第9話『初戦』
「にしても案外上手くいくもんだな」
アネハは思惑通りに行ったことに対し、とても嬉しそうな顔を浮かべる。
俺はアネハの発言に相槌をうつ。
「全くだよ。よくこんなことを即興で思つくよ」
アネハが考えた作戦とは、サブで選んだ<魔法使い>の魔法を使って火を出したら良いんじゃかいか?といったものだった。
結果は見事に成功。
多少の工夫は必用だったものの、街に戻らずに光源を手に入れる事ができた。
蛇足だが、俺もなんとか出せないかと頑張ったのだが、どうやら魔法職を選択しなければ魔法は使えないらしい。
実に悲しいことである。
ーー◇ーー◇ーー
それから。
洞窟に入ってから十分程歩いた頃だろうか?
俺は洞窟の奥、まだアネハの光があたっていない真っ暗な影の所で、違和感というか何かの気配を感じた気がした。
俺はアネハに指を指しながら質問をする。
「なあ、今なにか動かなかったか?」
「え?何処だよ」
「ほら、そこだよそこ」
「だから何処だよ……」そう言いながらアネハは前に伸ばした手を左右に振る。
腕の動きにつられて動く【灯火】の光が、ゆらゆらと揺らめきながらも不規則かつ断続的に壁や天井や床を照らしていく。
【灯火】とは火・水・木・土・風の五つの属性魔法の一つである火魔法の中でも、一番最初から使える【火球】という初期魔法をちょっと工夫して、改造したものだ。
改造といっても大したものではない。
もともと【火球】を発動させる為には、
①自分の手のひらに握り拳程の大きさの火球を作り出す。
②次に手の平を敵にむける。
③詠唱(この場合「ファイヤーボール」)を唱えると、敵に向かって火球が発動し、飛んでいく。
この3つのステップが必要なのだが、なんと3つのステップの途中である①から②の段階で、てのひら決して敵に向けず、また「火球」と言わなければ、火はどこにもいかずに使用者の手の中で燃え続けるのだ。
仕組みさえ分ければ、誰でも思いつけれるような単純さである。
なお、【灯火】という名前はアネハが自分で名付けた名前だ。良い名前なのがちょっとムカつく……。
話を戻そう。
アネハは暫くの間そうして辺りを照らしていくが、動く影おろかモンスターすら見つからず、
「やっぱり居ないな、お前の見間違いだなクロ」
そういって俺を小突いてくる。
「本当にいたんだよ」
「はは、身体が小さくなってバランスどころか目まで悪くなったか?」
「いや、だからっーー…………」
「うん?どうしたんだよいきなり黙っ…て……」
俺とアネハは仲良く息を飲む事になる。
何かが『パキッ パキッ』と音をたてながら此方へ近づいて来ている事に気づいたからだ。
アネハは音のした方へ光源の左手を突きだして音源が何かと確認しようとし、俺は静かに腰にぶら下げている短刀を右手に構えていつでも戦える様に腰を少し下ろす。
そうして無駄なお喋りや動きはせず、ジッと息を殺していると、【灯火】の光が何かを捕らえた。
それはーー
「「か、亀?」」
亀であった。
大きさは大体一メートル前後位だろう。俺の知っている亀で例えるなら、ワニガメをゴツくした感じである。
また、甲羅の色は洞窟を形成している岩と同じ色をしており、明らかに生物の“それ”ではなかった。
ストーンタートル Lv2 エネミー
暫しの間亀が此方へ少しづつゆっくりと近づいてくる様子を眺めていると、小さなカーソルが出ると共に名前とレベル、そして恐らく残り体力を表すゲージが表示される。無論、満タンだ。
ストーンタートル……か。
多分だけど甲羅は『岩の様な色』ではなく、名は体を表すが如く『洞窟と同じ成分の岩』でできているのだろう。
時折キラキラと甲羅の岩が【灯火】の光を反射し、異様な威圧感を感じさせられた。
また、『バキッ バキッ』という小さな破砕音が聞こえてくる。音の発生と共に亀が前後左右の足を踏み出していることから、どうやらこの音を出しているのはこの亀であるらしい。
そう、この亀はエネミーという言葉が表す通り、この《real world》において俺とアネハが始めて遭遇するモンスターなのだ。
「どうする?やっちまうか?」
右手に戦士の初期装備である斧を持ちながら、アネハがそんな問いかけをしてくる。
「はん、怖じけずいてるのか?アネハ」
「バカ言え、感動してんだよ。で、どうする?」
「勿論……」
再度確認してくるようなアネハの質問に、俺は笑顔で答える。
「やるしかねぇだろ!」