第四章
Hgは幼いころから、生きとし生けるもの、全てが嫌いだった。生命が、肉体が嫌いだった。
どんなに美しい生き物でも、やがて年を取る。外見も中身も醜くなる。それは人間だろうが動物だろうが、植物だろうが一緒。花は枯れ、肉は腐る。だから、食べ物すら嫌いだった。
自分の肉体だって好きじゃなかった。まだ若いとはいえ、顔も体も、自慢できるほど美しいものではない。今が一番美しかったとして、この程度だ。本当に嫌だった。
最初は伊武希衣のことも好きじゃなかった。可愛らしいが、ただの少女だ。この子もやがて年を取り、醜くなっていくのだ。世話をしろ、勉強を見てやれと言われたが、乗り気じゃなかった。所属している反天使同盟の仕事だからやった。
それでも、希衣は自分に良く懐いてくれた。母親と接する機会の少ない希衣は、Hgに甘えることが多くなった。
最初は、すり寄ってくる希衣が疎ましかった。適当にあしらっていた。それでも、希衣は近寄ってきては、甘えてきた。
希衣はどうでもいいことをたくさん話す。Hgの読んでいる本を自分も読んでみた。でも、難しい言葉が多くてわからなかった。紙飛行機が上手に作れない。バナナが好き。チョコレートが好き。あんこはあまり好きじゃない。運動が好き。走るのが速い。蜘蛛が怖い。
希衣は、そんなどうでもいいことを、「でね!」と何度も言いながら話してきた。
そのうち、希衣はHgの膝で眠るようになっていた。特に、戦闘訓練が終わった後は、かならずHgの元へ来て、その膝で眠りたがった。子猫のようだった。最初は、そのやたらに高い体温や、汗の匂いが嫌でしょうがなかった。何度も引き離し、そのたびに希衣はしゅんとした表情で離れるのだが、翌日には、また同じように甘えてきた。そのうち、Hgは諦めた。
その日も、戦闘訓練が終わった希衣が、部屋に来ていた。
希衣はタンクトップから伸びた細い腕を、自信ありげに見せつけてくる。
「Hg! 私、強くなったよ!」
希衣は一生懸命に力こぶを作るが、その細い腕では、まったくわからなかった。
思わずHgが笑うと、希衣は不機嫌になった。
そのたびにHgは適当なことを言って、彼女のご機嫌を取った。
ある時、武器が大きすぎると文句を言う希衣に、Hgは何気なく言った。
「そのうち、私があなたにピッタリの武器を作ってあげる」
その言葉を聞くと、希衣は飛び上がって喜んだ。
「ほんと!? 絶対だよ! 約束だよ!」
希衣がしつこく、指切りをしてというので、Hgはそれに付き合ってやった。まあ、そのうち作ることになるだろう。他の人にだって作っている。希衣のは、少しだけ気合を入れて作ってやろう。Hgはそれぐらいに思っていた。