第26話『贈物』
ドクさんは「手短に済ませるつもりだが、ちょっと長くなるかもしれん」と前置き入れて話し始めた。
「ミシェルと俺は元々二人のパーティーだったのは知っているよな?」
ドクさんの問いかけに俺は首肯する。
「そうだな……まずパーティーとは何かという話をするとしよう」
「パーティーとは何か?」
「もっと具体的に言うとするならば、パーティーとは一体何をするために組むのか、についてだな」
「パーティーの目的、或いは利点の話という事ですか」
今度はドクさんが首肯する。
「ああ、パーティーを組むという行動は、戦闘をより安全かつ効率的にする上で重要な策の内の一つだ。その要因として分担しなければならない役割が減り、個々が自分自身の役割をやり易くなるというメリットがある。まあ、無論表があれば裏があるように、パーティーを組むのはデメリットもある。ーー何かわかるか?」
「メンバーとの信頼関係……ですか?」
「そうだな。例えどれだけ強い奴らでもメンバー同士を信用しなければ互いに疑心暗鬼になるし、クエスト報酬等の金銭的なトラブルに発展する。 そういったいざこざは、最悪の場合、パーティー全員が二度と陽の目を拝めなくなる原因になってしまう。他には?」
「他には……そうですねーーーー
ーー◇ーー◇ーー
「さて、パーティーについてはこれ位だな」
あれから2,3分の間、俺とパーティーについての話をしていたドクさんは、隣に立っているミシェルが、ソワソワと落ち着きが無さそうにしているのに気がつくと、パーティーについての話を早々に打ち切った。
「それじゃあそろそろ本題に入るか…………とその前に」
そう言うとドクさんは右手に装備していた盾を外して背中に背負い、さっさまで盾を装備していた右腕をプルブルと震わせる。
そして暫くしてから「よし」と呟くと、「話の腰を折ってすまんな。それじゃあ本題に入るぞ」と謝りを入れながら再び話し出す。
「先程も言ったと思うが、俺とミシェルは元々二人組のパーティーだったのは知ってるよな?」
俺は再び首肯する。
「パーティー内の役割分担は人数が少なければ少ない程にきつくなる。そしてパーティーの最小値である二人で組んでいた俺とミシェルのパーティーに、三人目であるお前が加わった。どういう事かわかるよな?」
「担うべき役割が減り、作業効率が上がり、全体的に楽になった。という事ですね」
「そういう事だ。二人組から三人組になって集団としての力が上がったし、何よりクロの攻撃力の高さから考えて、劣魔の森より少し敵が強い所に行った方が良いと思ってな。だから今日は北門から向かう事が出来る〈疾風の平原〉っつう名前のダンジョンに行くことにしたんだが…………」
「な、何かなドク?」
ドクさんはチラリと隣に立っているミシェルを横目で見る。
「その事をお前に話すようこいつに言ったんだが、どうやら忘れてたらしい。まあ、もう過ぎた話だから幾ら言った所で詮方なき事かもしれんが。兎も角すまんなクロ」
「いえ、別に大丈夫ですよ」
「さて、話は済んだ事だし、詳しい話は道中で話すとして、早速〈疾風の平原〉に行くとするか」
「おー!」
ドクさんの発言にミシェルの表情が退屈そうな顔から一変し、嬉しそうな顔をしながら拳を突き上げる。
「っとその前に、クロ」
「はい?」
北門の外に向けて歩き出していたドクさんから、何かが投げ渡される。
急に投げられたのでやや驚いたものの、緩慢な速度で此方に飛んできていた事から、受けとるのは特に苦もなかった。
「皮袋……?」
ドクさんが投げきたのは、ファンタジーでよく見る皮袋だった。
やや焦げ付いた様な茶色い皮で作られたそれを、しげしげと眺める。
「中を見てみろ」
その言葉につられて皮袋の結ばれていた紐を解き、皮袋のくちを開けて中身を確認する。
もしやファンタジー定番の魔法鞄では? と思ったがどうやら違うらしい。
ーーーーーーーーーー
鋼の小盾
品質B レアリティ2+ 重量1+
DEF+2 (防御時+)
発動スキル< ー >
ー説明ー
鉄を精練して造られた鋼板を円形状にし、そこに取っ手を付けただけの簡素な盾。
装飾品は一切飾られていないが、通常の木製や皮製、或いは特に精練もしていない鉄製の小盾と比べると高い防御力をもつ。
所有者:ドク (→クロ) 【譲渡中】
価格: -
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袋は何の変哲もない皮袋であり、袋の中に入っていたのは、金属製の盾だった。
視界に表示されたアイテムステータスの文面から察するに
「え、これは……?」
「やるよ。お前のだ」
どうやらドクさんはこの盾を俺にくれるらしい。
「いや、そんな悪いですよ」
「気にするな」
「でも……」
「いいから。幾ら攻撃能力が高いからといって防御を怠っては駄目だ。それに俺は使わないし要らないからな。お前が使ってくれ」
「せめてお金をーーーー
「だあー、もう! これは俺の一存でお前の意思を聞かずに勝手に〈疾風の平原〉に行くことにした、俺の謝罪だと思って受け取れ。いいな?」
なおも渋る俺に業を煮やしたドクさんは、早口でそうまくしたてると、北門の外に向けて歩き出す。
俺は隣に立って此方を伺ってきているミシェルと顔を合わせると、二人揃ってドクさんの後ろについていくのだった。