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黒の暗殺者  作者: 平平平平
第一章 生ヲ穿ツ者
31/67

第30話『風止』

疾風の平原について本編に描写しきれなかった分もあわせ、後書きに書いていこうと考えていたのですが、内容が二千文字を軽く越えてしまったので、急遽三分割で説明していくように変えました。

なので後書きに投稿時には記載していなかった内容があります。


本編への影響はありませんので安心してお読みください。




 え!? なに、生き返った? 死体が? 確かに殺したのになんで!?




 クロちゃ クロちゃ あの子今生き返ったよね!? ゆ、幽霊なの? それともお化け? なんなのあの子!?





 そう俺とミシェルが死体が息を吹き返した現実に驚き、わたわたと慌てふためいていたのをドクさんの声が制した。



「 ミシェル、クロ、落ち着け!」




 プカプカと宙を浮く風船狸と、フシャーッ!と威嚇してくる風狸の方を見ながらも、ドクさんは言葉を重ねる。




「来る時にちゃんと説明しただろ『疾風の平原では決められた時間毎にそよ風が吹く。そして時折そよ風ではなく疾風が吹く』ってな。それに疾風が吹いたら一時的に生息しているモンスターの生態が変化する事も教えたし、吹いたら各モンスターがどう変わるかも言った筈だが? 少しは落ちいて冷静になれ。

 ……それにミシェル、お前はこの光景を何回も見たことあるだろうが! なにクロと一緒に驚いてんだよ!」



 いやぁ……でも話に聞いた物を実際に目で見るのは大きく話が違ってくるわけで、それに突風に煽られる感触や死んだ動物が生き返る瞬間が妙に生々しくてびっくりしたんですよ。予想以上に……と言うよりも予想を遥かに上回る形で。



 頭の中で次々と浮かぶ情けない言い訳。

 けれどもその言い訳を口にするのは止めておいた。


 仕方がない事ではあるが俺の心構えが足りなかったのも事実だったし、何より今この場で敢えてそれを口にする必要性が無いと思ったからだ。


 口を噤んだ俺とは反対に、ドクさんの指摘に「う~~」とよく分からない唸り声を上げるミシェル。

 そんなミシェルをジロリと肩越しに見たドクさんは「それによく考えてみろ」と話しを続けた。



「今この戦闘には場を撹乱するのが得意な 精霊風 も 鎌鼬 もいない。 居るのは他の奴らがいなければただ浮かぶことしか出来ない風船狸と風が吹かない限り復活しない風狸だけだ。この意味がわかるか?」



 俺は疾風の平原までの道中にドクさんから聞いた、疾風の平原のモンスターの特徴を思い出そうとする。

 確か……



 強い風(疾風)が吹けば生態を一時的に変化させるモンスター達だが、必ずしも変化前より変化後の方が強い訳ではない。厄介にはなるものの決して全ての種族が強化される状態にはならないのだ。


 例えれば風船狸。体をプカプカと浮かばせる状態になった風船狸は、回避率が著しく上昇する代わりに移動できなくなり、また攻撃手段はその場で噛みつく事しか出来なくなるのだ。

 地を蹴れないが為に他生物に無理やり動かされない限り動けない風船狸は、近づいたら噛まれる点では厄介ではあるものの、その実 一種族丸ごとが一時的な戦闘放棄をするという事態を引き起こすので、なんとも場を戦いやすくしてくれるモンスターなのである……。


