第二十話~先生と俺、ルーナの才能~
俺の大好きな授業、それは薬学。
料理や裁縫も好きだが薬学が一番好きだ。
何といっても薬師になれば地元で活躍できるからな!
今村には薬師はおばばしかいない。
小さい村に医者なんているわけがないので薬師は重宝されるということ。
手に職つけて家に帰るんだ…。
それと、薬学の先生が俺は好きなんだよな。
通称マッドサイエンティストなクレイル・モントレール先生、当年とって29歳の女性で髪はボサボサ、瓶底眼鏡によれよれの白衣、薬学に熱中し過ぎて食事を取るのを忘れるせいでガリガリの身体。
…生徒と教師陣の評判は頗る悪いが俺は好きだ。
薬学の知識は果てしないし、何事も自分で実験するその心意気や何を言われても自分を曲げないその精神!
うん、素晴らしい!
…そんな先生でも結婚してるというのがこの学園の七不思議の一つである…らしい。
っていうか、異世界でも七不思議とかあるんだな!
「先生、ゴルデラ草とマネレン草を混ぜてカディア湖の水で煮出したら魔力が回復する飲み薬が出来ました」
「…まずそうだね…。飲んだの?」
「はい、勿論。飲まなきゃ効能が分りませんから」
「偉いねぇ。リースの様な研究熱心な生徒を持てて私は幸せだよ」
「先生の様な素晴らしい人に薬学を学べる私も幸せです」
「そうかいそうかい。で、味は?」
「…筆舌に尽くしがたいものがありました…。物凄い極限状態でなければ飲みたくない代物です」
「ふふ、そういう時はケイラの果実を搾って足すといいよ。ケイラの果実は薬の効能を変えずに味だけ変えてくれる薬師御用達の果実なんだよ」
「!それは知りませんでした…。早速ケイラの果実を入れてみます」
「…先生、リース。今はゴルデラ草とヘレス草を混ぜて傷薬を作る授業をしているのであって、薬を創作する時間ではありませんわよ?」
「…ごめん」「ごめんねぇ」
そうだった、今は授業中だった。
…薬学人気ないから俺とシオルしかいないんだけどね。
「それにしてもリースは本当に薬学が好きなのね。どの授業より輝いて見えるわ」
「そりゃもう楽しいよ。私薬学大好きだ」
それに他の授業の時と違って他のお嬢様方がいないし、お嬢様方の機嫌損ねたがらない日和見教師と先生じゃ比べ物にならないくらい尊敬できる。
やっぱり先生は偉大だ。
『キャー』『ステキー』
「?外が騒がしいね」
校舎の二階にある薬学室にまで聞こえる大音量は何事だ?
俺が窓から外を覗くとそこでは剣術の模擬試合中だった。
「あれは…君の妹だね。相変わらず人気者だ」
「お強いですわ…戦っているのは5つ上のマリア・グラデネル伯爵令嬢ですわね」
「ルーナに剣術の才能があるとは思ってなかったなー」
あれは入学してすぐのころ、最初の剣術の授業だったと思う。
学園では自分で授業を選ぶ前に一度体験授業がある。
当初ルーナはほぼ全部の授業を俺と同じものを選択するつもりだったらしいのだが、そこで問題が起きた。
最初の授業は剣術の実力を見るための模擬試合で、ルーナは初めて剣を持ったのにも関わらず、剣術をずっと学んできたという騎士の家系の少女に勝ってしまったのだ。
ルーナの秘めた才能が開花した瞬間だった。
…ちなみに俺は剣をまともに振ることも出来ませんでしたよ、勿論、ええ、勿論!
それ以外にも馬術に槍術、棒術に体術に…。
ありとあらゆる武術の才能がルーナにはあった。
教師が挙って武術系の授業を勧めてもルーナは頑として首を縦に振らなかった。
…俺と離れたくないんだって!なんて可愛いんだ!
でも俺は勿体ないと思った。
俺と違って才能があるんだ。やらなきゃ勿体ない!
…それに、ルーナくらい才能があれば努力次第で初の平民女騎士の誕生かもしれないし!
女騎士の鎧って格好良くていいんだよなー。
あれ着たらルーナ凄く可愛いだろうなー。
…最終的にはなんか願望が入ってたんだけども俺はルーナを説得した。
間違えてなかったな。
剣を振るうたびにわき上がる歓声。
ルーナは生徒たちの憧れであり、教師たちの期待の星だ。
…うーん、俺の妹とは思えんハイスペック…。
おかげで俺と違って平民だからって虐められないしな。
…あ、勝った。
「勝って喜んでるよ」
「「…あれで?」」
俺の前じゃないと感情表現が薄いなんて気付かなかったなー。