旅客列車は行く。
「異なるひとびとが、結びつきを保ちながら共に生きてゆく」ことを、我々は"共生"という言葉で定義する。
一方、「異なるひとびとが、同じ場所を共有し生きてゆく」ことを、我々は"共存"という言葉で定義する。
この違いは、このような定義の類似性に反し、様々な事象に大きな変動をもたらしている。
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地面を照らす太陽。…と、それに反し大地を駆け抜ける冷風。同じように大地を走る鉄の塊がもうもうと上げる煙が、それを追いかけてゆく。
士官用の軍服を着装して椅子に座っている姿は、元来威圧的に見えるものだ。ただ、その上にレザーコートを羽織るだけで、不思議と威圧感が無くなってしまう。
この客車は家族客などで溢れていて、たまに客車が揺れると子供が楽しんでいるようにキャッキャと声を上げていた。
家族客以外は、学生らの集団か老婦人ぐらいだろうか。それらも今は昼食を楽しんでいる所らしい。なるほど、道理でこの「旅客列車」の運賃が他のそれと比べて高かったわけだ。
これでお分かりの通りだと思うが、明らかに俺は場違いである。易々と軍服を着て居座るわけにはいけないので、太陽の陽射しを真っ向に受けている中、レザーコートを羽織る羽目になっているわけだ。
レヴァンゴール・"ヴィクティ"・フィーヴェラ。齢20にして准尉。
つい一週間前に、"シーヴィルナ共同王国"士官学校を卒業し、現在第20旅団"第37大隊"駐屯地へ向かっている最中である。本来は送迎車を送ってもらえる手はずだったものの、どうやら車両にアクシデントが発生し、送迎できない事態になっているらしい。
ただ幸いなことに、その駐屯地が近くにある市街に列車が通っているため、現在列車で駐屯地に向かっている。
しかし列車など、よっぽどの機会でなければ乗ったことがなかったため少し新鮮な体験だ。最後に乗ったのは何年前だったかなぁ。
窓辺に視線を向けて幼少期の思い出にふけていると、田園とは一風変わった都市風景が見えてきた。
【タヴィルノ・ヴェレヴァーズ】。経済的にも文化的にも発展している都市であり、伝統的に貴族や資本家が多く住み着いている。それに比例して労働者も多く滞在していることから、工業化が進んでいると聞いたことがある。
そして___"人獣"も多く住んでいることでも有名だ。
狼に近い獣耳に、威厳を示しているだけのような銀色の尻尾。その他はほとんど人間に近しい容姿を持っている。そして人獣は、人間よりも"五感"がいいらしい。
あくまで噂程度に聞いたものでしかないし、実際に人獣に合ったこともなかったので、少しワクワクしている。多くの国で人獣は差別対象にすらなっていると聞くが、この国では無縁のことだ。人獣への出会いにワクワクしたって、別に罪でも何でもないだろう。
「___もうすぐ駅に到着しますので、お荷物の準備をお願いいたしますッ!」
若手の車掌が声を高々に客車へ響かせて、それに呼応するように乗客らは椅子や足元に置いてあった荷物を手元に置きなおしている。
もう、思い出にふけている暇はなくなってしまうな。
だが、それが大人になる一歩ということなのだろう。次は、俺が老いぼれになった時かね。
そんなくだらないことを考えて、俺は黙々と降車の準備を進めるのだった。