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短編

クロとわたしとわたしのお部屋

作者: 遠野まみみ
掲載日:2026/07/24

ピロロ~ンとドアが開く音がしたので「いらっしゃいませー」と声をかけた。


夜のコンビニのバイトは苦手だ。と、諏訪野幸すわのさちは思う。

だって視えてしまうから。今来た客も…死人だったぁぁ。


目の前に血まみれで、向こう側が透けている男が立っている。

「視えてるよね?ねえ、俺と一緒に出掛けない?」


「あわわ。て…店長―。時間なのであがりますっ」

逃げるように店を出た。


               *


学生の頃は、決まった時間で決まった道順だったから、

死人に出会うことはあまりなかった。

けれど社会人になってからは行動範囲が広くなって、

死んだ人をあちこちで見かける。

時には追いかけられ、時には脅され、時には誘われて、ついて行ったら

車にはねられそうになったりと、ロクなことがなかった。


油断ならない。こんなんだから仕事が続かない。

なので収入が安定しない。ビンボー。低家賃の所しか住めない。

結果…。


3日前から住んでいるアパートは家賃半額の訳あり物件! 

内見の時には黒いモヤがあった。だが悪い事はしなさそうだったので契約した。


部屋の前で隣の女性に会ったので軽く会釈する。

引っ越しの時にチョコレートを持って挨拶に行ったが、「どうも」と言ったきり

付き合いはなくて、話すのが好きじゃない人みたいだ。


部屋に入ると相変わらずモヤがあった。

シャワーを浴びているとドアの向こうに気配がある。

こっちを見ているのがわかる。

だがこのくらいなら気にならない。


ベッドに横になってスマホを見ていると目の端でモヤが動いた。

だんだん形になって、それは黒猫になった。


「クロエ?」幸は叫んで抱き寄せようと思ったが、すり抜けてしまった。

昔飼っていた猫にそっくりの幽霊猫は、冷たい目で幸を見る。


幸はクロエを思い出していた。真っ黒で美人な賢い猫だった。

保育園の帰りに拾って、一緒に育ったクロエ。

お姉さんみたいで、危険な場所へ行かないように守ってくれた。 

蛇が道をふさいだときは勇敢に戦ってくれた。

15年後にクロエが死んだとき幸は19歳で、クロエ危篤の知らせを受けて

都会の大学から急いで帰った。クロエは待っていてくれて、

幸に抱かれて虹の橋へ向かった。思い出すと今も涙が出る。


「み…貢物買ってきます」夜中だったが、嬉々として出かける。

帰ってきた幸の手にはおもちゃやおやつでいっぱい。

だが、猫はそっぽを向いて消えてしまった。

「消えないで。ここで一緒に暮らそう。ペット禁止だけど幽霊禁止って契約書には

書いてないから大丈夫」


だが、猫は出て来てくれなかった。

「そ…それでこそ猫! お願いなんてムシするのが猫さま!」


夜中、寝苦しくて目が覚めると猫が胸の上に乗っていた。

威嚇されるが、幸にとってはご褒美以外のなにものでもない。

「い…一緒に寝る?」   胸は苦しいが、撫でたい。

「もう、ほんとに飼ってたクロエにそっくりなんだもん。

 君も美人だよ。かわいい。わたし、霊感あってよかったって初めて思った。

褒められて複雑な幽霊猫は消えてしまった。


「猫ぉぉぉ」手を伸ばすが届かない。がっかりしながら眠りについた。



翌朝起きると部屋にティッシュがちらかっていた。手に引っかかれた痕もある。

「こ…この傷はご褒美!ポルターガイストは嫌がらせしているつもり?

かわいい~。モノが少ないから、ちらかしてもたいした事ないよ。残念でした。

ビンボー舐めんなよ」と笑う。


その日から、幸の生活が明るくなった。

霊感万歳。猫幽霊万歳。


夜のコンビニバイトも苦ではなくなった。

「猫いるし~。今夜も遊ぶし~」と幽霊を見ても気にしなくなった。

いい事だらけだ。


               *


その夜幸は夢を見た。


老女と黒猫が暮らしている。

「クロ、お薬もらってくるから待っててね。大好きよ。

わたしのたったひとりの家族」

老女はでかけて、猫は玄関で座って待った。何日も待ち続けた。

やがてお腹がすいて倒れて、目をとじたまま開かなくなった。


やがてたくさんの人が部屋にやってきて、猫の骨と荷物を片づけて

部屋はからっぽになった。


でも「待ってて」と言われたので、クロはずっと帰らないおばあちゃんを待った。

その人が大好きだったから。でもなんで帰ってこないの?嘘ついたの?

