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黒の暗殺者  作者: 平平平平
第一章 生ヲ穿ツ者
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第18話『ログアウト』

「もう日も暮れてきたんだし、そろそろ街に帰らない?」


 ミシェルのその言葉に俺とドクさんは空を仰ぐ。

 やや薄暗い夜の色と夕日の橙色がごちゃごちゃに入り交じり、時刻が夕方から夜へと移っている事がうかがえた。



 俺はメニュー画面を開いて現実(リアル)の時間を確認する。

 確かに。時刻は20:00を少し過ぎた頃だった。



「確かにそうだな……賛成だ」



 ドクさんが「お前はどうだ?」と目線で問いかけてくる。

 俺は「いいですよ」と答えた。



「よしっ、じゃあ帰ろっか!」



 ミシェルの声に後押しされるような感じで、俺達は森から出てメイラードに向けて歩きだした。





 ーー◇ーー◇ーー◇ーー




 それから大体20分前後程経った頃。

 俺たちは無事にメイラードへ帰ってきていた。


 そして俺は、あれから(ミシェルが帰ろうと提案してから)結構な時間が過ぎたものの、今だにドクさんに先程の話しの意味を聞き倦ねていた。

 聞き出すタイミンを脱し、何となく詮索してはいけないという勘のようなものが働き、問いかけることが出来なかったのだ。



 ともあれ、そんな俺の苦悶は一先ず置いておくとして、何事も無く街に着いた俺たち三人は、一軒のそこそこ大きい建物の前に立っていた。


『宿屋 ラーチ』


 建物に対して表示されたカーソルから分かる通り、どうやらここは宿屋であるらしい。



 さて、このreal worldにはゲームを止める、つまり仮想空間から現実へと帰る為にログアウトという手段がある。

 まあ、ログアウトなんて言葉やシステムは2000年代初頭からネットゲームでは至極当たり前に使われていた言葉であるらしいのだが、やはり、俺が知る中でこのゲームのログアウトはやや珍しいものとなっている。

 ログアウトの手段、というか種類が三つもあるのだ。


 一つ目は宿屋や宿泊ができる施設に泊まり、設置されているベットで寝た状態で行う『安全切断』。


 二つ目は街中やダンジョンの中に幾つかあるエネミーが出現しない安全地帯(セーフティポイント)にて行う『緊急切断』。


 そして三つめは一と二の条件に合致しない全領域、つまりダンジョンや敵対NPCやプレイヤーの陣地等(ただし戦闘中は除く)にて行う『死亡切断』。



 無論、区分されているだけあって、それぞれのログアウトには何らかのメリット・デメリットがある。


『安全切断』のメリットは、体力・魔力・ステータス異状等を全回復できる点。 デメリットは泊まる事が出来る施設を探すのに時間が掛かったり、金銭を消費しなければならない点である。


『危険切断』のメリットは、場所は限られているものの安全地帯(セーフティポイント)にさえ居れば素早く行える点。 デメリットは安全切断と違って体力・魔力・ステータス異状の回復が遅く、場合によっては全く回復しない事もある点である。


『死亡切断』のメリットは、戦闘中を除くすべての場所で行える点。 デメリットは死に戻りよりも重いペナルティー(所持金のロスト及び長時間の重度のステータス異状、そして所持品の一割をランダムにロスト)を負わなければならない点である。


 

 ……とまあだらだらと説明をしたのだが、詰まるところ何が言いたいのかと言うと、「お前に泊まる場所の目星が無ぇなら俺が案内してやるよ」とドクさんとミシェルに連れてこられたのがこの宿屋ラーチであり、今から俺がログアウト(安全切断)をする場所であるという事だ。


 いやはや、

 出会ってまだ数時間しか経っていないのだが、彼らにはお世話になりっぱなしである。


 ついでに、ドクさんとミシェルには自分たちの家があるという事で、この宿には泊まらないらしい。


 二人に対し宿屋の入り口で分かれを告げた俺は、宿屋ラーチに泊まる手続きをした後に、あてがわれた個室にてログアウトするのだった。





ーー◇ーー◇ーー◇ーー







 






 ……。


 …………。


 目を開ける。


 俺はベットから上半身を起こし、軽度の柔軟をして身体をほぐしていく。

 バキバキという小気味良い音をならしながらも、長時間動いていなかった身体が徐々に感覚を取り戻していくのが分かる。



「はあっ」



 頭に装着していたヘッドキアを外し、頭を2・3回左右にブンブンと振ると、俺は解放感が故か倦怠感が故かのどちらかははっきりしない、そんなため息をはいた。



 時刻は20時21分。


 妹(言い忘れていたが俺には3歳下の妹がいる)はもう部活から帰ってきているかもをしれないが、母と父はまだ帰ってきていないだろう。

 共働きの父と母が仕事を終え家に帰ってくるのは大体20:30前後となっている。


 父と母が仕事で遅くなるために俺達の食事事情は、両親が遅くまで家にいない平日には俺と妹が当番となって交互に夕食を作り、土曜日と日曜日だけ母親と父親の手料理となっている。



 そして夕食は家族みんなが集まって食べるのが家族間での暗黙の了解となっているので、夕食はいつも通り両親が帰ってきた後の9時位からだろうか。


 ああ……、今日の夕食は何だろうか。


 ……それにしても、なんだかんだ疲れたなぁ……。




 そんな益大もない考え事をしているうちに、どんどんと視界がぼやけ、薄れていく。



 やがてろくに思考もままならなくなり────








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