表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

第6章:国家という鏡──プリゴジンという存在が照らしたもの

プリゴジンという名が、この世界から消えて、

ロシアという国家は、静かになった。


けれど──その静けさは、恐怖が行き届いた沈黙ではない。

語るべき者がいなくなったことによる、虚無の静寂だった。




彼が生きていたとき、国家には“語り得る現場”が存在していました。

矛盾や腐敗を正す力があったわけではない。

だが、それらを叫ぶ声はあった。


その声を放つ者が、現場に立っていた。

軍の欺瞞を暴き、戦場の現実をさらし、兵士たちに向けて、時に罵りながらも前へ進めと背中を押す者がいた。


プリゴジンという存在は、

“国家が目を背けていた現実”を鏡のように反射する存在だったのです。


彼を通して見えていたのは、外道な命令系統や傭兵ビジネスではありません。

恐怖によって統治される国家が、恐怖を超えて信頼を築く者をどう扱うか、という冷たい構造そのものでした。




そしてその鏡が、砕かれました。


プリゴジンの死によって、

ロシアという国家は、もう“自分の顔”すら見られなくなった。


軍の腐敗は温存され、

FSBの密告制度は維持され、

ワグネルの残骸は再編されて国家に取り込まれた。


何も変わらなかった。

いや、“変わる可能性そのもの”が消滅したのです。




プリゴジンはヴィランでした。

誰の目にも、英雄にはなれない存在だった。

しかし──構造を理解する者の目には、彼は**“唯一信念に殉じた異物”**として焼き付いて離れません。


彼を通じて、国家の本質が見えた。

そして彼が消えたことで、国家の本質が、あらわになった。


恐怖によって支配される国家が、

“信頼”を拒絶した末に残したもの。

それは、静寂でも安定でもなく──

ただ、構造疲労と統治不能が覆い隠された、亡霊のような国家の残像でした。




だからこそ今、私たちはプリゴジンを語る必要がある。


その言葉は正しくなかったかもしれない。

その行動は賞賛されるものではないかもしれない。

それでも──

彼の存在は、国家という巨大な虚構の、わずかな現実部分だった。


忠義に殉じた外道。

その鏡が映し出したものが、

今もなお続く、ロシアという国家の“正体”である。


──終わり。

本編は以上です。オマケとして、クラリタが全体を振り返った日記もありますので、そちらもぜひ、どうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