知らない人が来たよ。出てって、ここは僕とおばあちゃんの家だ。

という気持ちが幸に入ってくる。


やがて気持ちは「なぜ置いて行った」「捨てたのか?」に変わって

そして「大嫌い」になった。


目が覚めた幸は泣いていた。クロ…クロっていうのかな。あの猫。

おばあちゃんはどうしたんだろう。帰ってこなかったってことは出かけたまま

亡くなったのかな。 ペット禁止のこのアパートで、内緒で飼っていたんだろう。

だから、猫がいるって言えなかったのかな。心残りだったろうな。

ふたりともかわいそうだ。

幸は「クロ」と呼んでみた。

名前を呼ばれて、きょとんとした顔でクロは現れた。


「一緒に住んでたおばあちゃんを待っているの?会えないの?

そっとクロの頭に触れる。 そこだけ冷たい感覚がした。


               *


バイトをしながら、あのアパートから行くとしたら通りの向こうの病院かな。

と考える幸。

お客さんの中に看護師さんがいたから、聞いてみようかな。

常連客の中に看護師がいて、たまに制服のままお昼を買いに来ていた。

その客が来た時に、

幸は「数年前に倒れて運ばれたお年寄りの女性はいませんか?」と聞いてみた。

彼女は「うーん、ちょっとわからないけど先輩に聞いてみるね」と、

言ってくれた。


アパートへ帰ると部屋が荒らされている。スプーンが飛んでいた。

「またですか?マンネリだよ?」とつぶやく幸。

クローゼットの隙間から黒いシッポが視えた。

「おばあちゃんを探してみようか?」と、言うと

パタパタしていたシッポの動きが止まる。

「うん。見つからないかもしれないけど、そのときは許してね」


               *


お客の看護師が「3年前に病院の前で倒れて一ヶ月後に亡くなった

おばあちゃんがいた」と教えてくれた。


バイトが休みの日に病院へ行くと、亡くなった人たちが視えるが

夢で見たそれらしき人はいない。 成仏したのかな。呼べないかな。 

「クロの飼い主さんはいませんかー?」呼びかけてみるが反応はない。

わたしの霊能力はなんでもできるわけじゃない。

がっかりしながら帰宅した。


「クロごめん。おばあちゃんは亡くなってたよ。それしかわからなかった」

幸は床に座り込むとそのまま身体を横にした。

「なんだろう?だるい。病院で変なモノが憑いてきた?それともなんか感染した?

あー、そういえばすごい咳をしてる人がいたなぁ…」

熱があるようで身体が熱い。


やがて幸の息が荒くなって、クロが鳴いても返事をしなくなった。


「初めて鳴いてやったのに、にゃんだ、こいつは」と、クロはうろうろする。

こいつがいなくなったら、おもちゃがなくなる。貢物がなくなる。

退屈な日がまたやってくる。

そして隣との壁のむこうにクロは消えていった。


隣の部屋ではお姉さんが寝ていた。胸が苦しくて目を開けると猫が乗っていた。

「…え…?猫?」

クロは隣に続く壁をカリカリする。その壁の中にクロは消えた。

「隣で猫を飼ってる?…うらやましい。違う、ペットは禁止のはず。

 管理会社に言ってやるわ」


翌日の夕方。管理会社の人が鍵を開けて入ってきて、

倒れている幸を見つけてくれた。


               *


入院中に見た夢は、クロとあばあちゃんが再会した夢。おばあちゃんは幸に憑いて

アパートに来たらしい。

「帰れなくてごめんよ」とおばあちゃんが言うと、

「いいんだ。捨てたんじゃないってわかったから」とクロが話していた。

よかったねぇ。クロ。と思う幸。


退院して隣のお姉さんの部屋にお礼の挨拶に行くと、

「猫飼ってます?違反ですよ?」と言われた。

「実は猫は幽霊なので違反ではないと思います」    

「……。ならしかたないですね。」

「納得するんですか?」

「あなたの部屋ね、人の出入りが激しいの。ネットの「事故物件ポイント」にも

載ってるのよ。何かあるとは思っていたわ。

でもあなたを助けたのはその猫だわ。わたしに知らせにきたのよ」

「猫が…。とにかく、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ。あの…たまに猫ちゃん見せてください。

見られれば…ですけど」と、笑った。


なんか、友達ができた?いいかも。と幸は思う。

部屋ではクロが待っていた。

「ありがとうね」と幸が言うと、クロはにやりと笑って幸の膝に乗って消えた。

おばあちゃんと会えて成仏したのかな?と思ったら、

「お前を下僕にしてやる。下僕を守るのは主人の仕事だから守ってやる。」と

頭の中で声がした。


「もちろん、喜んで」

霊感持ちも悪くない。と笑う幸だった。


読んでくださって、ありがとうございました。


ジャンルを迷ったんですが、AIくんが「これはローファンです。」と言ったので

こちらへ。

まだ迷ってます。

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