婚約破棄はトリガーにしかすぎません
いつか、どこかで見たような良くある話です。
「ユリア・ヨロン皇女。あなたとの婚約を破棄する」
「それがどのような意味を持つのか知っての発言ならば、正気を疑います。ロメロ・トウア王子」
「二人とも、サザン王の御前で何ということを申されるのです」
これは二人の婚約式での発言です
ここに至るまでのお話をいたしましょう
* * *
これは遠い遠い昔、あるいは遠い遠い未来の話
地球に住む人間は幾つもの危難を乗り越えて、しぶとく生き抜いておりました
一度だけ、あわやという処まで追い詰められた時もありました
幾度もの分離独立合従連衡を繰り返した国々は三つの勢力に纏まったのです
一つは大西洋西岸の南北大陸からなる統一ア連邦共和国
通称、統ア
一つは北大西洋から北太平洋までの北半球の国々からなるヨロ共和国連邦
通称、ヨロ
一つは上記以外の南半球の国々からなるサザン連合
通称、サザン
特に統アとヨロは仲が悪く、資源・領土の奪いあいは、当時の最恐兵器による全面戦争一歩手前まで続いたのです
でも、ある一人の女性科学者の発見により、何とかその危機は回避されました
その危機を救った発見とはワープ航法でした
ワープ航法の発見と実用化は地球上での資源・領土争いに一応の終止符をうったのです
ワープ航法により遠い星々の世界へと新たな資源を求めた統アとヨロ
地球近傍の星々の開発を進めたサザン
三つの勢力は暫くは不干渉政策を取りました
あまりにも広大な星域を効率良く治めるため三つの勢力は共に王政に似た統治をするようになりました
やがて長い、長い年月の果てに、三つの勢力は銀河を三分する程にまで成長しました
そして、統アとヨロ、その頃にはトウアとヨロンと呼ばれるようになりましたが、の間に再び争いの火蓋が切って落されたのです
その頃にはどの勢力も、反物質爆弾やワープ理論を捻じ曲げた次元転移爆弾など、嘗て最恐と言われた兵器を更に越えるものを大量に、それこそ、幾つもの星系を全て消滅させても未だ余る程大量に配備していました
トウアとヨロンの高まり続ける緊張に業を煮やしたサザンは、一つの提案をしました
トウア王家の王子とヨロン皇家の皇女の婚姻による和平交渉です
婚姻の交渉は困難を極めました
しかし、何とかお互いの合意点を探り当てた両勢力は、サザンの仲介により和平条約を締結、その証としてロメロ・トウア王子とユリア・ヨロン皇女の婚約が結ばれたのです
が……
* * *
「ユリア・ヨロン皇女。貴女の振舞いはトウアの者として相応わしくない!」
「それを言うなら、ロメロ・トウア王子こそヨロンの常識から外れております!」
あまりにも長い間二つの星域は没交渉だったため、互いの文化・風俗・常識が懸離れてしまっていたのです
若い二人は互いに歩み寄る事も、それを乗り越える事もできませんでした
互いのプライドを少しでも譲歩する事は、若すぎる二人にはできなかったのでした
二人はとても憤慨し、各々の星系へ帰ってしまいました
「折角のサザン王の御尽力により纏まりかけたこの条約を無碍にするとは、不敬にも程がある!」
サザンもまた面子を潰され怒り心頭です
* * *
ロメロは帰るとすぐに王に奏上しました
「父上、いえトウア陛下。やはりヨロンは駄目です。あの様な不躾な田舎者を妃に迎えるなど、トウアの恥としかなりません」
トウア星王はロメロをギロリと睨みます
「では、戦争しかないな」
ロメロは意気軒昂に答えます
「はい。彼等を我々が導かねばなりません!」
トウア星王は深く頷き、トウア星軍統括を呼びました
「軍統括。24時間後、ヨロンを攻撃する。ついでに余計な真似をしたサザンもだ。準備を進めよ」
かねてより、好戦派の筆頭だった軍統括は目を輝かせます
「は、仰せのままに」
* * *
ユリアもまた即座に星皇に奏上します
「お父様、いえヨロン陛下。トウアとの和平は叶いません。あれ程の無礼者はヨロンには要りません」
ヨロン星皇はユリアをジロリと睨みます
「では、奪い取るしかないな」
ユリアは胸を張って答えます
「ええ、私達が彼等を教導しなければ」
ヨロン星皇は瞑目し、ヨロン軍将軍を呼びました
「将軍。24時間後、トウアを攻撃する。ついでに邪魔なサザンも攻撃しよう。準備を進めよ」
トウアが大嫌いな将軍は小躍りしかねない様子でした
「この時を待っておりました」
* * *
自ら尽力した和平条約の破棄にサザン王は怒り狂いました
「もう知らん。いや、この際あの二勢力を徹底的に潰してやろうではないか」
サザン王は軍司令を呼びました
「軍司令。この際だ、トウアとヨロンの二勢力を潰せ。24時間後だ」
サザン以外どうなろうと構わない軍司令は淡々と答えました
「了解しました。24時間後攻撃を開始します」
* * *
そして24時間後、三つの勢力は同時に残る二つの勢力へと攻撃を開始しました
反物質爆弾を、次元転移爆弾を、あるいは只の隕石を、ワープを駆使し相手の星系全域を覆うように投射したのです
隕石に見舞われた星はクレーターの痘痕に覆われ舞い上がる塵芥により寒冷化し
反物質爆弾に見舞われた星は対消滅により跡形もなく消し飛び
次元転移爆弾に見舞われた星は何処とも知れぬ宇宙の深淵に跳ばされ
銀河を三分するにまで拡大した人間は銀河に居たという痕跡を跡形もなく消し去ったのです
婚約破棄はトリガーにすぎませんでした、がその結末は以上のようなものでした
* * *
え、そんな事を語る私は何者ですかって?
私は、この銀河を含む銀河団を管理する高次元意識体にすぎませんが
嘗て、人間にインドの賢人や、ナザレの男、マッカの男を使わしたのは私です
最後にワープ航法を教えたのも私ですが、全ては無駄に終わったようですね
まあ、無駄にバイタルで血の気の多い人間にうんざりしていたところなので、この結末に思うところは何もございませんが
ふふふ
終
お読み下さいました皆様、ありがとうございます




