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黒の暗殺者  作者: 平平平平
第二章 死二抗ウ者
52/67

第3話 『バグ』

新年明けましておめでとうございます。


 




 ──《此処は地球とは別の世界、リフロイナム。》


 《魔法という超常的な力が全ての生命にとって当たり前である世界。》


 《数多の種族が繁栄し、共存し、生活する世界。》


 《火の神、土の神、風の神、水の神、木の神、戦の神、呪の神、獣の神、様々な神が管理している世界。》


 《そんな世界、リフロイナムに新たな神が生まれた。》


 《その神の名はメイディア。》


 《管轄すべき物も、見守るべき物も、しなければならぬ事も、全てが『 無 』である神。》


 《生きるべき定めも、果たすべき目標も、為すべき理も、全てが『 空白 』である神。》


 《それが【 白の神 メイディア 】》


 《リフロイナムの神々はまだ幼き神メイディアの存在を知ると、こう思考した。》


 《何か我々にできることはないだろうか?》


 《例えれば、火の神ならば火の加護を、土の神ならば土の加護を、風の神ならば風の加護を、水の神ならば水の加護を。》


 《あるいは、木の神ならば木の加護を、戦の神ならば武の加護を、呪の神ならば呪の加護を、獣の神ならば獣の加護を。》


 《そうして各々の神が、自らが管理し、自らが統括する物や権利を少しずつ集め、譲渡していった。》





 唐突に流れ出したのはログイン時に必ず流れるオープニングムービーだ。

 内容はこの作品(Real World)の世界観を魅せるものとなっており、事実その魅力は素晴らしいの一言につきた。



 青い山々に潜む山生生物達の生体。

 碧い海原に沈む海生生物達の概形。

 蒼い大空に泥む野生生物達の様子。


 赤い火煙を燻らす生き物達の騒宴。

 紅い相貌を揺らす化け物達の団欒。

 朱い灯火を震わす魔の物達の咆哮。



 森羅万象の豊かさと荘厳さを謳う様に流れる映像は、それが本当に存在しているモノであると錯覚させ、その雄大さに見る者を有無を言わさずに圧巻させる。

 一応スキップで飛ばすことも出来るのだが、そんなことはせずに俺は何時もそのまま眺める事にしていた。





 《やがて白の神は様々な神から得たその力を以て、この世界にある一つの種を創り出す。》



 《それは我が子であり、眷族であり、使徒であり、そして、白の神の一部でもあった。》


 《神々は喜んだ。己の託した力の欠片が、全てが無であった幼き神に守るべき者を創ったのだ。》



 《しかし神々は後に驚愕する事となる。》


 《白の神の眷族の能力であり、【 白の神 メイディア 】の真の力、それは────》



 《 不滅(リバイバル) 》



 《命を落としても、肉体が滅んでも、精神が蝕まれても、それこそ如何なることがあろうとも。》


 《足掻き、壊れ、もがき、生き返り、生還し、誕生し、再起し、繰り返す。》


 《あたかも、水が巡る様に。命が廻る様に。そして、壊れた者を直すが如く。》


 《神々をも恐れおののく力。それが【 白の神 メイディア 】の加護であった。》






 ところで、「私達が最も苦渋し、そして私達にとって最も渾身の出来となったのはAIやシステムの作成ではない。オープニングムービーにおいての辻褄(つじつま)合わせだ」とは、とあるゲーム情報誌の取材に対してRW(Real World)の制作スタッフの幾人かが語った言葉である。

 その言葉を額面通り受けとるならば、このオープニングムービーは世界初のフルダイブ型ファンタジーアクションゲームを作った開発スタッフをして、作品内でも有数の制作に苦労した部分であり、そして渾身の出来でもあるのだ。


 実際、運営側もこのムービーを気に入っているのか、ムービーを視聴する為の仮想空間には幾つもの工夫が施されていた。

 それは映画館を彷彿とされる真っ黒な空間設定を始めとし、音響やその音質の繊細性、映像に使われている高精細度仮想ディスプレイの解像度、仮想神経に対する負荷の軽減等々、といった細かな技術の端々に見られた。

