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黒の暗殺者  作者: 平平平平
第一章 生ヲ穿ツ者
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第34話『初会』

「こちらです」




 ギルド嬢に連れてこられたのは、広さにして大体8畳程のやや小さな部屋だった。


 部屋には床面積をの約3分の一を占めるほどの大きな木製の机が真ん中に設置されており、机の周りには木の幹をそのまま切って作られた無骨な椅子が4つ並んでいた。

 部屋の中には誰も居ない。



「あの──」

「それでは。後は担当者が受け付けますので、暫くここでお待ち下さい。失礼します」



 質問をしようと話しかけるが、ギルド嬢は此方を一瞥しただけで取り合わず、俺の言葉に重ねる様にそう言うや否や、俺を部屋の中に独り残したまま丁寧に一礼して部屋から出ていってしまう。


 一見、言葉や行動だけなら丁寧な対応に思えたが、しかし彼女の言動には何処か刺があるように感じられた。



(……俺何かしたっけ?)

 


 扉が閉まると同時に蝶番がたてる独特な金属が擦れる音と、ラッチボルトのかかる音を耳にしながらそう思案するが、何も思い当たらなかった。



 ギルド嬢が退室したことで部屋に居るのは自分だけとなる。

 話し声や物が動く音がしないこの空間は、とても静かだった。



 ──だからだろう。つい十分前までは大通りの喧騒に晒されていた俺の耳には、壁にかけられた小さな時計の『カチッ、カチッ』という時を刻む音が、やけに大きく感じられた。

 





 


 …………。








 ………………。








 ……………………。







 ギルド嬢に案内された部屋に入っててから五分以上が過ぎた。



 俺はギルド嬢の言う『担当者』を立って待っていたのだが、しかし幾ら経っても担当者らしき人物は現れず、誰一人として部屋にやって来なかった。


 審査という言葉から、恐らく面接か何らかの質疑応答があるのだろうと予測した俺は、担当者の方に失礼がないように椅子には座らずに立って待っていたのだが……。



 俺は何時までも来ない担当者にしびれを切らし、とうとう「折角椅子が置かれているのだから心置無く使わせてもらおう」と考えを持って椅子に近づいた。



 ──その時だった。




「反応がないというのは、なんとも、悲しいですねぇ」



 唐突な静寂を破る声。

 そして声と同時に目の前に現れる男。



「うわぁっ!」



 不意な出来事だった為、俺は叫び声をあげながらその場でしりもちをついてしまう。



「おやおや、なにもそこまで驚かなくとも」



 突如現れた男は、まるで悪戯に成功した子供の様にニヤリと笑い、「ささ、立ち話もなんですし座りましょう。ほら」と言って此方へ手を差し出してきていた。



( え? 誰この人? )

 


 対して俺は困惑を隠しきれずにジロジロと男の顔を不躾に眺めてしまう。

 普通に考えたら担当者だと推し測れるのだろうが、余りにも唐突だった為に思考が追い付いていなかったのだ。



「どうしたのですか?」

「……いえ、ありがとうございます」



 まだ状況の把握ができておらず、男が差しでしてきた手は果たして善意かどうかは判らなかったが、とりあえず、おそるおそると俺は感謝の言葉を言いながら男の手を掴んだ。




「いえいえ、私のせいなのですからお気になさらず。……よっと」




 男は俺を助け起こすと、そのまま掴んでいた手を離さずに手を上下に振りだした。

 どうやら握手の様らしい。



「ふむ。どうやら少し驚かせ過ぎた様ですね。いやはや、申し訳ない。お詫び──ではありませんが、ここは一つ謝罪の意を込めた自己紹介といきましょうか」



 男は握っていた俺の手をパッと放す。そして、




「初めまして。私の名前はノワール、ノワール・ズワルトゥです──どうぞ宜しく」

 



 男──ノワールはそう言いながら上半身を床と平行になるぐらい深々とお辞儀をした。








 ~~◇~~◇~~◇~~







 貴方は一体誰なのか。突然現れた時に発した言葉は一体どう意味だったのか。そもそもどうやって音もたてず部屋に入ったのか。

 そんな幾つかの疑問が頭に浮かぶが、ともあれ、初対面であり少なくとも自分より年輩の人に矢継ぎ早に質問するのは失礼だろうという配慮から、俺は取り敢えずノワールの後に続いて自己紹介を済まし、




「ささ、立ち話もなんですし座りましょう」



 というノワールの言葉に促されて椅子に座らされた。



「では私も失礼して」



 ノワールは俺の丁度真正面の場所にある椅子に着席した。





 ……さて。

 椅子に座り落ち着いた所で、俺はノワールをよく観察しようとする。



 一言で言えば、ノワールという男は『不思議な存在』であった。

 オールバックにした黒い髪と狐の様な細い目をしており、頬は少し痩け、つり上がった口角はやや冷笑しているように窺える。

 また身に付けているシワ一つないタキシードの様な服は全身が黒一色に染められおり、(失礼かもしれないが)薄気味悪い体装と相まって酷く不気味に感じられた。



 多分俺の視線は助け起こされた時よりも更に不躾で無遠慮なモノだったろう、しかしノワールは何一つ意に介した様な素振りは見せなかった。

 




 ──さて



 とそれまで口を閉ざしていたノワールが口を開いた。




「落ち着いたようですので、これより クエスト【生ヲ穿ツ者】 についての審査を始めます」



 よろしいですか?



 そう笑顔で笑いかけてくるノワール。

 だが顔とは裏腹にその目は一切笑っていなかった。












次回の更新は6月3日です。

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