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黒の暗殺者  作者: 平平平平
第一章 生ヲ穿ツ者
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第27話『装着』

「ーーーーそれで皮のベルトを腕の真ん中辺りで締めたら、丁度手元にくる取っ手があるだろ? それを掴めばその盾の装着は終了だ」

「…おぉ……!」


 左手をぶんぶんとふり回し、盾の調子を確かめる俺。

 そしてそんな俺を暖かい目で見守るミシェルとドクさん。


 俺達は今、疾風の草原にやって来ていた。



 ……とまあそんな説明だけをして、直ぐに疾風の平原での戦闘を描写し始めるのは、やや早急過ぎる……というよりも話が飛躍し過ぎて混乱を招く事になってしまうだろうから、少しメイラード北門から疾風の平原までの道中の話をしようか。




 ーー◇ーー◇ーー◇ーー




 詳しい話は疾風の平原に行く最中でする言っていた通り、ドクさんは道中で様々な事を教えてくれた。

 疾風の平原のマップのおおよその大きさや、出現するエネミーの大雑把な情報(種族名やレベル)、或いはそれらに対する対策等々。


 一昨日会った時に普段の狩場は劣魔の森と言っていたのに、どうしてそんなに詳しいのか疑問に思いドクさんに質問してみると、「前に何度か来たことがあるんだよ」という返事が帰ってきた。


「前って具体的にどれ位前ですか? 1ヶ月程ですか?」

「確かあれは……5ヶ月、いや半年前だな。ミシェルと二人で訪れたんだ」


 なんでそんな事を聞いたんだ? と純粋な疑問の目を俺に向けてくるドクさんに曖昧な笑みを返す。


 どうでもいい事なのだが、このreal world時間概念は概ね俺達の時間と同じであるようだった。

 ファンタジーゲームであるのだから、プレイヤーのログイン可能時間の都合に合わせて1日が12時間だったり、日や月の数え方が太陽暦ではなく独特な方法を用いたものであったりと、そういった現実との諸々の差異を期待していたのだが……。

 分かりやすいし、ややこしくないので楽ではあるのだが、少し残念だった。



「どうして行くのを止めちゃったんですか?」

「どうしてって……まあ、簡単に言えば割に合わなかったんだよ」

「割に合わなかった?」

「ああ、疾風の平原に生息しているモンスターは、俺とミシェルの二人には少々狩り辛かったんだよ。狩れないことはない。だが狩るのには時間と神経を大量に削る事になる。 ……まあ一言で言えば俺達より強かったんだ。疾風の平原のモンスターはな」



 ドクさんは二日前の劣魔の森に向かっていた時と同じ様に、鼻歌を歌いながら歩いているミシェルをちらりと見ると「言い訳になるかもしれないが」と話を続けた。



「狩り場を変えたのは決して悪い選択じゃなかった、いや、俺はむしろ良い選択だったと自負している。確かに、自分よりも強いモンスターと戦うことは大切だ。弱い奴だけと戦っていたら慢心を抱いてしまうからな。でもな、だからといって気を抜いたらやれるなんていう場所で戦うのは、そんな常に死と隣り合わせの状態で安全マージンも取らずに行動するのは、それこそ愚の骨頂だと思っている。結局それで死んでしまったら、元も子も無くなっちまうからな」



「はあ……」とドクさんは溜め息をはく。



「そんな生死の問題に関わる大事な事なのに、ミシェルの野郎は『大丈ー夫! だってドクがいるもん!』なんて言いやがってなぁ……、言葉だけ聞くとあれだが、ぶっちゃけあれこれ考えるのを止めて全部俺に丸投げしやがったんだよ。ったくあいつはいつもーーーーってああ…………少々、しゃべり過ぎちまったか。すまんなつまらん話をして」

「い、いえ謝まる程でもないですよ。それに興味深かったですよ、お話」

「そうか、ならいいんだが」

「でもーーーー」



 ーー死んでも直ぐに復活するのに、どうして死を恐れるのですか?


 俺はそう喉まででかかっていた言葉を飲み込んだ。


 プレイ初日に体験した白の神殿での復活(リスポーン)か頭を過り、口にしそうになったのだ。

 だが、一昨日のドクさんとミシェルと始めて会い、迷い人の説明をしていた時に、『生の神・死の神・廻の神・縁の神といった神々の力の欠片を持つ、白の眷族である俺の心体や魂魄は不滅であり、死は絶対的なものではなく、例え死んだとしても直ぐに決められた土地で生き返る』と教えて貰ったのだ。


 聞いた当時は「へー、プレイヤーが復活する理由をそんな解釈にするのか」と納得していただけだったのだが、今、NPCであり死が不変かつ絶対的な存在であるドクさんとミシェルにその話をするのは、失礼……というよりも妙に気がひけたのだった。



「でもなんだよクロ?」

「あ、いえ……、えーっと……、こ、これ! このさっき頂いた盾の付け方を教えて貰えませんか?」


「でも」で突然黙り込んだ俺を訝しげに眺めてくるドクさんに、俺は先程貰った盾を話に持ち出した。露骨な会話の路線変更ではあったが、ドクさんは特に怪しむことなく俺のお願いに応えてくれた。


「いいぞ。ただ疾風の平原はもうすぐそこだから、歩きながらにしたいんだが……構わんか?」

「大丈夫です」



 ……そうして盾の身につけ方 ( 大盾使いや魔法使いの盾持ちといった、盾を持つ一番の理由が『命を守る為、或いは攻撃を防ぎきる為にある』場合は利き手で持ち、剣士や戦士等の盾を持つ一番の理由が『一時的な回避手段や受け流し(パリィ)をする為にあり、主体は攻撃である』場合は利き手ではない手で持つべきである等々 ) を習う事約3分。


 そういった小盾の持ち手や持ち方の方法や理由を教えてもらい、言われた通りに装着した所で今に至るという訳だ。




 ーー◇ーー◇ーー◇ーー



 なんとなく盾の表面を短剣の先や爪でコツコツとつついていると、


「盾の調子は確め終えたか?」


 そう声をかけられた。


「もし動き難かったり動作の邪魔になるようなら無理して着けなくてもいいからな。渡した俺がこう言っちゃあなんだが、ぶっちゃけその盾に対しては特に信用も信頼もしなくても構わない。それは受け止める為の物ではなく受け流す為の盾だからな」


「分かりました。あくまでもこれは避けきれなくなった時の為にある保険と考えろ……って事ですね」


「そうだ。物分かりがいいなクロ……どこかの誰かとは大違いだ」


「それって誰の事なのドク?」



 疾風の平原に着き鼻歌を歌うのを止めたミシェルが、会話に加わってきた。



「誰の事だろうなぁ……」


「もしかしてー……ドクの事を指してるのかな?」


「はあ!? なんでだよ!」



 赤い髪を乱暴にかきむしりながら頭を抱えるドクさん。



「……もういい。こんなことをしていても時間の無駄だーーーー目的地には着いたんだからさっさと行くからな。ミシェルは魔法による援護を、クロはなるべく目立たずに一体づつ確実に片付けてくれ、無茶はするなよ? そして俺は矢面に立って敵の注意を引き付ける。……行くぞ」


「りょうかーい!」


「分かりました」



 プレイ開始日から三回目の戦闘であり、ミシェルとドクさんとは二日となる共闘、そして三つ目の新しいエリア。



 俺は期待に胸を膨らませるのだった。

次回更新は4月15(金)にします

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