朱
夕焼けが庭を朱く染めていた。
残暑はまだ厳しいのに、日暮れは少し早くなった気がする。
僕とトラは、庭が見えるリビングで並んで座っていた。
風が少し涼しくなって、トラの毛並みを揺らす。
「トラ、この赤い色が見えないんだって。不便じゃないのかな。」
おじさんはスマホを置いて、少し考えるように首を傾げた。
「うーん、赤が見えない動物のほうが多いらしいよ。」
「へえ、そうなんだ。」
夕焼けを見つめながら、なんだか不思議な気持ちになる。
おじさんはゆっくりと僕を見て、少し笑った。
「それぞれ、世界の見え方や考え方が違うもんだ。」
「知ってる」
僕のつぶやきに、おじさんは少し寂しそうな顔をした。
「君はもう少し、わがままでもいいよ。」
僕はトラをそっと撫でた。
夕日に照らされたトラは、目を細めて小さく喉を鳴らした。
同じものを見ることができなくても、
トラと僕の世界が、
混ざったらいいのにと思った。