第12話『卑屈』
『もう一度聞くんだが……本当にいいのか?』
アネハが心配そうな声で問いかけてくる。
「大丈夫だって、心配し過ぎだろ」
そんなアネハの心配は杞憂だと言わんばかりに、俺は元気に返答した。
『心配し過ぎと言われてもな……、序盤の雑魚エネミーにすら一撃で負ける奴を心配するのは当たり前だろう』
「いや……確かにそうだけどもさ……。まあ、ともかく俺はこのまま一人で行動するよ」
『けどーーーー』
「それにさ、お前誘われているんだろ?……えーとなんだったっけ。あの、ほら、ネットゲームの……、ゲ、ゲート……」
少しの間思い出そうと頑張るが、思い出せない俺を見かねてアネハが口をだした。
『もしかしてゲート・オブ・エクスペリエンス……GOEのことか?』
「そうそう、それそれ。そのゲームのフレンドに、このゲームでも『一緒にパーティ組みませんか?』って誘われてるんだろう? 俺の事は構わずに行ってこい。……なあに大丈夫だって。街で手持ちの有り金全部はたいて防具でも買ったら、そうそう死にはしないさ 」
『本気か?』
「本気もなにも、真剣って書いてマジって読む程だよ」
暫く俺とアネハの間に静寂が訪れる。
余りにも沈黙が長かったので、
(え、もしかしてテレパスを切られたのか? ……や、やべぇ。盛大に滑ってアネハを『ふざけるな』って怒らせたかも……)
そんな懸念をひしひしと感じていると、
『…………わかった』
「へ?」
『分かったって言ってるんだよ。考えたらそもそもゲームをソロでやるかやらないかは人それぞれだし、かくゆう本人が一人で行きたいって言うなら縛り付けるようなマネは止めておくよ』
よかった……。どうやら沈黙の理由は怒りではなく熟考中であったからのようだ。
「ああ、ありがとう」
『そのかわり明日ちゃんと学校で何処まで行ったのか教えてくれよ!』
「勿論分かってるさ」
『そうか。じゃあまた明日な、クロ』
「おう。また明日」
ブツン。と固定電話の通話を切った時に流れるあの独特な切断音を出しながら、アネハとのテレパスは終了した。
(…………)
俺は虚空に向けてバイバイと左右に振っていた手を、ゆっくりとおろす。
そして周り(教会の中)に人が居ないかを確認し、人っ子一人居ないと分かると、その場に座りこんだ。
…………はあ。
一つ。
唐突ではあるのだが、ここで俺の愚痴……というよりも懺悔を聞いてはくれないだろうか。
……実は先程のアネハとの会話において、俺はアネハに対しソロでやりたい本当の理由を話していなかった。
どうして説明しなかったのか?
簡単だ、できなかったのだ。
恥ずかしくて、あいつの迷惑になりそうで。そして皆が楽しそうにプレイしているのを自分と重ね合わせ、拗ねていたからだ。
だから、これ以上アネハとのゲームができなかった。
餓鬼だ。
自分が楽しんでいないから。そんな理由で親友と遊んでいたゲームを止めてしまう。
卑屈になって、勝手に幻滅して。
虚しくなって、勝手に中止する。
何ヵ月も、はたまた何年も前から待ち望んでいたモノなのにーーーー
…………やめよう。
幾ら言葉を重ねたとしても、言い訳にしかならないし、過去は変わらない。
拗ねていたとはいえ一人が良いと言ってしまった手前、ソロプレイをしなければいけなくなるのは至極当然のことだろう。
まあ、アネハは良い奴なので『やっぱ一緒に行かないか?』とでも誘えば二つ返事で了承してくれそうなのだが、そんな事をやる気は毛頭ない。
いや、正確に言えばしたいのだけれども、それはそれで嫌だ。
その理由がどうしようもない、犬に食わした方が良いプライドなのかもしれないけれど。
…………。
よし。
人間誰しも阿保な事や汚い事、馬鹿な事やどうしようもない事の一つや二つはやっているものである。
それに今でも充分参っているのに、更にナイーブになってもなんのメリットもないのだ。
だからここからは心機一転、精々悔いが残らない程度に頑張っていこう。
じゃあまずは店に行って適当な装備を買うことにしよう。
そんな思考にたどり着いた俺は、直ぐに愕然とすることになる。
何気なく開いた自分のステータス画面に、驚きの数字が書いてあったからだ。
《所持金:0》
…………さ、さーてどうしようかな?