それぞれの昼休み
〈芹夏視点〉
「……しんど」
教室から出てきた私はトイレの個室でため息混じりに呟いた。
すぐ近くにいるのに、話しかけようとすれば冷たい目を向けられて避けられてしまう。いつものグループで一緒にいることもできない。
周りから変な視線を感じるわ菜々子と亜未もそこだけで盛り上がってばっかりだわで、居心地が悪くなって昼休みの途中で抜け出してきてしまった。
こんなに楽しくない昼休みは初めてだ。
ブレザーのポケットからスマホを取り出しラインのトーク画面を開く。
あれから大毅に何度も謝罪をして彼の望みを叶える意思を伝えた。十件以上送ったのに既読はまったくついていない。今の大毅ならブロックしている可能性も否めなかった。
「大毅……」
東や他のクラスメイトたちといた大毅。あの中には彼と仲のいい女友達が数名混じっていた。
朗らかに話しながら彼女たちに軽いスキンシップをとる大毅に、顔を赤らめながら満更でもなさそうな様子の女友達。こんな状態になる前からそういう光景は目にしてきたし、大毅の本命は私だという安心があったからあまり気にしなかった。
……でも、今は。
––––一旦距離置こうぜ、オレら。
何の感情もこもっていない冷たい声が再生され、胸の奥がギュッと締めつけられる。そのまま握り潰されちゃうんじゃないかっていうくらい痛くて、苦しい。
昨日はばったり会ったユキに話を聞いてもらえなかった。そのあと友達の菜々子や亜未に電話して話を聞いてもらったけど、興味のなさそうな相槌やわざとらしい心配の言葉が返ってくるばかりで、全然スッキリしないまま今に至っている。
普通、友達なら親身になって聞いてくれるものじゃないの?高校に入ってから付き合うようになった亜未はともかく、菜々子は小学校からずっと一緒なんだよ?
「……ユキなら、もっと……」
そう、ユキだったら私の話にしっかり耳を傾けて、彼なりのアドバイスも考えてくれる。同性の友達に打ち明けるときよりもずっと気が楽だったし、心からの優しい言葉もかけてくれた。
相談のたびに私を気遣ってくれて、告白する直前には背中を押してくれた。
––––おめでとう。よかったな、芹夏。
片思いが実ったことを真っ先にユキに伝えに行ったとき、そう言って微笑んでくれたのを思い出す。
幼なじみで相談相手で、誰よりも私の理解者のユキ。
この関係は唯一無二で変わらないと漠然と思っていた。
––––……何があったかは聞かないけど。何もしてない人を巻き込むな。俺ももうお前らから離れたし、愚痴も聞かないから。
前みたいに話を聞いてもらえる流れになると思っていたのに、こう言ってユキは去ってしまった。大毅に突き放されたショックが大きくてつい八つ当たりみたいになっちゃったのは、今は悪かったなと思う。
でも、ユキが私たちから離れるまで似たようなことは何度かあった。それでもユキは控えめに笑うだけで、話を聞かないなんて言わなかった。
小さい頃からの付き合いがそう簡単に切れるはずない。あの弱虫なユキが、私たちがいなきゃ人と関わりにいく勇気も持てなかったユキが、完全に離れることなんてできるわけがない。
だんだん自分に言い聞かせているような思考になってきて、ちがうと頭を振る。
もしかしたら自分は、かけがえのない大事な存在を失ってしまったんじゃないか。
そんな不安を打ち消すように。
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〈大毅視点〉
東やクラスメイトの男子、女友達が喋っているのを聞きながら教室の扉に目をやる。
さっき芹夏が出ていったのを見たが、教室にいるのがつらくなったんだろう。オレに突き放され、いつものグループで昼休みを過ごすこともできないんだから。
菜々子と亜未も芹夏のことを気遣う素振りはないっぽいし。
スマホを取り出しラインを開く。
未読スルーを決め込んでいる間に溜まったメッセージは十件以上。ったく、オレのこと好きすぎだろ。
それならなんであのとき受け入れてくれなかったんだという話になる。
だからあいつにとってキツい状態を保ち続けて、限界ってときに優しく声をかけてやるんだ。そうすれば芹夏はコロッと落ちて、もうオレに嫌われないため何でも言うことを聞くようになる。
そのときを想像してほくそ笑んだとき、メッセージの通知音が鳴った。別のアカウントが芹夏のアカウントの上に来る。
アカウント名は「Yui」、女友達のひとりからだ。
〈今度二人で会えないかな?話したいことがあって〉
オレはすぐに返事を打った。
〈いいよ。いつにする?〉
〈大友くんが大丈夫そうなら、今日の放課後でもいい?〉
〈急だなw 全然大丈夫だけど〉
相手からウサギが勢いよく飛び跳ねて喜びを表すスタンプが送られてくる。
オレは笑みを浮かべながら女友達と会う予定の詳細を決めていった。
「大友くん、何してんの?」
東たちと喋っていた女友達のひとりが声をかけてきた。
オレは人好きのする笑みを作ってそっちを向く。
「ラインしてただけだよ」
「そっかぁ。あ、今日の放課後ここの皆で遊ぼうって話になったんだけど、大友くんは?」
「あー、今日ちょっと先約があってさ」
「ざんねーん。また今度だね」
「ごめんな?次は行くよ」
スマホをしまい東たちの会話に混ざる。
心配するようなことは何も起きない。いつも通り、うまくいっている。




