第十四話~出会いは突然に①~
リクルのフェレージョと紅茶でまったりのんびりした後、一旦客室に戻ることにした。
広いけどそんなに目新しいものが一杯あるわけでもないと思うからね。
どうせ長旅だ。まったりしよう。
客室の前まで来た時、何やら揉めているらしき声が聞こえた。
「嫌なの!私これは食べたくないのよ!」
「そうは言われましてもお嬢様。このような車内で柳食(りゅうしょく、和食に似た食べものを総じてこう呼ぶ)は…」
どうやらお嬢様とやらが柳食以外は口にしないと言い張っているらしい。
柳食は外国から入ってきた食べ物で、この国ではあまり食べられていない。
俺は個人的に色々自分で作ってるけど。
だからさっきの店でもメニューには柳食はなかった。
柳食ねぇ…。
持ち込んだ材料で作れるけど、どうしよっかな。
ふむ、と考えこもうとしたその時。
ルーナに顔を覗き込まれた。
「お姉ちゃん、ご飯作ってあげるの?」
「まぁ、作れないことはないんだけどさ。一回作ったらずっと作らなきゃいけなくなるし、この国で暮らしてるのに柳食のみ、ってわけにはいかないし。どうにか諦めてくれるといいんだけどね」
「好き嫌いしちゃ駄目だもんね」
「そういうこと」
だから、やっぱり放っとこうと思ったんだけど…。
いかにも執事、といった感じの人がドアを開いてこちらへ来てしまった。
ちなみに、言い忘れてたんだけど俺たちの客車の隣は特級だ。
壮年のナイスミドルとぱちり、と目が合った。
…ばあちゃん以外で黒髪黒眼の人初めて見た…。
『おや、その髪と瞳は…柳国の方ですかな?』
『いいえ、私の曽祖母は柳国の出身なのですけれど』
多分凄く片言。
猛勉強したけど、やっぱり所詮は俺の頭なのです。
柳国っていうのはエンラントリュードの隣国に当たる凄く日本に似た国の事だ。
多分日本の江戸時代くらいの文化じゃないかな。
俺が産まれる前に死んでしまっていたけれど、ひいばあちゃんは柳国の出身だった。
技術指導でこっちに来てひいじいちゃんと出会い結婚してばあちゃんを産んだ。
機織り名人だったらしい。俺はその血を引いたせいか手先は器用だ。
『この国に柳国の色はほとんど見ませんからな。そうですか、ひいおばあさまが…』
『貴方は柳国の方ですか?』
ばあちゃんは柳国の敬語しか教えてくれなかった。
そして使うのは今が始めて…。
ちゃんと言葉通じてるといいんだけど。
『ええ、我が主とともに。…ああ、そうだ、もしや柳食の材料など持っておりませんかな?お嬢様も柳国の血を引いており、柳食以外を口にしないと決めておられるのです』
『それは…宗教的な?』
『そうです。柳日教の教えを母親から受け継いでいるのです』
柳日教は柳国で一番ポピュラーな宗教感だ。
ひいばあちゃんは違ったらしいけど。
面倒なんで一言で言うと、仏教みたいな感じ。不殺生を謳ってる。
精進料理しか食べないという考え方でもいいと思う。
面倒だなぁ全く。