 若干俺の言葉が混じってはいるものの、ドクさんから聞いた話の一部は概ねこんな感じだった筈だ。



 ……ということは。



「現状で注意を向けるべき対象は風狸一匹だけ……」


「そういうこと……だっ!」



 俺の言葉に頷いていたドクさんに好機だとばかりに飛びかかる風狸。

 対してドクさんは風狸の攻撃を右手に装備している中盾で的確に攻撃を弾き飛ばした。

 攻撃を防がれた風狸は直ぐにその場から離れ、俺達との間に距離とる。



「風船狸は後回しでいい、他のモンスターが集まってくる前にさっさと終わらせるぞ!」



 ドクさんが剣の切っ先を風狸に向けながら叫ぶ。

 俺はその言葉に突き動かされる形で、右腕を大きく振りかぶりながら風狸に突貫した。


 が、余りにも大きく振りかぶり過ぎた事で、振り下ろす時間がやや遅くなってしまう。

 それはほんの僅かな差ではあったが、このエリアの敵では最も素早さが高い風狸には簡単に攻撃が避けられてしまった。


 そして避けられる同時に反撃とばかりに風狸に噛みつかれ、体力の四割も削らされてしまう。



 鈍い痛みが肩にはしるが、直ぐに薄らいで消えていく。そして痛みが薄れていくと同時に六割にまで減らされた体力が満タンにまで回復する。

 風狸と相対している為確認はできないが、恐らくミシェルの回復魔法(後方支援)だろう。



「ありがとう!」と感謝の言葉を伝えながらも、視線は風狸から離さない。



『フシャーっ!』と俺とドクさんを交互に威嚇してくる風狸。

 どちらから片付けるかと考えているのだろうか? 5秒程そうして俺とドクさんを見比べていた風狸は、突然俺に向かって突進し始めた。


 ……俺の方が与し易いという結論に至ったのだろう。確かにドクさと比べたら弱いだろうが、なんか納得がいかない……。

 っとそんな頭をよぎった雑念を振り払い、目の前に迫ってきている風狸に集中する。


 今度は外さないように、短剣を大きく振りかぶるのではなく、小脇に抱える様に小さく構え────




 飛びかかってきた風狸に力一杯突きだした。





 一瞬、目をギュッと閉じていた為に結果が(倒したかどうか)わからなかったが、短剣越しに伝わる重い感触と衝撃で無事に風狸が剣に突き刺さったのを理解する。

 閉じていた目を開けると、体が剣に突き刺さったまま光の粒子となって消えていく風狸の姿があった。







 ーー◇ーー◇ーー◇ーー






 それから(風狸を倒してから)の戦いはひどくあっさりとしたものだった。


 穴が空いた風船の空気が漏れていくかの様に、徐々に体が小さく萎み始めた風船狸を、俺とミシェルとドクさんでタコ殴りにしたのだ。


 どうやら風船狸は一度膨らむと回避率が大きく上がるが暫くすると萎んでしまう。そして、萎み始めた瞬間からその高い回避率を失うようなのだ。

 無論、萎んでいくスピードはゆっくりとしたものであり、しかも完全に萎み終わるまで自力での移動は出来ないという………。



 何の抵抗も出来ない風船狸を倒していくのは若干気が引けたものの、何より無抵抗でバタバタと倒されていく風船狸が哀れだった。

 


 《レベルアップしました! ステータスポイントを2取得しました。戦闘中につき後程ステータス割り振りを行って下さい。 貴方の現在のレベルは5となります。》



 ──まあ、そうした風船狸達のお陰でレベルアップできた為に、結局は仕方ないと割りきるのであったが。





 俺達はもうそろそろ陽が暮れるという理由で、疾風の平原を出てメイラードへの帰路についた。


 メイラードまでの道をてくてくと歩いいる間に俺達は様々な話をした。

 それは行きの時にしたドクさんからのほぼ一方的な説明という名の話ではなく、今日の戦闘についての反省や、お互いの楽しさちゃんとを尊重した上での会話だった。


 始めてパーティーを組んだ日に比べると、俺達の間の空気はとてもよくなったのだろう。

 まだ知り合ってから数日しか経っていないし、お互いの事情もほぼ知らない状態なのに、確かにそこには信頼関係が結ばれているように俺は感じていた。






 ……それにしても疾風の平原に来てから直ぐにレベルアップしたのは驚いたが、まさかそれから暫くしない内に二回もレベルアップするとわ……。

 確かに俺よりレベルが高いモンスターではあったし、戦っていた数が多かったのもあるかもしれないが、これだけのハイスピードでレベルが上がるとは思わなんだ。



 そんな事を考えつつミシェルとドクさんと分かれた後に、宿に泊まる。


 そして、宿で泊まる際に今日の戦闘でたっぷりと貯まった金額とレベルを見た俺は、ログアウト後に現実(リアル)の自分のベットの上でガッツポーズを決めるのであった。











エリア説明【疾風の平原】part.1


  [ 概要 ]

⚫なだらかな丘の全てが草や低木で覆われており、さながら緑の絨毯の様にも見える、広大な広さをほこる平原。

⚫この平原は周囲の地形から風が集まってくる場所であり、また風の亜霊が生息している事と、風の神の加護を微弱に受けている土地であるために、やや強い風がひっきりなしに吹いている。

⚫この平原の風はおおよそ規則的に吹いているが、時折何処からともなく強い風が吹いてくる。この風には風の魔力が含まれており、平原に住むモンスターはこの風から魔力を取り込んで一時的に生態を変化させる。

 なお、これはあくまでも外敵からみを守る自衛手段の一つであるため、決して常時発動させる訳ではない。

⚫時折吹く強い魔力を含む風の事を、多くの人はエリアの名前から『疾風が吹く』と言い、疾風から魔力を取り込んで生態を変える事を『疾風化』と呼んでいる。



[ 生態系 ]

揺魔風草(ヨウマカゼクサ)

 群生している植物は大概が全長50㎝~1m程の揺魔風草という名前の雑草である。

 一部の民間の間に広まっている方法で処置すれば、風邪や軽い体調不良を直す薬にすることができるこの草は、この平原に住むモンスター達にとっての食料であり、敵から姿を隠せる隠れ蓑でもある。



風船狸(ふうせんだぬき)

 この平原で恐らく最も個体数が多いい種族であり、外見は一般的な狸との差は特にない。非常に臆病な性格を持つ。

 常に二匹以上で群れをつくり、主に草や虫を食べて生きている。

 前述した通り彼らは臆病なので、外敵と認識した存在が縄張りに入った瞬間から警戒体制をとり、疾風が吹けば風の魔力をかりて体を膨らませる事で体を浮かし外敵を視認しようとする習性がある。

 しかし、進化した時における痛恨のミスなのか、疾風により体を膨らませている状態では、地を蹴れず、また噴出器官もない事から移動が出来ない所為で、認識した外敵にその姿を晒す状態になるにも関わらず、その場から逃亡を図る事が出来なくなってしまうのだ。

 疾風の風の魔力により、体を膨らませると同時に本能で回避率上昇[大]を発動するのだが、暫くすると(体に取り込んだ魔力を使いきると)徐々に体が萎んでいってしまう。そして、体内の魔力を失ったという事は回避率上昇の魔法を発動させる事が出来ない状態になったという意味であり、結果的に『体はまだ膨らんで動く事が出来ないのに回避率は通常時に戻ってしまう』という珍事態になってしまうのだった。

 もはや単なる的である。



→次回の説明は風狸と精霊風と鎌鼬です。


次回更新は5月5日(火)です。

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