 ……まあ、要するにこの仮想空間にはプレイヤーが疲れること無く、かつより臨場感を味わえる様にという運営の努力が垣間見える作りとなっているのだ。





 《この世界に現存する全種族の特徴を携える事ができ、望めば改宗も、他神に願えばその加護を得る事もできる。》


 《通常種よりも脆弱であるものの、万能であり多彩な能力を所有している(存在)。》



 《それが ()だ。》



 《さあ、この世界ーリフロイナムーで君だけの(アバター)を作り上げろ!》



 



 さて、特に意識すること無くただ(・ ・)ぼーっと見ている間にもムービーはいよいよ佳境を向かえ、やがてタイトルロゴが表示されて終了する。


 唯一の光源であった目の前に浮かぶ仮想ディスプレイのスクリーンの光が無くなったため、

 ムービーの最後に映っていた何もない真っ白な空間の映像が消えると同時に視界が暗転する。


 そして、それ(視界の暗転)から10秒、20秒、30秒と経ち────




(……ん?)



 微かな違和感。

 それは些細なことかもしれないが、これまでの平常とは若干違う差異に対する疑問でもあった。

 もうムービーは終わっているのに何時までたってもゲームが始まらないのだ。


 始めはただのラグか不具合だと思っていた。

 しかしどれだけ待っても暗転した視界は直らず、ゲームの開始を告げるBGMも流れてこない。


「……どうやら何かおかしいようだ」と停止していた思考を解す。

 そして何が何だが全然わかっていないまま、取り敢えず何か行動を起こそうと思考の帰結を終わらしたところで──パチッ、という音を耳にする。


 その弾ける様に鳴る気味の良い音が何もない空間で聞こえてくる現象に思わず我が耳を疑った。



(幻聴? ……いや、違う)



 だが、自らの耳ににかけた疑いは直ぐに晴れることになる。

 またあの『パチッ』という音が聞こえてきたのだ。

 それも、弾けるような音は一度だけではなく断続的に、何度も何回も辺りに響き出す。


 ふと、目の前にある仮想ディスプレイの画面に、うっすらとではあるが何かが浮かんできていることに気がついた。







 ──《此処は地球とは別の世界、リフロイナム。》



 何の前触れもなく、何処からともなく流れ始めるナレーション。

 そのフレーズは聞き覚えのあるものだった。

 それもそのはず、つい数分前にも聞いたオープニングムービーのナレーションだ。


 不具合が起きていると危惧していた状態で、続け様に生じるおかしな挙動(同じ言葉のリピート)

 それは現状に対する不安を助長するには十分過ぎる効果を持っていた。



(……おいおい、幾ら大型アップデートしたからといって初日でいきなりバグるかよ……)



 何とも言えないやるせなさに、思わず呆れとも怒りとも言えない(強いて言えば徒労感だろうか)微妙な表情を浮かべてしまう。

 が、その感想はこのナレーションの後に続く言葉を聞いて誤ちであったと気づく事となる。






 ──《此処は地球とは別の世界、リフロイナム。》


 《他物の命を奪うという行為が全ての生命にとって当たり前である世界。》


 《数多の種族が殺し合い、奪い合い、簒奪を繰り返す世界。》


 《火の神、土の神、風の神、水の神、木の神、戦の神、呪の神、獣の神、様々な神が管理している世界。》


 《そんな世界、リフロイナムに新たな神が生まれた。》


 《その神の名は◼◼タ◼◼。》


 《管轄すべき物が、見守るべき物が、しなければならぬ事が、全てが『 有 』である神。》


 《生きるべき定めが、果たすべき目標が、為すべき理が、全てが『 略奪 』である神。》


 《それが【 ◼の神 ◼◼タ◼◼ 】》






───パチバチと弾ける音がまだ聞こえきていた。

 ナレーションの一部を聞き取ることが出来なかったのはその音の所為(せい)だからだろうか?

