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黒の暗殺者  作者: 平平平平
第一章 生ヲ穿ツ者
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第29話『風息』

「クロッ!?」


 スローモーションの様に襲いかかってくる “そいつ” を視界に捉えることしか出来なかった俺は──



「……ッ!、 う 、 オ リャアァァァッ!」




 叫び声を上げて動かない体を無理矢理にでも動かし、左手を突きだした。



 ……唐突な事態と姿勢の悪さも相まって、恐らくまともな回避行動は取れないこの状況でも、まだ腕位ならば動かせるだろう。

 そう考えるよりも先に手が動いてしまっていたのだが、存外、その大胆かつ浅はかな考えは、この場において起死回生の一手であった。




 ガキィィン。



 金属と何か硬い物がぶつかった時にでる様な、やや鈍い衝突音がが左手で生じる。

 とびかってきたモンスターの攻撃が、左手に装備している小盾によって防がれたのだ。


 体勢が非常に悪かったからだろう。衝撃に備える為に踏ん張る事もできていなかった体は、モンスターの突撃により二・三メートル程吹っ飛ばされてしまい、地面をゴロゴロと転がってしまう。

 受け身が取れていなかったので大きな衝撃や痛みが体を襲うだろうと予測していたのだが、体を適当に触っても幸な事に怪我や激しい痛みは感じられなかった。


 吹き飛ばされてから数秒間の間に特に怪我も痛みもないことを確認した俺は、すぐさまその場で立ち上がると、目の前にいるモンスターを睨み付けた。



 “そいつ”は風船狸とはまた違うモンスターだった。

 黄色い体毛に、(いたち)の様なヒョロっとした体、そして左右の前から後ろにかけてある小さなモモンガの様な膜。



 一見、風船狸と同様に見る者によっては非常に愛くるしいと感じる姿ではあるのだが、その実、“そいつ”はこの疾風の平原でも一位二位を争う程には厄介な敵らしい。


 それ故一刻も早く倒したいが為に、その特徴を認識した瞬間には駆け出していた。そして、吹き飛ばされた事であいた距離を猛ダッシュで詰めると────



「『スラッシュ』!!」



 アクティブスキルであるスラッシュを発動させる。


 残り一メートル程までには縮まっていた距離を一瞬で詰め、モンスターの横腹を勢いよく切断した。


 そしてスキル使用により生じる硬直時間をややもどかしく思いながらも、今斬ったモンスターの体力を見て全損している事を確認する。



 さっきは唐突なレベルアップで驚いたのもあるが、モンスターを倒した事で気を抜いてしまい、そのせいで危うく他のモンスターに殺されかけた。

 だから今度は油断せずに慎重に辺りを見渡して警戒していると、俺の直ぐ近くにミシェルとドクさんがやって来ていたのに気がついた。





「ちっ、一旦仕切り直しだ。数が多すぎる」




 ドクさんが威嚇しながらも徐々に此方へ近づいてくる風船狸達を睨みながら、そう苦難の声をあげる。




「風船狸が6体、か……。ざっと確認したところ他に敵はいないか。一人2体、いやミシェルは回復に回して俺とクロで3体づつか……クロ、すまんがまだいけるか?」


「大丈夫です。まだいけます」




 ドクさんから幾本か貰っていた体力回復薬(HPポーション)を嚥下しつつ、返事を返す。




「ミシェルはまだ魔力は残っているな?」


「まだまだ大丈ー夫!」


「そうか。俺とクロが前衛に出るから、お前には回復を頼む。なるべく魔力消費の燃費と回復量が良いのを選んでくれよ」


「わかった!」



「──そしてクロ、俺がもう一度あいつら(モンスター)の注意をスキルで集めるから、お前は出来るだけ素早くあいつらを片付けていってくれ」




「わかりま────うわっ!!」




 そこで俺の言葉は止まってしまった。


 目の前にいた風船狸達が襲いかかってきたから……ではない(・・・・)


 ただ単純に突然強烈な風が俺達の間を吹き抜け、口を閉じてしまったからだ。


 それは今までに時折吹いていた頬を撫でる様な優しい風ではなく、風圧により思わず目を瞑ってしまう、或いは体を縮こまさせてしまう程の強い風だった。




「─── くそがッ! 疾風が吹きやがった!」




 勢いよく吹く風が耳元でゴウゴウと音がなっているなか、隣にいたドクさんがなにやら不思議な単語を叫んでいるのが微かに聞こえてきた。


 何を言っていたかは詳しくは聞き取れなかったものの、ドクさんか気になってしまった俺は風により閉じていた目をうっすらと開けて、ドクさんの方を視ようとする。


 するとドクさんを見ようとした俺の目に、衝撃的なものが目に映った。




 目の前にいた風船狸の体が、ぶくぶくと丸い球体状に膨れ始めていたのだ。

 そして、ついさっき俺がスキルで倒した筈である、飛膜のある鼬の様な黄色い毛のモンスターの体力ゲージが0から急激に回復し、満タンになった所で、閉じていた目が カッ と開いた(息を吹き返した)



「はぁ !?」



 その非現実的な現象に思わず驚きの声を上げてしまう。



 慌てて今までは『ただ厄介だから真っ先に倒せ』と言われた指示通りにしたがい、素早く殺すために見ていなかったそいつの名前やステータスを確認する。





 風狸 Lv.6 エネミー


 状態:復活中








 徐々に風の勢いが弱まっていくなか、まるで名前の如く風船の様に丸くなった風船狸がプカプカと中を浮き、息を吹き返した風狸がゆっくりと鎌首をもたげていく。



 やがてステータスに表示されていた状態が 復活中 から 敵対 に変わった所で、






『ギャアッ』






 そう鳴いた。






















【スキル説明】


 『スラッシュ』


 ⚫スキル区分 : Active Skill(選択時発動型能力)

 ⚫RT(リキャストタイム) : 1分

 ⚫効果範囲:約2m


 ー説明ー


 素早い飛びかかりと共に、対象に気合いを溜めた重い一撃を叩き込む技。

 剣術を極め極地に至った者が使用すれば岩をも容易く切断したと云う。

 気合いを溜めた攻撃により、使用後ほんの僅かな時間体が動かなくなってしまう。


 ⚫発動する為には特定の武器種を装備しなければならない。

 ⚫飛びかかりの速度は使用者の素早さに、与えるダメージは使用者の攻撃力に依存する。

 ⚫攻撃後の硬直時間は約二秒。




次回の更新は4月29日(金)です。

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