第11話 『死に戻り』
目が覚める。
正確に言うのならば亀に踏まれると共に数秒間暗転していた視界に光が戻っただけなので、この言い方は正しくはないのだけれども、目が覚めるというのが一番この現状を表すのに的確な言葉であった。
突然目に入ってくる光に目を細める。
俺はやや重たく感じる頭をブンブンと左右に振ると、自分は今何処にいるのかを確認するために辺りを見渡した。
そこは酷く既視感を覚える場所だった。
天井にある赤や黄といった様々な色で彩飾されたステンドグラスが、陽光をその身に通らせることで地面や壁をきらびやかに照らしている。
また、床には青白い綺麗な色をした光が直径約3m程の幾何学模様を形成しており、オカルトチックな雰囲気を醸し出していた。
何処かで見た様な……。
そんな事を考えながら周りを見渡すこと暫し。
……思い出した。
成程。
通りで見覚えがある筈だ、此処は俺がこのゲームで一番最初に見た場所であり、つい一・二時間前にきた来た場所なのだから。
白の神殿。恐らだがここはあの神殿だろう。
一応メニュー画面を開き現在地を確認してむると、『現在地:始まりの街メイラード/白の神殿』となっていた。
やはり。
どうやらこのゲームにおいての復活地点はこの神殿のようだ。
初スタート地点が復帰ポイントになる。RPGやゲームではよくあるシステムだ。
(それにしても……)
現在地の場所を把握した俺は、自分の両手をニギニギと開閉し、その様をジーと眺める。
(死んだん……だよな?)
死。
無論、生命活動が停止するという現実での死ではなくゲームにおいてのデータとして死んだという事だが。
俺は亀ーーストーンタートルに踏まれて死んだ。
俺の防御力が低いからなのか、それとも敵の攻撃力が高かったからなのかは定かではないが、酷く呆気なく、そして余りにもあっさりと死んでしまった。
だが、そこに痛みなど微塵も感じず、せいぜい軽くぶつかった様な衝撃があるだけだった。
(コレがこの世界での『死』……)
なんと軽く、無害で、容易で、簡潔で、容易く、そして訳もなく死ぬのだろうか。
今まで遊んできたVRゲームの中で、もっとも感覚が現実に近くなっていると言われているだけはあるのか、ゲームにおいての死であるにも関わらずそんな事を考えてしまう。
そして俺は酷く淡白であるこの現象に対し、そうした恐怖とも違う何か恐れ戦く様な考えが浮かぶと同時に、
(実にゲーム様様じゃないか……)
そう感動していた。
生まれてから約16年。まだ人生の辛さをそれほど体験してはいないかもしれないが、自分が死んでしまう。或いは己の存在が消えてしまう。そんな思考をし恐怖を覚える事は十二分にあった。
だが、
ことこの世界においてはそうした恐怖とは無縁の場所を悠々と歩くことができる。
(なんと恐ろしく、そして素晴らしいんだ!)
……と、まあひとしきり喜んだ所で。
やらなければならないことをしよう。
まずメニュー画面を開く。
そして《ステータス》や《アイテム》、《装備》や《設定》といった様々な項目の中から《コミュニケーション》と表示されているを選んでタップし、更に《フレンド》、《ギルド》、《同盟》、《レギオン》、《パーティ》、と表示された項目から《フレンド》を選択する。
フレンド人数:1人
┗ ・アヤハ
フレンド申請:0人
フレンド通知:0人
選択すると直ぐにこんな表が表示される。
これは現状において自分とフレンドであるプレイヤーを指し示しているものである。
フレンド登録の利点とは、ログイン及びログアウトの有無の確認を始めとし、街の外にいても使える通信手段であるメールやテレパスを相互で使用できるようになることなので、俺とアネハは数時間前の合流時にお互いを登録しあっていたのだ。
今日は取り合えず一日中二人で行動すると昨日翔大と約束していたので、取り合えずこれからどうするかを決める為にアネハへとテレパスを送る。
ピロリロ ピロリロという独特な器械音の後に、
『もしもし』
そんなアネハの声が俺の耳を打つ。
どうやら繋がったようだ。
「もしもし。あー、一応確認だけどアネハだよな?」
『おう、あってるぜクロ』
ふぅ、よかった。
テレパスという始めて使う通信手段であったので、『万が一だけど知らない人に繋がったらどうしよう……』といった不安が若干あったのだが、どうやらただの杞憂であったようだ。
それからアネハと話すこと十数分。
死に戻りしたこと。そして今始まりの街にいること。そういった現状報告をした後に、本題であるこれからどうするかを話しあったのだった。
私生活が少し忙しくなり、小説の執筆速度が遅くなってしまいました。ですからストックの関係で更新頻度を緩め、少し日をあけて更新していきます。
これからも精一杯研鑽を積んで頑張って投稿していきますので、何卒宜しくお願いします。