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黒の暗殺者  作者: 平平平平
第一章 生ヲ穿ツ者
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第23話『真偽』

「うおーい? クロー、どうしたー? 貧血か? それとも回線が切断されたのか? 何はともあれ返事をしてくれよ」


 その言葉と共に肩を揺さぶられ、俺はようやくはっと我にかえる。

 そしてそれまで路地に向いていた顔を隣に立っている翔大へと向けた。


「一体どうしたんだよお前、いきなり黙り込んでさ」


 そう言いながら俺の顔をのぞきこんでくる翔大。


「いや、ちょっと……な」

「ちょっとなんだよ?」

「…………知り合いが居たからビックリしたんだよ」

「知り合い……という事はお前とパーティー組んでいるあのNPCか?」

「そう……だと思う」


 俺はまだ頭の中で整理しきれていない情報を理解しようと躍起になり、翔大に対して曖昧な返事を返す。

 無論それで納得する筈もなく、翔大は色々と質問をなげかけてくる。


「だと思うってなんであやふやなんだよ……、というか何処? お前パーティーメンバーちょっと見てみたいんだが、一体何処に居るんだ?」

「……あそこの路地の奥の方だよ」


 俺はその場から数歩後ろに下がってから、件の路地に指をさして翔大に教える。

 それは『人に指を指してはいけません』という世俗的かつ普遍的な価値観に基づいて行った行動ではなく、むしろ『指を指す事により彼らに気づかれるのでは』という萎縮と後ろめたさによる行動だった。


 翔大は俺が数歩後ろに下がった事に対し怪訝な顔を浮かべながらも、俺の指差した方向へーーーー路地に向かって首を伸ばし奥の様子を確認する。そして


「おいクロ、誰もいないぞ?」

「……え?」


 翔大の口から出た言葉は、俺に対しての微かな疑いの気持ちが込められており、それを聞いた俺は驚きの声をあげつつ確認する。


「見間違いじゃないのか? ちゃんと見てみろよ」

「ちゃんと見たって」


 そう言ってまた路地を覗く翔大。


「うん。やっぱりいない。……むしろお前の見間違いじゃないのか?」

「そんなわけないって」

「……そんなに疑うんだったら、見てみればいいじゃねえか」


 往来の真っ只中である事を忘れ、やや激しく抗議する俺に痺れを切らした翔大は、俺を路地の入り口まで連れていこうとする。


「え? ちょ、やっ、止め……」

「良いから! ほら!」


 そうしてやや無理矢理路気味に路地の入り口まて連れてこられた俺は、人っ子一人いない暗い路地を目の当たりにする。


「あれ……?」

「な、俺の言った通りだろ? 誰もいないんだよ」

「え、でもさっき……」

「はいはい、多分だけど見間違いか人違いだろ。そんなことより次行こうぜ次、今日は色々まわるんだろ?」

「……分かったよ」


 こうして俺はやや急かされる様な形で思考を中断し、後ろ髪を引かれながらも翔大と共にメイラードを歩き回るのだった。





 ーー◇ーー◇ーー◇ーー




 

 あれから。

 翔大と共にメイラードを練り歩き、幾つかの店舗を出入りし、翔大のパーティーメンバーと顔を会わせたりと様々な事をした俺だったが、俺の頭の中はずっとあの出来事について考えていた。


 自分の目の良さに対して、確固たる自信も歴然たる信頼も持ち合わせていないつもりではあるのだが、先程俺が見た光景である路地に居た三つの人影のうちの二人に対しては、ミシェルとドクさんであるという確信があった。

 近づいてカーソルの色を確認した訳でも、話しかけて本人かどうかの判別をした訳でもなく、ましてやこれといった確証もないけれども、直感的に俺には路地に居るのが彼らであると認識していた。



 しかし、もしあの路地に居たのがミシェルとドクさんだったのならば、俺の中に大きな疑問が浮かんでくる。


『何故彼らはあんな所に居たのか?』といった場所について(Where)の疑問ではない。


 彼らが何処にいようと彼らの勝手であるし、そんな答をが既出している非生産的な疑問は関係無い。

 そうではなく、



『何故彼らはあんな事をしていたのか』といった、彼らの行動に対して(how)の疑問である。



 あの時、獣人の少女(ミシェル)は悲しそうに項垂れ、赤髪の青年(ドクさん)は悔しさか苛立ちかは分からないが激しく壁を殴り付けていた。


 何故彼らがそんな事をしていたのかは分からない。


 想像できない。

 意味不明である。



 そんな事を考えながら(やや思考停止はしていたが)、時刻が夜になっていることから俺は翔大と別れて、ゲームを止める為に宿屋ラーチに向けて歩きだす。


 明日彼らと会った時、一体どうするべきなのか。

 何も分からなかった。




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