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第一章
伊武希衣は部屋の中で一人、窓から雨を眺めていた。
冬の雨は冷たく、雨音が弾ける音を聞くたびに体に寒さが染みいってきそうだった。
右肩の付け根が、冷気で痺れるような痛みを感じている。
昔、切り落とされて、まだ繋がっていない右腕。
この腕を切り落としたのは、Hgという魔術具作成者だった。
Hgは伊武に優しくしてくれた。怒られたこともたくさんある。
でも、その時にHgがどんな表情をしていたのかは、ぼんやりとしか思い出せない。
伊武がはっきりと覚えているのは、Hgが自分の右腕を切り落とした時の、あの表情。
怒り、怯え、悲しみ、喜び、達成感、後悔――それらが全て混ざったようなあの表情は、なんという言葉で表わせばいいのだろう。
伊武は右肩を隠すように、自分の体を抱きしめた。
Hg、どうして――どうしてあなたは私を斬ったの。
伊武の右肩が、またうずき始めた。
その痛みは悔しくて、苦しくて、そしてなぜだか伊武を落ち着かせた。