───弾ける音が大きくなってくる。

 いや、そうではない。

 ナレーションの一部が聞こえなかったのは耳を(つんざく)くようなノイズか走っていたからだ。

───パチパチと燃える(、 、 、)音が広がり始める。


 赤と黄色の鈍い光がゆらゆらと揺らぐ。

───火だ。

 パチパチという音の発生源は、陽炎のように揺れる火から生じていたものだった。


 そして、いつのまにか俺の目の前(黒いディスプレイの中)には大小幾つものパチパチとはぜる火花を撒き散らしながら燃え盛る火が浮かんでいた。






 《まだ幼き神◼◼タ◼◼はこの世界ーリフロイナムーやその神々の存在を知り、こう思考した。》


 《何か私にできることはないだろうか?》


 《例え◼ば、火の神ならば火◼加護を、土の神ならば土の加護を、風の神ならば風の加護◼、水の神ならば◼の加護を。》


 《あるいは、木の神◼◼ば木◼加護を、戦◼神な◼ば武の加護を、呪の◼ならば呪の加護を、獣の神◼◼◼獣の◼◼を。》


 《そうして各々の神が、管理し、統括す◼物や権利を少し◼つ集め、簒奪してい◼た。》






 唐突に歪み始める視界。

 数秒か、それとも数分か、もしかしたら一瞬だったかもしれない。

 ともかく歪んでいた視界が治ったので現状を把握しようと辺りを見渡し、──ふと、目の前に有った筈の大きなディスプレイが消えている事に気がついた。

 依然として視界は暗いままで、同様に景色も黒い絵の具で塗り残し一つ無く丁寧に塗りたくったかの様にただただ真っ黒で、黒一色。

 けれど、先ほどまで目の前に(ディスプレイの中)しか存在していなかった火が、今は見渡す限り全方位に点在しているという点では大きな相違があった。


 実はさっき起きた現象(視界の歪み)に対して、俺には一つ心当たりがある。

 あれはヘッドギアがまだ市販されてすらいない2057年の初め頃、ヘッドギア制作の初期段階仮において、想空間が切り替わった際頻繁に生じていた人体に有害な効果を持つと危惧されていた不具合の一つ……といった類いの記述が、少し前に何の気なしに読んだ昔の情報誌に書いてあった記憶がある。

 人体に有害云々の件は非常に気になるが、それは一先ずおいておくとして。

 つまり、憶測の域を出ないがここは先程まで俺がいた空間とは違う、また別の仮想空間だということだ。



 この暗闇に目が慣れてきたからなのか。

 或いは光源であった火が炎と呼べる程に大きくなってきていたからか。

 どちらかなのかは分からないが、揺らぐ炎の他にも暗闇の中で何かの影が蠢いているのを、朧気ながら察知することができていた。

 そして、薄ぼんやりとしていた影──(不規則に激しく動いているのだから恐らく生命体だろう)──も何時のまにか徐々にはっきりし始め、とうとうその姿が明らかとなる。

 予想した通り、影の正体は無機物ではなく命ある生き物だった。その数は2つ。


 一方は高さ3mを越える重厚な筋肉の鎧に、人の手足と牛の頭部を持つ巨漢で、

 他方は約160cmにも満たない小柄な体に、人の手足と狼の頭部を持つ戦士だった。


 牛の頭部を持つ巨漢の名はミノタウロス。

 狼の頭部を持つ戦士は名はウルフマン。

 人間とは到底言えない外形であるこの二匹の化け物は、RW(Real World)において不特定エリアにポップするエネミーだった。







 《やがて◼の神は様々な神から得た◼◼力を以て、この世界◼ある一つの種を創◼出す。》


 《それは配下であり、従僕であり、死徒であり、駒であり、そして、◼の神の一部でもあった。》


 《神々はまだ知らない。己の力の欠片が、まだ幼き神に盗みとられ、忌むべき存在をを創ったことに。》



 《しかし神々は後に驚愕する事となる。》


 《◼の神の配下の能力であり、【 ◼の神 ◼◼タ◼◼ 】の真の力、それは────》



 《 侵略(ユーザペイション) 》






 快楽と憤怒に従って他種族を殺すミノタウロス。

 種族繁栄と生存の為に他種族を殺すウルフマン。

 彼らがリフロイナムに住む他種族(プレイヤーを含む)に敵対関係をとろうとする理由──というか公式が語っている設定──では違いがある種族だが、両種族ともに他種族との敵対を当然の様に行うという一点では同じではある。


 だが、そのような理由(設定)があるのだとしても、今現在俺の目の前に立つ二匹の様子は明らかに異常だった。

 ミノタウロスはその筋骨隆々という言葉をそのまま体現したような大きな豪腕でウルフマンの首を締め上げ、対してウルフマンは手にしていた鋭利な長槍をミノタウロス右脇から心臓に目掛けて深く突き刺す。

