プロローグ
〈ユキトがグループから退会しました〉
俺が抜けた今、その文字がグループラインに表示されているだろう。
グループラインがあった箇所を数秒見つめたあと、俺はメッセージアプリを閉じた。
「……これでいいんだ。もう」
自分に言い聞かせるようにポツリとこぼす。
なんの前触れもなくグループラインを抜けた俺に対して、グループの中心でもある幼なじみ二人は何を思うのか。
……なんて、わかりきってることなのに。他のメンバーだってそうだ。
「寝よ……」
部屋の電気を消し、布団をかぶる。
夜中にピコンピコンと連続で鳴るメッセージの通知音に悩まされることもない。
ンニャ、という鳴き声がしたかと思うと、ベッドに何かが乗ってきた。
暗闇でもわかる。飼い猫のマルだ。
俺の部屋によくやってくるマルが入りやすいように、いつも扉は少し開けておいてある。
「おいで」
布団を少し上げて、入っていいと示す。
マルは短い足を動かして布団に入り、俺の横に座った。
ふわふわの毛を撫でると、ドッと安堵感が押し寄せてくる。
自分でも気づかないうちに気を張っていたんだろう。
俺はそっとマルの身体を引き寄せて、抱きしめるような形で目を閉じた。
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俺がグループラインを、というよりグループそのものから抜けようと決心したのはつい最近のことだ。
もっと早くにこうしていればよかったと、今は思う。
「行人は何もなくてつまんないんだし、他のとこ行ってもうまくやってけないって」
俺の肩を叩いてカラカラと笑う大毅。
「なんで気の利いたこと言えないの?長い付き合いなのに、なんにもわかってないじゃん」
あきれの眼差しをこちらに向けながら、大げさにため息を吐く芹夏。
誰よりも仲が良くて、誰よりも近くにいた。
彼らと一緒にいると息が詰まるようになったのはいつからだろう。
なんてことのないやりとりに胸がチクチク痛むことも増えていって。
はたから見たら些細な変化に見えるかもしれないけれど、俺にはそれが苦しかった。
積もりに積もったそれに限界を迎えたのは、高校入学から一ヶ月が経過した頃。
「行人さあ、ぶっちゃけいてもいなくても同じだよな」
「それなー?うちらのグループん中じゃ、一番目立ってないよね〜」
「オレらの幼なじみだからいられるだけっていうか?」
「ほぼうちらのおかげじゃーん!」
目の前で手を絡めて歩きながら、俺を見て笑う大毅と芹夏。
かつて俺の手を引いて輪に入れてくれた優しい幼なじみの姿はどこにもいない。
こうして俺は、二人から離れる決意をやっと固めたのだ。