってしまう。


 深夜だっただろうか?


 外が騒がしくなる。


 花火みたいな音がいくつも響く中、男達がやってきた。


 何か慌てた様子で私を抱えて走り出す。


 訊ねることができないくらい彼らはピリピリしていた。


 薄暗い道を進む手の中には黒く光るものが握られている。


 人を殺す道具だと知っていた。


 そんなものを取り出してどうしたのか?


 何に怯えているのだろうと首を傾げている前で“それ”は降りてくる。


 目に映ったのは黒と白。


 相対するはずの色が映った瞬間、男達は黒い道具を向けていた。


 次に走ったのは青い光。


 汚い声をまき散らして男達は地面へ倒れる。


 抱えられていた私は地面に落とされた。


 じんじんと体が痛むことを気にせず動かない男達をみた。


「…死んだの?」


 座り込んだ私は目の前の存在へ問う。


 全身が黒いから人間じゃないと考えている。


 もしかしたら死神かも。


 悪いことをしている人たちの前に現れてその命を集めて回る死神。


 死神ならこの人達は死んでいる。そう思っていたから訊ねる。


「いいや」


 気がついたら彼は目の前で跪いていた。


 赤いゴーグルを下して素顔が現れる。


 一瞬、


 本当に一瞬、私は言葉を失ってしまう。


 ゴーグルの中から現れた顔は普通の男の子。


 年齢は自分と対して変わらない。


 けれど、自分と違う“何か”を感じた。


 惹かれたといっても過言ではない。


 少年の目から外すことが出来なかった。


「大丈夫か?」


「え?」


「俺はお前を保護するためにここへやってきた…安全な場所まで連れていく」


「…また、失うんだ」


「失う?」


 少年の言葉に私はつい返した。


 自分に居場所がないという事。


 唐突に何かが起こって別の場所へ移動となる等。思えば、この男達も知らない人間だ。


 気づかないうちにまた誘拐されたのだろう。


 どこか諦めのようなものを呟いた時、頭上から呆れた声が聞こえた。


「くだらない」


「…なに?」


「くだらないといったんだ。居場所が変わる?失う?その程度で?ハハッ」


 素顔の見えない少年は冷笑を浮かべた。


「己惚れるなよ」


 かと思うと私の髪の毛を掴んでぐぃっと顔を近づける。


「居場所なんていうのは自分でつくるものなんだよ。誰かに与えられているのなら家畜と同じだ。いや、自分で作ろうとする意思があるだけ家畜の方がましだ。お前は家畜以下だ」


「…でも、私は呪われた」


「抗え、奪われることに慣れるな」



 顔を近づけたまま少年は囁く。


 強く、ギラギラした目でいう。


「奪われたら取り戻せ、自分の居場所も、何もかも弱者だからお前は奪われたんだ。欲するのなら強くなれ。他者を蹴落としてでも、殺してでも。何をしてでも、手段を選ぶな」


 普通の人が聴いたなら狂っていると思うだろう。


 しかし、私は違う。


 この言葉に魅力を覚えた。


 乱暴に突き飛ばされた私を見下ろしながら彼は立ち上がる。


 もうすぐ私と彼は離れてしまう。


 そう直感した私は口を動かす。


 ここで訊いておかないと後悔する。


 私ははじめて自分から動いた。


 誰かに言われてやってきた私からすれば信じられないものだった。


「貴方の名前を教えてください」


「夜明…夜明だ。覚えなくていい。これから先、出会う事のない名前だ」


 これが私と後に黒という名前で犯罪者から恐れられる少年の出会い。


 短い時間の出会い。


 忘れてもおかしくはない時間だが私は覚えていた。


 もう一度、彼と会いたい。


 彼の傍へ。


 だからこそ。











「お前に居場所をあげよう。お前は世界を滅ぼす魔女へなれる素質を持っているからなぁ」









 私は彼に会えるためならどんなことにでも手を染めよう。


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