 どちらも自らの顔を苦痛と怒りに醜く歪め、血色に染まった赤黒い泡を口の端からダラダラと溢していた。



 はっと、辺りを見渡した。

 何か大量の気配を感じたからだ。

 はたして、そこには地獄が広がっていた。



 互いに相手の身体を喰らい合うゴブリンとコボルト。

 何百もある大きな目をギョロめかせながら叫ぶ大鷲と、2mを軽く越える巨大な鎌を持つ蟷螂。

 向かい合う大きな蜘蛛と、小さな西洋竜(ドラゴン)

 幾度も幾度も既に事切れた亜竜の死体を殴打する大鬼族のオーガ。

 存在するだけで他物を溶解させる熱を持つ大蛙と、存在するだけで他物を停止させる大蛇。

 グチャグチャという音をたてながら敗北した相手の死体をすすり咀嚼するエイプ。



 揺れ動く炎が辺りを橙色に灯し。

 へし折れ、砕けた骨が灰色になってばらまかれ。

 飛び散る肉片と血液が全てを赤黒く染め上げていく。



 死屍累々、死山血河、地獄絵図。

 狂気と狂喜に律っされた彼らの動きに迷いはなく、正気もない。

 喚起と歓喜に踊らされた彼らの動きに恐れはなく、味気もない。

 志気と死期に狂わされた彼らの動きに憂いはなく、生気もない。






 《命を刈り、存在を奪い、肉体を壊し、精神を蝕ばみ、大地を汚し、神を殺し、世界を飲み込まんとする。》


 《暴れ、奪い、呪い、嘲い、殺し、蔑み、壊し、狂い、踊り、死んでいく。》


 《あたかも、水が一方に流れ続ける様に。路傍の虫を踏みにじる様に。そして、生きとし物を壊し尽くすが如く。》


 《後に神々をも恐れ狂う力。それが【 ■の神 ◼クタ◼◼ 】の加護であった。》



 《◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼。》


 《◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼、◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼、◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼、◼◼◼◼◼(◼◼)。》



 《それが ()だ。》



 《さあ、この世界ーリフロイナムーを─────・・・・

 ・  ・     ・ ・    ・ ・    ・

   ・   ・        ・  ・ ・

 ・  ・     ・  ・   ・    ・

 ・ ・  ・  ・       ・   ・    ・ ・

 ・  ・  ・    ・  ・  ・    ・  ・

 ・   ・   ・   ・・・────ミツケタ♪─》







 おぞましいもの達の胎動が始まり、終わる。



 全ての生命が糧となり、

 全ての生命が屍となる。



 赤と灰に彩られた黒き空間。



 その暗く、黒い闇の底で。

 此方を見返す一対の瞳。


 それは闇に浮かんでなどいない。

 それは闇と同化などしていない。

 それは闇、まさしく闇そのもの。



 ────否。




 それは“黒”




 白い空間と対をなすように。

 全てが黒へ還元され回帰する世界。




 瞳の主は己が引き起こした惨劇に満足したのか、愉悦に瞳を歪める。

 そして此方にその相貌を覗かせ────────










 ーー◇ーー◆ーー◇ーー◆ーー◇ーー◆ーー










 《《 警告! 警告! 警告! 警告! 警告! 警告!》》

 《《コード19528■■■■■が管轄する制御エリアにて異常な接続を確認!!》》

 《《コード19528■■■■■が管轄する制御エリアにて異常な接続を確認!!》》

 《《被害状況、並びに侵食状況は現在不明!!》》

 《《被害状況、並びに侵食状況は現在不明!!》》

 《《コード■■■■■■■■■■の権限により直ちに対象エリアの隔離及びリセットを開始!!》》

 《《コード■■■■■■■■■■の権限により直ちに対象エリアの隔離及びリセットを開始!!》》

 《《警告! 対象エリアにて Player Number A-001028 の存在を確認!!》》

 《《警告! 対象エリアにて Player Number A-001028 の存在を確認!!》》


 《Player Number A-001028 は一時的な意識の簒奪、かつ軽微の侵食をうけた模様。現在は意識を失っているものの第二救済処置により生態バイタルに異常無し》


 《《A-001028 を対象エリアからの隔離を確認》》

 《《A-001028 を対象エリアからの隔離を確認》》

 《《■■■■■との規定に基づき、空間を破棄します》》

 《《■■■■■との規定に基づき、空間を破棄します》》

 《《仮想空間の固定座標を解除し・・・











次回の更新は1月16日(月)です。

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