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碧い瞳

 

 客車の乗降口から一歩飛び出して、ついに駅に立った。

 駅は精巧な石畳が陽を受け止めている。そして、肉料理やパンなど、様々な匂いがまじりあって、ホームに漂っていた。

 流石に都市を抱える駅ということもあってか、清潔感があり、なおかつ売店がホーム全体に並んでいる。

 中世を想起させるような様式だが、中世では建造できなかっただろう。それほどまでに繊細で、美しい。

 ...おっと、つい見惚れてしまうところだった。直ぐに駐屯地へ行かなければ...

 しかし、短時間でここを出るには惜しい気もする。何か少し、楽しんでいっても....

 「___ねぇお姉さま!私、あいすくりぃむ食べたい!」

 「えぇ~?もう、フィリったら...」

 売店付近で歩いている姉妹。ただ...ヒトはヒトでも、獣人だった。

 まさかここで初めて見れるとは...しかも、よく見てみれば人間と同じぐらい人の数の獣人がフードコートに居座っている。

 噂は本当のようだ。狼の耳に、銀色の尻尾。獣人の中で稀に尻尾がついていない人もいたが、それを踏まえても確かにこの街には獣人が多いようだ。

 ...しかし、こんな幸せそうな市民たちが集まっている空間に、ルーキーの軍人がズカズカ入っていくのは気が引けるというものだ。

 残念だが、今回はあきらめるか...今度、休暇が取れたらここに改めて訪れるとしよう。

 無駄に視線を集めないよう、レザーコートをより一層体に締め付ける。

 駅に姿勢よく立っている法執行官から、やや怪訝そうな目で見られているが、気にしないことにしよう...というか、あの法執行官もよく見たら獣人だな。

 様々なところに目を奪われて進む足がおぼついていない。いけないいけない、これではむしろ怪しまれてしまう。

 目を付けられる前に、早めに出てしまおうか。市街()もどんな感じになっているのか気になる所だ。

 急ぎ足で改札口に向かうが、異国料理の匂いが鼻をくすぐってくる。そんなものに構っている暇はない、とにかく何も考えずに進み続けろ...

 誘惑に打ち負けそうになりながらも、着実に歩を進めていく。再び匂いが俺を引き戻そうとしてきているが、時すでに遅し。もうすでに改札口へたどり着いた。

 「切符を取り出してお待ちください!順番にお願いします!」

 人ごみの中、改札鋏を巧みに操って切符を切り続ける駅員の声が聞こえる。確か、無賃乗車を防ぐ取り組みが全国で行われているんだっけ。

 財布の中に入れていた切符を手に取りつつも、人の流れに従って前へ進み続けた。

 ついに改札鋏がハッキリ見えるところまで来ると、前のめりになりながらも切符を駅員に渡した。

 手さばきは外から見たときよりもきれいで、一瞬のうちに切符を切ってしまった。やはり、市街の駅には相応の能力を持った駅員がいるのかね。

 学生のような感想しか思い浮かばないが、とにかくこの改札口を通り抜けることはできた。あとは、案内を見て外に出るだけだ。

 しかし、なんだ。とにかく広いなこの駅は。伊達に「中央駅」と呼ばれているだけはあるようだ。

 しかし広いせいで、出入り口はおろか案内表示がどこにあるかすらわからないぞ、これは...実に困ったものだ。

 まあ、とにかく歩くしかないか。幸い時間はまだまだある...はず。時間までには出口を見つけられるはずだ。

 




 「...出口、どこだよ......」

 何度見ても、駅には売店、お土産屋、飲食店。そしてキップの販売所と他のホームの入り口しか見えなかった。石畳を踏む音が、虚しく響くだけだった。

 赴任早々だって言うのに、酷い有様だ。どうすればいいのか、この状況は...

 もはや駅員に聞いた方が...そうだ、最初から駅員に聞けばよかったのだ。なぜ自ら探そうと思ったのか...

 そうと決まれば、次は駅員室を探そう。幸いどこかで見たような気がしたから、その記憶を頼りに...

 「...すいませんが」

 唐突に、俺の丁度真後ろから呼び声が響いた。男声だが、少し熟しているのか、ダンディーな声がする。咄嗟に振り返ると、そこには下士官用の制服を着装した兵士が立っていた。 

 鋭い碧の瞳。"獣"特有の野性が潜んでいる。

 「レヴァンゴール・フィーヴェラ准尉でお間違えないでしょうか?」

 態度は下士官としては慇懃である。そして彼は____獣人だった。獣人の軍人って、西部ではなかなか見ないぞ。

 いろいろ混乱して言葉を発せなかった。そのせいで、その様子を少し不思議そうに顔を傾げた下士官が、困惑気味に言葉を発した。

 「...もしかして、人違いでしたでしょうか」

 「___あぁいえ!フィーヴェラ准尉です!ええ、すいません、レザーコートを羽織っていて紛らわしかったですよね」

 慌ててレザーコートを脱ぐと、改めて自分の制服があらわになった。目の前の彼は自分の事を准尉だと再び認識したらしく、再度丁寧な態度で挨拶をしてきた。

 「申し遅れました。ユグニス・エーンターヴラスと申します。階級は軍曹。どうぞ、"ユグニス"とお呼びください。」 

 「ああ、そういうことですか。ところで、あなたは何しに私のところへ...」

 「ベルナー大隊長から、准尉殿を送迎せよと申しつけられまして。生憎車は用意できないので徒歩になりますが、大丈夫ですか?」

 車のアクシデントって、やはり本当だったのか。車というものが実用化され始めているとはいえ、やはり信頼性は低いようだ。

 父上が「馬の方が信頼できる」と言っていたのは、この事だったのかな。

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