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黒の暗殺者  作者: 平平平平
第一章 生ヲ穿ツ者
29/67

第28話『疾風』

 疾風の平原という名のエリアを手短に言い表すとするならば、良く言えば牧歌的であり、悪く言えば殺風景であった。

 膝程の高さがある草が視認できる範囲をほぼ占めており、所々に大きな岩や木が眼に入ってくるという、現代日本では到底お目にかかれないであろう自然豊かな場所なのだ。


 とはいえ現代っ子にして都会っ子である俺から見れば、この風景には驚きを禁じないものの、何処からともなく流れてくる風に草葉が揺らされる以外、特に何の変化もなく殺風景だなぁと思ってしまう場所だった。



 さて、疾風の平原に対する視覚的な感想はここまでとして。



 俺は視線を元の場所に、正確に言えば俺の目の前に広がっている草むらに戻す。

 どこらか水を摂取しているのか、瑞々しく、また青々と生い茂っている草。雑草なのか益草なのかの判別はつかないが、今俺の目の前にある草……というよりも草むらは明らかにおかしかった。

 時折吹く風以外ほぼ動くことのない景観()が、風が吹いていないのにも関わらず、僅かではあるが断続的に動いていたのだ。


 そうして暫くカサカサと小刻みに揺れていた草むらを眺めること少し。突然草むらから何かが此方に向かって飛び出してくる。


「ギャウッ」


 荒々しい鳴き声をあげながら草むらから飛び出してきたそれを、俺は咄嗟に体を右に反らして避ける。そして返す刀で切りつけようとするが、手にしていた短剣は空をきった。


 空をきった短剣の勢いを使って直ぐに後ろを振り向く。


 そこにいたのは、前足を伸ばし、毛を逆撫で口から牙をのぞかせながら此方を威嚇する一匹の狸だった。



 焦げた茶色と黒色が斑となっている体毛や、やや小さいくりくりとした目などは現実(リアル)に存在している狸と大差なく、あまりモンスターのようには見受けないのだが、この狸は紛れもなく少し前ーー疾風の平原に着くまでの道中ーーにドクさんから教えて貰ったモンスターであった。わかった理由は至極簡単だ。




  風船狸 Lv.6 エネミー




 狸の頭上にそんな簡易ステータスバーが表示されているからだ。



 風船狸。


 ドクさん曰く、この疾風の平原の中で最も遭遇率が高いモンスターらしい。

 常に二匹以上で群れをつくり、主に草や虫を食べて生きている風船狸は、自らの縄張りに侵入してきた外敵に対して過剰な攻撃を仕掛ける習性がある。それは彼等が非常に臆病な性格であるが故に、己の身や食料の奪取に対し攻撃的にならざるをえないという理由があるからだ。……なんてドクさんは教えてくれたのだが、確かにその通りだった。

 始め遭遇した直後はビクビクと大人しくしていた風船狸であったが、暫くするとまるで人(狸)が変わったように俺達に襲いかかってきたのだ。

 動きはそれほど速くはないのだが、如何せん 4 , 5 匹と数が多く、ドクさん一人では敵全員の注意を集めきれない状況にあった。



「ギィィ……ギャウッ!」

「はっ!」



 再度飛びかかってきた風船狸の軌道上に短剣を置き、タイミングをあわせて思いっきり振り切った。


「ギィア!」

「痛っ」


 左前足から腹部にかけて切られた風船狸は、悲痛な鳴き声をあげながらもその鋭く尖った爪で俺の手の甲の肉を削っていった。


 針に刺された様な痛みについ声が漏れてまったが、視界端に浮かんでいる自分自身の残存体力(HP)を示す体力バーの3割が弾けとんだのを見て肝を冷やす。

 手の甲をかすっただけなのに体力の3割を失ってしまったのだ。


 幾ら俺の体力と防御力低いとはいえ、流石にこれは余裕がない。


 そんな事を頭の片隅で考えつつも、切られてもまだ体力バーが全損してい(まだ息がある)ない風船狸に近寄ると、短剣をふりおろす。

 今度こそ風船狸の体力バーは一ミリも残さずに完全に砕け散った。



 《レベルアップしました! ステータスポイントを2取得しました。戦闘中につき後程ステータス割り振りを行って下さい。 貴方の現在のレベルは4となります。》





 目の前にいた風船狸を倒した後直ぐにレベルアップインフォメーションが流れ出した。



 あっ、レベルアップだ。



 突然かつ戦闘の最中であった場違い感から、そんな間抜けな感想が頭の中に浮かぶ。






 ──だからだろう。


 少し離れた所で戦っているドクさんの元から、モンスターが一体此方に向けて走ってきている事に気がつかなかったのは。



 モンスターは草むらに身を隠しながらもどんどんと近づいていく。





「……っ! クロちゃん危ない!」




 激しく注意を喚起するミシェルの声に、俺は自分の直ぐ近くにまでモンスターが来ている事に気がついた。



 が、気づくのがいささか遅過ぎた。

 既にモンスターはその高い俊敏力を生かして高速に肉薄し、地面を蹴っていたのだ。

 唐突な事態に頭では分かっているのに体が動かない。


 油断しきっていた為に体勢が悪く避けることも出来なかった。




「クロッ!?」





 スローモーションの様に襲いかかってくる “そいつ” を視界に捉えることしか出来なかった俺は─────











第16話でLv2になって以来一切のレベルアップの描写がないにも関わらず、今回の話でレベルアップをした際の表記が4となっておりますが、間違いではありません。

詳しい話は次回か次々回での本文で触れますが、疾風の平原到着から今回の話の戦闘開始までの間に一回レベルアップをしています。


次の更新は4月21(木)になります。

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